異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第三章 黎明と黄昏

〇一六 その吃音症は演技だろう①

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この世界の本は基本的に全て魔法による手作りである。
印刷するための道具をわざわざ作り出さずとも、文字や絵は魔法で転写出来てしまうので、機械化する必要がないのだ。
それだけでなく、本には大なり小なりだいたい何かの魔法が掛かっていて、印刷機では魔法が掛けられないからという理由のほうが大きいだろう。

例えば初級魔法の本なら呪文によって発動する練習用の魔法陣が展開するし、娯楽小説では吟遊詩人の登場シーンで音楽が流れ、図鑑では動植物の葉や体毛などが組み込まれていて生きている姿をそのままに留めた幻影を浮かび上がらせ隈なく観察することが出来るのだ。
そんなのと比べたら、ウィキペディアだって太刀打ちできない。

ただ、物や植物のように単純なものだけでなく人や動物まで収めることの出来る魔法士は非常に稀少らしい。
その結果、この世界では医学は余り発達していないが、薬学が異常に発達していて、俺の元いた世界のこちらでの呼び名アルビオンのそれを遥かに凌駕している。
その最たるものがポーションだ。同じものをアルビオンの化学で作ろうとすれば、技術が到達するまで後数百年は掛かるだろう。

魔法によって作られたそれらの本は、一度に数千から数万冊と大量に作る人もいれば一冊しか作らない人もいるが、手作りである以上、アルビオンで普通に売られている本とは比べようもなく貴重なものである。
貴重なものであるからこそ、本は財産として大切にされ、最初の所有者が亡くなった後も次々に人の手を渡り受け継がれてゆく。
だが、幾ら貴重で魔法が掛かっているからといって、それらはただの本であり何か特別な力を持った魔導書グリモワールという訳ではない。

そしてここからがこの世界の本の真骨頂なのだが、本は所有者の手によって新たな情報を書き加えたり魔法を追加されることがあり、それらは全て本の中に蓄積されるのだ。
本はそうやって年月を経て数多の人の手を渡り、幾度も魔法を掛けられ強力になり、やがて魔導書と呼ばれるものへと成長してゆく。
つまりすべての本は魔導書になる可能性を秘めているといっても過言ではない。

その辺りは、俺が真鍮からオリハルコンを作ったときと同じで、まずは元になる本の内容が重要となってくる。
俺はオリハルコンを作るとき、最も効率よく魔力を吸収する金属としても真鍮を選んだ。
しかし、本ならば、所有者が独自の研究結果や魔法を新たに追加しやすい学術書や研究書なんかが適しているということになるだろう。
逆に、娯楽小説や詩集に自分で何かを書き加えて魔法を追加しようなんて思う無粋な者はそういないだろうから、そういったものは魔導書になる可能性は低い。

いずれにせよ気の遠くなるような年月と人の手が必要となってくるだろう。
どう考えても俺一代では到底成し得ない。
それを踏まえて俺はこの課題を、基盤になる本を編纂しろという意味に解釈している。

あしながおじさんからの誕プレは、今俺たちが存在するこの世界――現象界ウルロなら何処へでも行ける腕輪と「魔導書を編纂せよ」っていうとんでもない課題だったが、そもそも俺は本物の魔導書というものを見たことがないという話に戻るわけだ。
完成された魔導書の実物を見てみないことには、どこから手を付けていいかも分からない。

「魔導書なら王宮の図書館が所蔵している。殿下に閲覧申請すればすぐにも許可が降りるだろう」

――というエリアスの助言に従って、俺は早速ルートヴィヒ殿下に王宮の図書館で魔導書を見せて貰えないだろうかという旨の手紙を書いた。

「ほ、他に用事はありませんか?」

ルートヴィヒ殿下への手紙を王宮の侍従に預けて戻ってきたばかりのヒューにそう訊かれて、少し考える。
俺の従僕のヒューは黒髪碧眼の少年で、魔王城で俺の世話係をしていたが、魔物の襲撃を受けた農村出身で、魔族に脅されていたとはいえ俺を罠に掛けて魔族に攫わせる手助けをしたという少し複雑な経歴の持ち主だ。

誕プレの仕分けも終わっているし、殿下に手紙も出した。
あとは殿下からの返事待ちで、さしあたって急ぎの用はない。
ここには今、エリアスもその従僕のエミールもいるし、その辺りの込み入った話をするには丁度いいだろう。
俺、エリアスにはもう隠し事をしたくないんだ。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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