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第三章 黎明と黄昏
〇一九 目標と手段②
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「ありがとう! すげえもん見れた!」
本当に凄かった。
俺個人の純粋な好みでいえば、こういう魔導書より「ヴォイニッチ手稿」や「レヒニッツ写本」みたいなのがいい。
「コデックス・セラフィニアヌス」や「竹内文書」みたいに、それっぽく作られたものも好きだ。
だけど違う。
俺が探しているのはそういう本じゃない。
確かに珍しくはあるけど、そういったものを作っても「魔導書を編纂せよ」という課題には提出は出来ない。
多分、求められているのは剣と魔法のこの世界の本物の魔導書なのだ。
それには本物の魔導書とはどういうものなのか知る必要がある。
「アルビオンのじゃなくて、この世界で編纂された魔導書ってないのか?」
すると館長はまたもや無言でルートヴィヒ殿下を見て判断を仰ぐ。
「構わん。見せてやれ」
すました顔でそう答えたルートヴィヒ殿下は機嫌は悪くなさそうなんだけど、なるほどな。
王家としてあんまり積極的に見せたくないものらしい。
まずはアルビオンの魔導書だけ見せて俺が満足するようなら、それでお茶を濁そうとしていたんだろう。
「それでは少々お待ちを」
館長が助手の職員らしき者を連れて書庫へ消え、暫くして二人掛かりで出してきたのは矢鱈とでかい上製本だった。
開いたら畳一畳分くらいの面積になるんじゃないだろうか。
型押しされた革の表紙は黒ずんでいて元は何色だったのか分からないほど古い。
装飾のついた金属製の文字を鋲で直接打ち付けたタイトルは、古語なのか専門用語なのか、俺の知らない単語だったので残念ながら読めそうになかった。
極めつけに全ての辺に金属の枠が取り付けられていて、縦横に何重にも複雑な歯車が組み合わさった鍵が掛かっている。
そう、これだよこれ!
俺が求めてたのはこういうのだよ!
中二心が迸るぜ!
俺が目を輝かせているのを見て、ルートヴィヒ殿下は得意げに解説してくれた。
「これは実践的な四大精霊の魔法について纏められた魔導書の中でも世界最古のものだ。古語で書かれているからナナセにはまだ難しいだろう」
鍵を全部開けて中を見せてくれたけど、俺にはさっぱり読めず、見かねたルートヴィヒ殿下が少し音読してくれた。
内容は華やかな詩みたいな感じでやっぱりよく分からない。
ていうか、俺が四大精霊の魔法を使えないの知ってて、敢えてこれをチョイスしたんだろ。
やっぱり見せたくないものだったんだな。
その証拠に、本からは触るのが恐ろしいほどの何かの波動を感じた。
多分これが魔力というものなのだろう。
エリアスなんかは他人の魔力を敏感に察知するけど、俺は治癒や転移魔法を使うときに自分の魔力の流れみたいなものを感じる程度で、意識してどうこうできる気がしないし、ましてや他人の魔力をそうと感じ取れたのも恐らくこれが初めての経験だ。
しかもこの魔導書は魔法を行使している訳ではない状態でこれって、本文に書かれて魔法を実際行使したらどうなるか末恐ろしい。
「ところでナナセはどのような魔導書を編纂するつもりだ?」
それなんだよな。
いざ魔導書を編纂するとなると、やっぱり好きなもので尚且つそれなりの知識があるものでないと。
つまり、俺の場合は金属しかない。
「まだ朧げにしか決めてないんだけど、金属について纏めたいと思ってるんだ」
金属という属性が存在しないこの世界では、未だ手付かずの分野ではある。
機械化工業が発展していないのは金属の精霊の力を使役出来ないせいもあるかも知れない。
鍛冶や彫金など魔法を使った金属工業もあるにはあるが、火の精霊に拠るところが大きいし、オリハルコンについての魔導書だって存在しないんだから、言ってみれば前人未到の領域だろう。
「ほう。聖者のメダイユのような魔力を蓄積する金属か?」
「実際どうなるかは俺にもよくわかんない。ホントにまだぼんやりとしか決めてないんだ」
「そうか。この本は役に立ちそうか?」
「うん。どういうものを作ればいいかはなんとなく方向性だけは分かった。けど、具体的にどんなものになるかとか、どうやって編纂すればいいのかまでは……」
「なるほど。目指すべき『目標』が見えなければ、そこに至る『手段』も見えんか。となると、それこそ創造都市ゴルゴヌーザへ行けば或いは……」
ゴルゴヌーザ!
