異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第三章 黎明と黄昏

〇二一 ラップバトルが始まるわけではない①

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創造都市ゴルゴヌーザ行きには、従僕のエミールとヒューも同行することになった。
理由は荷物の中で服が異常にあるからだ。
この世界の貴族というものは寝間着を含めずに一日に最低三回は着替えるし、エリアスなんて一日のうちに五回も着替えたことがあるのを俺は知っている。

ゴルゴヌーザへ行くのには、ルヴァ魔導帝国の転移門を使わせて貰うから、勇者と聖者が揃って素通りということも出来ず、皇帝陛下の会食に招かれたり夜会が開かれたりするだろうとエリアスが言っていた。
それを聞いた俺が「楽しみだな!」って言ったらエリアスに物凄く驚かれたけど、この世界の食い物ホントに何でも旨いんだよ。
しかも皇帝との会食っていったら当然宮廷料理だろ?
期待が高まるのも致し方ない。
それに、夜会だってエリアスは嫌な思い出が多いみたいだが、まだ一度しか経験のない俺にはエリアスと一緒に初めて参加した楽しい思い出しかないからな。
また一緒に踊れるなんて俺には楽しみでしかない。
この旅の間にエリアスももっと楽しめるようになればいいんだけど。

話が逸れたが、会食にも夜会にもTPOに合わせたそれなりの衣装を用意する必要がある。
必然的に服の種類も量も膨れ上がり、ひとりでは維持も管理もしきれない。
そこで従僕が必要となるのだ。
普通はメイドも数人連れて行くそうだから、これでも随従の数は極端に少ないらしい。

転移門を使うときは、事前に転移先へ連絡をしておかなければならないという。
俺の親父が勝手に設置しちまったらしい俺ん家の物置やヴェイラ王都全体が転移門になってるなんてのは常識的にあり得ないことで、普通は城や宮殿の敷地内にしかないものだから、事前に連絡を入れるなんて言われてみれば当たり前のことだ。
ましてや、祝勝祭の前日に王都から消えて獣人領で勇者に保護されたり魔王に攫われたりで何かと巷を賑わせている俺と勇者が、表向きは旅行ということになっているが正規の手続きを踏んでルヴァを訪れるのだ。
ルヴァ側の準備もあるだろう。

そんなわけで来訪する日取りをルヴァ側と相談して決め、転移門に大荷物を積んでいざルヴァへと相成ったわけなのだが――。

「あれが聖者様か」
「噂には聞き及んでいたが噂以上だな」
「ヴェイラ王国のルートヴィヒ王太子殿下や獣人領のフリードリヒ陛下にも見初められたと聞いてどんな強かな子かと思えば、なんと可憐な……」
「魔王さえもイチコロだったらしいぞ」
「あんな子とお付き合いできるんだから勇者は得だよなあ」

――全部聞こえているが、大丈夫かルヴァ魔導帝国!

ヴェイラ王国からルヴァ魔導帝国への転移門を使用し、降り立った先で聞いた会話がこれである。
植物をモチーフにした曲線が優美なアール・ヌーボー建築の王宮で出迎えてくれたのは帝国の宰相と官僚と騎士たちだ。
前にも似たようなことがあったけど、騎士ってみんなこういうノリなのか?
だがシモネタが入ってないところが流石帝国騎士というべきだろう。
挨拶はエリアスに任せて、俺は「お世話になります」とだけ言って頭を下げた。

腰まであるウェービーな金髪を後ろでひとくくりにしてリボンで結び、顎には髪と同色の髭を蓄えた三十代前半と思われるダンディが、俺たちの身辺警護を務めてくれる第一師団ディビジョン竜騎兵ドラグナー連隊の隊長さんらしい。

ディビジョンといってもラップバトルが始まるわけではないし、竜騎兵はドラゴンに乗っているわけでもない。
師団は旅団より大きく軍団より小さい六〇〇〇から二〇〇〇〇人を有する部隊編成単位の一つで、竜騎兵は銃火器を装備した騎兵のことだ。
諸説あるが銃口が火を噴くことから同じく火を噴くドラゴンに例えられて竜騎兵と呼ばれる。
まあその辺はアルビオンの呼び方と変わらない。

本来であれば要人警護は近衛騎士団の役割だが、護衛対象に勇者が含まれるのでルヴァ最強の竜騎兵を付けたのだろう。
竜騎兵はヴェイラにもいるんだが、何かの式典でもないと拝む機会がないから俺はこんなに近くでは見たことがない。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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