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第三章 黎明と黄昏
〇一七 勘は良くないのに嗅覚は鋭い①
しおりを挟む村人視点
「えいっ!えいっ!」
僕の名前はポッコ。狼人族だ。僕は立派な戦士になるために、今日もこうしてトレーニングをしている
「うん。いい太刀筋だ」
そして彼女の名前はルルルゥ。族長の娘で先祖返りをした白い毛並みと強い体を持つ。僕の1歳年上のやさしい彼女は、こうして毎日のように僕に訓練をつけてくれていた
僕は密かにルルルゥに恋心をいだいており、彼女との訓練の時間をいつも楽しみにしている。いつか僕は最強の戦士になりルルルゥに告白したい。そんなことを妄想していた
「ポッコはこれから強くなれるよ」
「ありがとうございます!」
そしてこの村には一人、旅人が滞在している。彼の名前はユーリさん。彼も僕の1つ年上で、すっごく強い
村の大人たちでも手を焼いていたドギャンボアをなんと、ルルルゥとパーティーを組みたった二人で倒してしまったのだ
これには村人みんなが大歓迎だった。近頃、ドギャンボアには作物を荒らされており、みんな困っていたからだ
いつか僕もユーリさんやルルルゥみたいに強くなりたい。そしてルルルゥと結ばれるんだ。僕はそれを目標にして、今日も訓練を頑張る
……。
……。
……。
「えいっ!えいっ!」
今日も僕はこうしてトレーニングをしている。いつものように、ルルルゥも僕の訓練を見てくれていた
でもいつもと違うのは、今日のルルルゥは何だか熱っぽい感じだ。彼女は瞳を少しだけトロンとさせていて、頬も心なしか火照っている
そして、彼女の体からは発情したメスの臭いがしていた。僕は他の狼人族より鼻が強く、匂いに敏感なのだ
でも僕はそんなことを彼女に指摘しない。さすがにデリカシーがなさすぎる。でも、発情しちゃったルルルゥとエッチな関係になっちゃうってのも男の夢かもしれないな。いや。だめだ、僕!しっかりしろ!
「ルルルゥ。体調が悪そうだけど大丈夫?」
「ああ、すまない。なんだか今日は熱っぽくてな。ユーリが回復魔法を使えるらしいから、彼に頼んでみるよ」
そう言うとルルルゥはポーっとした顔のまま、村の外れにあるユーリが滞在している空き家へと向かっていく
僕は一瞬不安に襲われたが、さすがにルルルゥがほぼ見ず知らずの旅の人に肌を許すなんてあり得ない。彼女は多くの狼人族のアタックを断ってきた鉄壁の女性なのだ
そういえばもうすぐ村の祭りがある。祭りの日に結ばれた恋人は幸せになれる。そんな言い伝えが古くからあり、祭りの日には数多くのカップルが誕生していた
「今年は思い切って、ルルルゥをデートに誘ってみようかな。なんてね」
僕は淡い恋心を抱きながら、今日も訓練を続けていく
……。
……。
……。
「えいっ!えいっ!」
今日はルルルゥが訓練に来なかった。まあ彼女にも用事があるのだろう。今日の僕は一人で寂しく訓練をすることにする
「ふー。」
一通り訓練を終えて家に帰る途中、ポーっとした顔で歩くルルルゥを見かける。彼女に出会って嬉しくなった僕がルルルゥに話しかけると、今日も彼女は発情した体臭をまとわせながら、頬を赤く火照らせていた
「ルルルゥ、大丈夫?」
「あ、ああ……。昨日はユーリに回復魔法を掛けてもらったらだいぶ体調が良くなったから、今からまた彼にお願いをしに行くところなんだ」
発情期というものは獣人の女性にとっては大変なものらしい。そう聞いたことがある。僕は男だから分からないけど、そういうものなんだと自分を納得させる
「ルルルゥにはいつもお世話になってるから、何かあったらいつでも僕に頼ってよ」
