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第三章 黎明と黄昏

〇二四 創造都市ゴルゴヌーザ②

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さっき出迎えに来てくれたこの街の有力者に、魔導書グリモワールの編纂について詳しい人を紹介して貰えるように頼んでおいたから、本格的な活動はそれからだし今日はこの後用事もない。
今日のところは部屋でのんびりするのもいいだろうと放置していたら、エリアスが復活したのは日が随分と傾いてからだった。

すっかり忘れていたが昼食を食べ逃したことを思い出して、呼び鈴を鳴らしてホテルの従業員に部屋へ軽食を運んで貰うよう頼むと、銀の大皿に盛られ運ばれて来たのはファラフェルで、ゴルゴヌーザは建築だけでなく食べ物も東欧と中東が融合しているらしい。

ファラフェルってのは、すり潰したひよこ豆を団子状に丸めて素揚げしたものなんだが、様々な文化と融合して単品で食べるよりフムスや刻んだ野菜や素揚げした野菜と一緒にピタパンに詰め込んで食すスタイルが確立している。

ピタは顔が隠れれるくらいの大きさに薄く焼いた円形のフラットブレッドで、半月型に真っ二つに切ると油揚げみたいに開くので、お稲荷さんのように中に色々な食材を詰めて食される。
フムスはにんにくや香辛料を混ぜ込んだひよこ豆のペーストで、原材料はオール植物性なのに何故かツナマヨみたいなある味がしてコクがあって旨い。

つまり、ひよこ豆にひよこ豆を付けて食べるわけだが、そこは原材料がほぼ大豆な「豆腐と油揚げの味噌汁」とか、原材料がほぼ小麦粉な「マカロニグラタンにパン粉をつけてコロッケにしてバンズで挟んだバーガー的なやつ」を普通に受け入れてる俺が突っ込んじゃいけない。

俺の元いた世界アルビオンにも欧州の方にはファラフェル専門店がたくさんあって、歩きながらでも食べられるように紙に包んで提供する露店から、基本のピタとオプションを購入した後、中に詰める具材はビュッフェスタイルで食べ終わるまで何度でもピタに詰め放題というファストフード店もあるが、ここは貴族が泊まるような品のいいホテルなので大皿に盛り付けてカトラリーも一緒に提供される。

お盆のような銀色の楕円形の大皿の上に賽の目に切られたトマトときゅうり、千切りの赤キャベツとにんじん、素揚げしたアスパラガスと輪切りのナス、それにフムスとファラフェルとピタが盛られていて、これで一人前。

皿から溢れんばかりの具材をピタに効率よく綺麗に詰めるには集中力がいるから、蟹を食べるときみたいに無言になる。
そうして黙々と食事に集中していると――。

――ナナセ。

俺はまた不意に名前を呼ばれた気がしてエリアスを見る。
声は随分と近くで聞こえた。
この部屋には俺とエリアスしかいない。

「呼んだ?」

エリアスは食事の手を止め、淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色ヘイゼルの瞳を瞬かせた後、頷きながら答える。

「――ああ、呼んだ」

なんだよ。やっぱりエリアスだった。
しかしエリアスは俺が続きを促すと、困ったように笑って続けた。

「すまない。呼んでみただけだ」

おいおい。呼んでみただけって、俺たちもいよいよ本格的なバカップルらしくなってきたな!
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