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第三章 黎明と黄昏
〇二三 ゆめかわなお菓子②
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俺がお礼を言って目を輝かせながらりんご飴を受け取るのを見て、エリアスは「釣りはいらない」と言って銀貨を渡していた。
りんご飴ひとつに銀貨一枚は、チップ込みだとしても流石に渡し過ぎじゃないかと思ったが、金を持ってる者は持っていない者に施しを与える義務があるっていう「貴族の義務」みたいなものかも知れないので黙っていることにする。
「ナナセがりんご飴をそんなに好きだったとは知らなかった。だったら夏の終わりにまた辺境伯領へ行かないか。前回は時期ではなかったが、その頃にはりんご飴の露店も出る」
そう提案されて、夏の気配がする頃エリアスの実家のブルーメンタール辺境伯領へ行った時のことを思い出す。
そういえば、この世界の果物は大抵マンモスサイズで、果実に比例して花までマンモスサイズなのだが、あの谷あいで見た林檎の花は俺の感覚でも常識的なサイズだった。
あの林檎の木は、このりんご飴に使ってるのと同じか近い品種なのかもしれない。
「それって、あの谷あいに群生してた林檎の木に生ったやつのか?」
「そうだ」
「行く行く! それ食いたい!」
「では約束だ。秋になれば狩猟のシーズンが始まるから、ナナセに鹿や雉をご馳走しよう」
本格的な狩猟料理か!
正直言って俺は、牛とか豚とか鶏とかポピュラーな家畜の肉の方が好きだ。
猪とか熊とかどんなに臭みを取る工夫をしてあっても、子羊レベルまでは取れないし、俺が中二病英才教育の一環として親父に連れて行かれて食った中で最強のラスボスは狸だった。臭いなんて生易しいものじゃない。口に入れても飲み込むことを本能が拒絶する。
まあ欧州では狸は幻想動物みたいな扱いだから、この世界にはいないだろう。
だからジビエって野趣に富んだというか、ぶっちゃけ獣臭いからあんまり好きじゃないんだけど、エリアスが狩るならまず散弾銃の弾とか無粋なものは入ってないだろうし、この世界のものだから野生動物もきっと旨いんだろうな。
「エリアスが狩るのか?」
「勿論だ。そうだな、鴨くらいなら狩りが初めてのナナセでも獲れると思うし、一緒にやってみるか?」
「マジで!? やりたい!」
その鴨って飼ってるやつを目の前に放して貰って獲るっていう暇を持て余した貴族の遊びだろ。知ってる。
野生動物は獲れる気がしないが、それなら俺にも出来そうだ。
「では約束だ」
俺よりエリアスの方が楽しみのような顔をしている。
エリアスは明らかにインドアの夜会よりアウトドアの狩り派だものな。分かりやすい。
俺は自然と顔がニヤけるのをりんご飴を齧って誤魔化す。
酸味のある青林檎はカラメルやチョコレートとの相性がばっちりで、アラザンと飴細工の歯触りが楽しくて旨かった。
りんご飴ひとつに銀貨一枚は、チップ込みだとしても流石に渡し過ぎじゃないかと思ったが、金を持ってる者は持っていない者に施しを与える義務があるっていう「貴族の義務」みたいなものかも知れないので黙っていることにする。
「ナナセがりんご飴をそんなに好きだったとは知らなかった。だったら夏の終わりにまた辺境伯領へ行かないか。前回は時期ではなかったが、その頃にはりんご飴の露店も出る」
そう提案されて、夏の気配がする頃エリアスの実家のブルーメンタール辺境伯領へ行った時のことを思い出す。
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「そうだ」
「行く行く! それ食いたい!」
「では約束だ。秋になれば狩猟のシーズンが始まるから、ナナセに鹿や雉をご馳走しよう」
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猪とか熊とかどんなに臭みを取る工夫をしてあっても、子羊レベルまでは取れないし、俺が中二病英才教育の一環として親父に連れて行かれて食った中で最強のラスボスは狸だった。臭いなんて生易しいものじゃない。口に入れても飲み込むことを本能が拒絶する。
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