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第三章 黎明と黄昏
〇二〇 そこにある月を指さすように
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「お手紙が届いていましたのでテーブルの上に置いておきました」
「うんわかった。ご苦労、ヒュー」
吃音症の振りをするのを止めたことを、ヒューは周囲に「聖者様に治癒して頂き、すっかり良くなりました」と説明したので勝手に俺の手柄になってしまい、みんなに良かった良かったと労われて居心地が悪いことこの上ない。
手紙はあしながおじさんからだった。
先日、凄い誕プレを貰ってしまったので御礼状を送ったらすぐに返事がきて、それからずっとおじさんとはペンパルかよって頻度で手紙のやり取りをしている。
御礼状の返事が課題の進捗を確認する内容だったものだから、難航していること正直に伝えた上で、俺としては何か取っ掛かりが貰えないかとおじさんから情報を引き出そうとしているだけなんだけど、そんな文通状態をエリアスは余り宜しく思っていない。
「またか。毎度お暇なことだな。返信など『恙無く』と一言書いて送っておけばいいだろう」
エリアスは俺が机に向かっているときは大抵苛々している。
基本的にエリアスは構ってちゃんだからな。
俺が黙っているとつまらないのだろう。
「そう言う訳にはいかないだろ」
エリアスだったら黙っていても絵になるから何時までだって見ていられるけど、俺じゃあ間が持たない。
二目と見られないほど醜いわけじゃないが、何時までも眺めて愛でるのに耐える類の造作をしているわけでもない、所詮フツメンの擬人化だ。
「それで今度は一体何用なんだ?」
「ああうん。魔導書編纂のヒントになるようなことが何かないか訊いてみたんだけど、その返事がね……」
おじさんの手紙には、長い時候の挨拶や日常の徒然を延々と綴られた後に一言、こう書いてあったのだ。
――考えるのではない。感じなさい。
某香港映画かよ!
でもおじさん、あの映画観てないな。
あの科白には続きがあって、中二病の俺的には後半のが良いんだよ。
だから実際にあの映画を観ていたら後半の科白も書いてくるはずだ。
――考えるな、感じるんだ。ただ、そこにある月を指さすように。
そして、「指に気を取られていてはその先にあるものは見えない」と続く。
この言葉は曹洞宗を日本で広めた道元の禅問答が元になっている。
な? 後半があった方が絶対いいだろ?
中二病の真髄は元ネタへの理解と追求だからな。
で、その言葉を今の俺の状況に当て嵌めて考えると、「編纂する手段ばかり考えていては魔導書の概要は見えない」ということだろう。
もしかしたら俺は何か大きな見当違いをしていたのかも知れない。
「俺、やっぱりゴルゴヌーザへ行ってみようと思うんだ」
それは図書館へ行って以来、ずっと考えていたことだ。
「そうか。それもいいかもしれないな。王都は戴冠式の準備でこれからもっと慌ただしくなる。喧騒から抜け出してゆっくり羽を伸ばそう」
エリアスには難色を示されると思っていたからあっさり同意を得られて拍子抜けだった。
旅先であんまりイチャついてるわけにもいかないんだがな。
ついでに課題やレポートを提出しないと単位が貰えず、単位が貰えない生徒には留年という制度があり卒業できないかも知れないと教えたら、結婚するのは卒業後という約束だったのでエリアスは俄然協力的になった。
大学入学一年目にして突然異世界転移しちまったし、俺はてっきり留年してるものだと思ってたけど、実は俺がしてたのは異世界ホームステイで認定留学扱いになっていたので、単位を落とさず順調にいけばあと三年で卒業できるだろう。
そっか、後三年したら俺、エリアスと結婚するのか。うわ……。
俺がひとりで動揺して赤くなったり青くなったりしていると、エリアスは何を勘違いしたのか俺の手を取って両手で包み込みながら言う。
「心配するな。ナナセは私が護る」
……おまっ、マジそういうとこだからな!
「うんわかった。ご苦労、ヒュー」
吃音症の振りをするのを止めたことを、ヒューは周囲に「聖者様に治癒して頂き、すっかり良くなりました」と説明したので勝手に俺の手柄になってしまい、みんなに良かった良かったと労われて居心地が悪いことこの上ない。
手紙はあしながおじさんからだった。
先日、凄い誕プレを貰ってしまったので御礼状を送ったらすぐに返事がきて、それからずっとおじさんとはペンパルかよって頻度で手紙のやり取りをしている。
御礼状の返事が課題の進捗を確認する内容だったものだから、難航していること正直に伝えた上で、俺としては何か取っ掛かりが貰えないかとおじさんから情報を引き出そうとしているだけなんだけど、そんな文通状態をエリアスは余り宜しく思っていない。
「またか。毎度お暇なことだな。返信など『恙無く』と一言書いて送っておけばいいだろう」
エリアスは俺が机に向かっているときは大抵苛々している。
基本的にエリアスは構ってちゃんだからな。
俺が黙っているとつまらないのだろう。
「そう言う訳にはいかないだろ」
エリアスだったら黙っていても絵になるから何時までだって見ていられるけど、俺じゃあ間が持たない。
二目と見られないほど醜いわけじゃないが、何時までも眺めて愛でるのに耐える類の造作をしているわけでもない、所詮フツメンの擬人化だ。
「それで今度は一体何用なんだ?」
「ああうん。魔導書編纂のヒントになるようなことが何かないか訊いてみたんだけど、その返事がね……」
おじさんの手紙には、長い時候の挨拶や日常の徒然を延々と綴られた後に一言、こう書いてあったのだ。
――考えるのではない。感じなさい。
某香港映画かよ!
でもおじさん、あの映画観てないな。
あの科白には続きがあって、中二病の俺的には後半のが良いんだよ。
だから実際にあの映画を観ていたら後半の科白も書いてくるはずだ。
――考えるな、感じるんだ。ただ、そこにある月を指さすように。
そして、「指に気を取られていてはその先にあるものは見えない」と続く。
この言葉は曹洞宗を日本で広めた道元の禅問答が元になっている。
な? 後半があった方が絶対いいだろ?
中二病の真髄は元ネタへの理解と追求だからな。
で、その言葉を今の俺の状況に当て嵌めて考えると、「編纂する手段ばかり考えていては魔導書の概要は見えない」ということだろう。
もしかしたら俺は何か大きな見当違いをしていたのかも知れない。
「俺、やっぱりゴルゴヌーザへ行ってみようと思うんだ」
それは図書館へ行って以来、ずっと考えていたことだ。
「そうか。それもいいかもしれないな。王都は戴冠式の準備でこれからもっと慌ただしくなる。喧騒から抜け出してゆっくり羽を伸ばそう」
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旅先であんまりイチャついてるわけにもいかないんだがな。
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そっか、後三年したら俺、エリアスと結婚するのか。うわ……。
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