それは周囲を永久の死の国に囲まれながらも、総ての人間の芸術と創造を象徴する都市の名で、ロス――ゾアの最初の一人、北の宇宙ウルソナから分裂した人格――の支配する地にあるという。
確かにそんなところへ行けば、目標と手段についての知識が得られるかもしれない。
あしながおじさんから腕輪を貰った時、ロスという地が実在していて、その腕輪があれば行けることもエリアスから聞いて知っている。
でもまさか創造都市ゴルゴヌーザまで実在してるっていうのかよ。
本当に凄かった。
俺個人の純粋な好みでいえば、こういう魔導書より「ヴォイニッチ手稿」や「レヒニッツ写本」みたいなのがいい。
「コデックス・セラフィニアヌス」や「竹内文書」みたいに、それっぽく作られたものも好きだ。
だけど違う。
俺が探しているのはそういう本じゃない。
確かに珍しくはあるけど、そういったものを作っても「魔導書を編纂せよ」という課題には提出は出来ない。
多分、求められているのは剣と魔法のこの世界の本物の魔導書なのだ。
それには本物の魔導書とはどういうものなのか知る必要がある。
「アルビオンのじゃなくて、この世界で編纂された魔導書ってないのか?」
すると館長はまたもや無言でルートヴィヒ殿下を見て判断を仰ぐ。
「構わん。見せてやれ」
すました顔でそう答えたルートヴィヒ殿下は機嫌は悪くなさそうなんだけど、なるほどな。
王家としてあんまり積極的に見せたくないものらしい。
まずはアルビオンの魔導書だけ見せて俺が満足するようなら、それでお茶を濁そうとしていたんだろう。
「それでは少々お待ちを」
館長が助手の職員らしき者を連れて書庫へ消え、暫くして二人掛かりで出してきたのは矢鱈とでかい上製本だった。
開いたら畳一畳分くらいの面積になるんじゃないだろうか。
型押しされた革の表紙は黒ずんでいて元は何色だったのか分からないほど古い。
装飾のついた金属製の文字を鋲で直接打ち付けたタイトルは、古語なのか専門用語なのか、俺の知らない単語だったので残念ながら読めそうになかった。
極めつけに全ての辺に金属の枠が取り付けられていて、縦横に何重にも複雑な歯車が組み合わさった鍵が掛かっている。
そう、これだよこれ!
俺が求めてたのはこういうのだよ!
中二心が迸るぜ!
俺が目を輝かせているのを見て、ルートヴィヒ殿下は得意げに解説してくれた。
「これは実践的な四大精霊の魔法について纏められた魔導書の中でも世界最古のものだ。古語で書かれているからナナセにはまだ難しいだろう」
鍵を全部開けて中を見せてくれたけど、俺にはさっぱり読めず、見かねたルートヴィヒ殿下が少し音読してくれた。
内容は華やかな詩みたいな感じでやっぱりよく分からない。
ていうか、俺が四大精霊の魔法を使えないの知ってて、敢えてこれをチョイスしたんだろ。
やっぱり見せたくないものだったんだな。
その証拠に、本からは触るのが恐ろしいほどの何かの波動を感じた。
多分これが魔力というものなのだろう。
エリアスなんかは他人の魔力を敏感に察知するけど、俺は治癒や転移魔法を使うときに自分の魔力の流れみたいなものを感じる程度で、意識してどうこうできる気がしないし、ましてや他人の魔力をそうと感じ取れたのも恐らくこれが初めての経験だ。
しかもこの魔導書は魔法を行使している訳ではない状態でこれって、本文に書かれて魔法を実際行使したらどうなるか末恐ろしい。
「ところでナナセはどのような魔導書を編纂するつもりだ?」
それなんだよな。
いざ魔導書を編纂するとなると、やっぱり好きなもので尚且つそれなりの知識があるものでないと。
つまり、俺の場合は金属しかない。
「まだ朧げにしか決めてないんだけど、金属について纏めたいと思ってるんだ」
金属という属性が存在しないこの世界では、未だ手付かずの分野ではある。
機械化工業が発展していないのは金属の精霊の力を使役出来ないせいもあるかも知れない。
鍛冶や彫金など魔法を使った金属工業もあるにはあるが、火の精霊に拠るところが大きいし、オリハルコンについての魔導書だって存在しないんだから、言ってみれば前人未到の領域だろう。
「ほう。聖者のメダイユのような魔力を蓄積する金属か?」
「実際どうなるかは俺にもよくわかんない。ホントにまだぼんやりとしか決めてないんだ」
「そうか。この本は役に立ちそうか?」
「うん。どういうものを作ればいいかはなんとなく方向性だけは分かった。けど、具体的にどんなものになるかとか、どうやって編纂すればいいのかまでは……」
「なるほど。目指すべき『目標』が見えなければ、そこに至る『手段』も見えんか。となると、それこそ創造都市ゴルゴヌーザへ行けば或いは……」
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でもまさか創造都市ゴルゴヌーザまで実在してるっていうのかよ。
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