「ありがとう。ポッコは頼もしいな」
ルルルゥに頼もしいとお世辞を言われた僕は舞い上がりながら家に帰る。やっぱり、今年の祭りはルルルゥをデートに誘おう。勇気を出すんだ。僕に一つ目標が出来た
「こうしちゃいられないな!トレーニングを増やそう!」
さらに強くなるために僕は走り込みをすることにする。家に帰った僕はまたすぐに部屋を飛び出すと、トレーニングを再開した
長い時間村の中の走り回りへとへとになった頃、僕は村の外れにあるユーリさんが滞在している空き家の近くへとたどり着く
「ユーリさんいるかな?」
僕は彼に挨拶をしようと家の扉をノックする。するとユーリさんが家の中から出てきた
「やあポッコ。どうしたの?」
「いや、ちょっと近くを通ったから挨拶でもと……」
「そうなんだ。ありがとう!」
ユーリさんと話をしていると、彼が滞在している家の中からルルルゥの強い体臭が風にのって流れてくる。先程までルルルゥがこの家に滞在をしていた証だ
僕の部屋にも、いつかルルルゥの臭いが染み付く関係になれればいいなぁ。そんなことを考えながら、僕はユーリさんとの会話を終え、家路についた
……。
……。
……。
もう三日も連続でルルルゥが訓練に来ていない。彼女の体調は思わしくないようだ。心配になった僕はルルルゥの家にお見舞いに行くことにする
訓練を終えた僕がルルルゥの家を尋ねると、彼女は出かけた後のようだった。体調が悪いわけではないらしい
三日後には村の祭りが控えているから、ルルルゥは色々と準備で忙しいのかもしれない。そういえば、僕も親に今日は早く帰ってこいと言われてたっけ
急いで家に帰る途中、ルルルゥとすれ違う。今日も彼女は頬を火照らせていた。最近の彼女はいつもボッーっとしている。ルルルゥに話を聞くと、やはり彼女は祭りの準備で忙しいらしい
最近ルルルゥとはすれ違いが増えていることを寂しく思いながらも、僕も祭りの準備を手伝うために家に帰る。早く祭りの日が来ないかな。そしてルルルゥをデートに誘うんだ。僕は決意を新たにした
……。
……。
……。
「えいっ!えいっ!」
村の祭りを翌日に控えた日に、今日も僕は剣のトレーニングをしていた。今日もルルルゥは訓練に来ていない。でもいいんだ。明日僕はルルルゥをデートに誘う。彼女に会えない日々が、僕に勇気を出させてくれた
「明日、絶対にルルルゥをデートに誘うぞ!」
僕の剣を握る力が強くなる。僕は彼女に似合う男になるために、今日も剣を振るった
……。
……。
……。
そして祭りの日が来た。僕は浮足立つ村の中でキョロキョロとしながらルルルゥを探した。祭りの日に乗じて彼女をデートに誘おうとしている何人もの村の男達が、ルルルゥを探しているのが分かる
しかし僕がどれだけ村の中を探しても、ルルルゥは見つからなかった。彼女を探しているうちに日が暮れて、ついには夜になる。それでもルルルゥは見つからない
もしかしてルルルゥは他の男と……。そんな不安に押しつぶされながらも、彼女を探すことを諦めた僕はトボトボと家に帰ることにした。もうすぐ深夜になってしまう。流石にタイムリミットだ
明日になったらまた、いつものように彼女は僕の訓練を見に来てくれる。そうしたらまた元通りの関係だ。そう信じて
……。
……。
……。
「さようなら。ポッコ」
翌日、ルルルゥはユーリとともに村から旅立っていった。昨夜、彼女に何があったのか。僕には分からない
いつものように訓練をしている僕に旅立ちの挨拶をしにきてくれたルルルゥの股間からは、ユーリさんの体臭が漂っていた
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