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第三章 黎明と黄昏
〇一五 お高いんでしょう?①
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バースデーカードに「魔導書を編纂せよ」という課題を付けて寄越した、あしながおじさんからの誕生日プレゼントは、バングルタイプの腕輪だった。
瑠璃色の天鵞絨が敷かれた小箱から取り出してみれば、それは細かな彫金が施された幅の広い蒲鉾型の黄金の板をCの字の形に曲げた腕輪で、中央にはドーム型のカボションカットの透き通った無色の宝石がひとつ填められている。
金属部分は、この色とこの重さは多分純金だが、石や彫金の価値を抜きにして、単純に黄金の量だけを金貨に換算すれば十数枚程度だろう。
高いといえば高いが、意外と普通だ。
でも、あのおじさんはそういう普通の贈り物をしそうにない。
なんか曰くつきのヤベーもんな気がする。
根拠はないが自信はあるぞ。
「ナナセ、それを見せて貰ってもいいか」
俺が訝しんでいるのを汲んでか、エリアスが横から身を乗り出してきた。
差し出した腕輪を受け取ったエリアスは裏側を確認して、そこに彫られた四つの輪とその中心に重ねられた卵型の意匠を俺に見せる。
どこかで見た気がするが、俺にはそれが何を意味する意匠なのか分からなかったので首を傾げていると、エリアスが説明してくれた。
「これはルヴァ魔導帝国の総ての転移門の使用を許可する通行証だ。裏側にこの世界の略図の意匠が彫られているから、文字通り世界中何処へでも行ける」
思い出した!
確かにこの四つの円と卵側の円は、私塾で習ったゾアの世界図だ!
本に載ってる世界図は周りに炎が描き込まれていて、もっとおどろおどろしい印象だったけど、これはシンボリックな略図なので、シンプルに円が五つ重なっているだけだった。
エリアスの説明では、これは主に大使や領事といった東西南北の宇宙間を頻繁に行き来する者に与えられる腕輪なのだという。
例えば、東の宇宙ルヴァ内だけなら、裏側に彫られた意匠はルヴァを表す円一つだけだし、大抵は円は一個か二個で、卵型の円まで刻まれたものはエリアスも初めて見たそうだ。
「待ってくれよ。この右の円が『東の宇宙ルヴァ』だろ? で、左が『西の宇宙サーマス』、下が『南の宇宙ユリゼン』、上が『北の宇宙ウルソナ』、四つの宇宙に自由に行けるってとこまではいい。でも円は五つあるぞ。異世界は含まれていないからアルビオンじゃないのは分かる。だとすると、この五つ目の卵型の円は『ロス』ってことになるんだが……」
「ロス」とはゾアの最初の一人、「北の宇宙ウルソナ」から分裂した人格であり、彼が支配している地の名称でもある。
「ロス」にあると言われている「創造都市ゴルゴヌーザ」は芸術と創造を象徴する都市でありながら、周囲を「永遠の死の国」に囲まれているという。
――ゴルゴ……言うなよ?
その先の二桁の数字は絶対に言うなよ?
俺だって我慢してるんだからな。
しかし、こっちへ来て一年ちょっとの俺の知る限り、少なくとも「ロス」から来た人も、行ったことがある人もお目に掛かったことはないし、私塾で質問しただけで子供たちに笑われてその日の授業自体が有耶無耶になってしまった。
だから俺は今まで「ロス」は、神話の中にしか存在しない伝説の地なんだと思ってたんだが、ここに「ロス」を表す卵型の円が刻まれているってことは、まさか実在するっていうのか?
「如何にも。それは『ロス』で間違いない。近衛隊に在籍していたときは要人警護任務で世界中あちこち出向いたが、『ロス』だけは私もまだ行ったことがない」
エリアス、近衛隊にいたことあるのかよ。
今初めて知ったよ。
近衛隊って見た目も重視されるから、エリアスが配属されるのは納得だ。
俺の婚約者になってることほどのミステリーではない。
なんでこんなイケメンが俺にベタ惚れなんだか、未だ解明されてないもんな。
それはさておき、今の問題は「ロス」だ。
ロサンゼルスとは訳が違うぞ。
「『ロス』って実在するのか!?」
「勿論だ。人も住んでいるし、貿易もしている」
「そうなのか。俺はてっきり神話の中にしか登場しない都市なのかと思ってたぜ。エリーは『ロス』から来た人に会ったことあるのか?」
「どうだろう。どこかで会っていたとしても、その者が『ロス』から来たと自ら吹聴することはまずないから気付くはずもない」
「そっか。とにかく、俺がこれを持ってルヴァに行ったら『ロス』への転移門を使わせて貰えるんだよな?」
俺の問いかけにエリアスは黙って頷く。
「でも通行料、お高いんでしょう?」
「この腕輪を持っている者から通行料など取れるわけないだろう。寧ろ国賓扱いだ」
マジか!
実質じゃなく本当に無料!?
瑠璃色の天鵞絨が敷かれた小箱から取り出してみれば、それは細かな彫金が施された幅の広い蒲鉾型の黄金の板をCの字の形に曲げた腕輪で、中央にはドーム型のカボションカットの透き通った無色の宝石がひとつ填められている。
金属部分は、この色とこの重さは多分純金だが、石や彫金の価値を抜きにして、単純に黄金の量だけを金貨に換算すれば十数枚程度だろう。
高いといえば高いが、意外と普通だ。
でも、あのおじさんはそういう普通の贈り物をしそうにない。
なんか曰くつきのヤベーもんな気がする。
根拠はないが自信はあるぞ。
「ナナセ、それを見せて貰ってもいいか」
俺が訝しんでいるのを汲んでか、エリアスが横から身を乗り出してきた。
差し出した腕輪を受け取ったエリアスは裏側を確認して、そこに彫られた四つの輪とその中心に重ねられた卵型の意匠を俺に見せる。
どこかで見た気がするが、俺にはそれが何を意味する意匠なのか分からなかったので首を傾げていると、エリアスが説明してくれた。
「これはルヴァ魔導帝国の総ての転移門の使用を許可する通行証だ。裏側にこの世界の略図の意匠が彫られているから、文字通り世界中何処へでも行ける」
思い出した!
確かにこの四つの円と卵側の円は、私塾で習ったゾアの世界図だ!
本に載ってる世界図は周りに炎が描き込まれていて、もっとおどろおどろしい印象だったけど、これはシンボリックな略図なので、シンプルに円が五つ重なっているだけだった。
エリアスの説明では、これは主に大使や領事といった東西南北の宇宙間を頻繁に行き来する者に与えられる腕輪なのだという。
例えば、東の宇宙ルヴァ内だけなら、裏側に彫られた意匠はルヴァを表す円一つだけだし、大抵は円は一個か二個で、卵型の円まで刻まれたものはエリアスも初めて見たそうだ。
「待ってくれよ。この右の円が『東の宇宙ルヴァ』だろ? で、左が『西の宇宙サーマス』、下が『南の宇宙ユリゼン』、上が『北の宇宙ウルソナ』、四つの宇宙に自由に行けるってとこまではいい。でも円は五つあるぞ。異世界は含まれていないからアルビオンじゃないのは分かる。だとすると、この五つ目の卵型の円は『ロス』ってことになるんだが……」
「ロス」とはゾアの最初の一人、「北の宇宙ウルソナ」から分裂した人格であり、彼が支配している地の名称でもある。
「ロス」にあると言われている「創造都市ゴルゴヌーザ」は芸術と創造を象徴する都市でありながら、周囲を「永遠の死の国」に囲まれているという。
――ゴルゴ……言うなよ?
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しかし、こっちへ来て一年ちょっとの俺の知る限り、少なくとも「ロス」から来た人も、行ったことがある人もお目に掛かったことはないし、私塾で質問しただけで子供たちに笑われてその日の授業自体が有耶無耶になってしまった。
だから俺は今まで「ロス」は、神話の中にしか存在しない伝説の地なんだと思ってたんだが、ここに「ロス」を表す卵型の円が刻まれているってことは、まさか実在するっていうのか?
「如何にも。それは『ロス』で間違いない。近衛隊に在籍していたときは要人警護任務で世界中あちこち出向いたが、『ロス』だけは私もまだ行ったことがない」
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