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第三章 黎明と黄昏
〇一四 魔導書を編纂せよ
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ヴェイラの襲撃を受けた誕生日の翌日、俺は隊舎の自室で誕生日プレゼントの開封作業と整理に追われていた。
「こ、これで最後です」
隊舎の一階に届けられていた贈り物の箱を持ってきてくれたのは、魔物に襲撃された農村で俺が助けた少年、ヒューだ。
孤児となったヒューは、事情聴取もあったので白騎士隊預かりとなり、俺が従僕として雇っている。
ヒューはエリアスの従僕のエミールに師事すると一度教わっただけですぐに仕事を覚えてしまうので、エミールを以てして「扱き甲斐がある」と不穏なことを言わしめたくらいだった。
「ありがとう、ヒュー。こっちにくれ」
「は、はい」
俺はヒューが持ってきた贈り物の箱を受け取った。
他にもローテーブルの上には色も形も様々な贈り物の山がジェンガみたいに積み上げられている。
これらの荷物は全て俺の誕生日プレゼントだ。
この世界ではエリアスくらいにしか教えていない俺の誕生日なんて個人情報がどこから漏れたのかと言うと、勿論、他ならぬエリアスその人からだった。
異世界には、求婚するとき婚約指輪なるものを贈る慣習があるらしいとの情報をエリアスに齎したのは、騎士団の別の隊の隊長らしく、その隊長も又聞きだったため、ニュースソースの伯爵だか公爵だかの子息を呼び出し、材質はプラチナにダイヤモンドが一般的だが相手の好みが最優先だとか、予算は給料の三か月分だとか、大抵は相手の誕生日に指輪を携えて求婚するものだとかいうことまで詳しく訊いたという経緯があったのだそうだ。
斯くして俺の誕生日は騎士団のみならず、宮廷に出入りする貴族たちまでにも知れ渡ることとなり、貴族というのは矢鱈と贈り物をしたがるもので、俺の部屋のテーブルにバースデープレゼントの山が出来るに至ったのである。
宮廷のコンプライアンスどうなってんだよ。
だがしかし、それでなくてもかなり前からウキウキソワソワしていて、一体誰の誕生日か分からない状態だったエリアスをどうやったら俺が責められるというのか。
俺の誕生日がエリアスをそれほどまでに幸せに出来るのなら、一年三六五日毎日誕生日だって構わない。
例え毎日プレゼントの山と格闘することになってもだ。
そんなわけで、一方的に送り付けられた物は全部寄付してしまうにしても、御礼状くらいは送っておかないとならないだろう。
俺はエリアスに色々教えて貰いながら、黙々と贈り物と送り主の名前を紙に書きつけていく。
ここのところは、兎に角暇だった先日までとは打って変わって忙しくしているので、日常生活の細々としたことを金銭契約で心置きなく頼める者がいるのは有難い限りだ。
そうして俺は最後の贈り物の箱の開封に取り掛かった。
さっきヒューが持ってきたものだが、添えられていた封筒の差出人名を見て思わず声を上げる。
「これ、あしながおじさんからだ……!」
忙しなく封蝋を割って封を開けると、中には二つ折りのバースデーカードが入っていて、「お誕生日おめでとう」という文句の下に、提出したレポートの出来に対する評価と次の課題が、少し癖があるが流麗な文字で記されていた。
「また何か言ってきたのか」
「うん、次の課題だって。でもこれって――」
何て説明していいか分からなかったので戸惑いつつカードを広げて見せてやると、エリアスは一度さっと目を通してから声に出してそれを読んだ。
「――魔導書を編纂せよ」
魔導書って!?
俺、そんなもん実物を見たことすらねーよ!?
見たことないものを作れって、無理難題過ぎない!?
第一、俺は治癒魔法と転移魔法がチョットデキルだけだし、この世界の四大精霊も力を貸せないって、昨晩ヴェイラに明言されたんだせ!?
「贈り物のほうにヒントが隠されているんじゃないのか」
それだ!
エリアスの言葉にハッとした俺は、あしながおじさんからの誕プレのリボンを解いた。
「こ、これで最後です」
隊舎の一階に届けられていた贈り物の箱を持ってきてくれたのは、魔物に襲撃された農村で俺が助けた少年、ヒューだ。
孤児となったヒューは、事情聴取もあったので白騎士隊預かりとなり、俺が従僕として雇っている。
ヒューはエリアスの従僕のエミールに師事すると一度教わっただけですぐに仕事を覚えてしまうので、エミールを以てして「扱き甲斐がある」と不穏なことを言わしめたくらいだった。
「ありがとう、ヒュー。こっちにくれ」
「は、はい」
俺はヒューが持ってきた贈り物の箱を受け取った。
他にもローテーブルの上には色も形も様々な贈り物の山がジェンガみたいに積み上げられている。
これらの荷物は全て俺の誕生日プレゼントだ。
この世界ではエリアスくらいにしか教えていない俺の誕生日なんて個人情報がどこから漏れたのかと言うと、勿論、他ならぬエリアスその人からだった。
異世界には、求婚するとき婚約指輪なるものを贈る慣習があるらしいとの情報をエリアスに齎したのは、騎士団の別の隊の隊長らしく、その隊長も又聞きだったため、ニュースソースの伯爵だか公爵だかの子息を呼び出し、材質はプラチナにダイヤモンドが一般的だが相手の好みが最優先だとか、予算は給料の三か月分だとか、大抵は相手の誕生日に指輪を携えて求婚するものだとかいうことまで詳しく訊いたという経緯があったのだそうだ。
斯くして俺の誕生日は騎士団のみならず、宮廷に出入りする貴族たちまでにも知れ渡ることとなり、貴族というのは矢鱈と贈り物をしたがるもので、俺の部屋のテーブルにバースデープレゼントの山が出来るに至ったのである。
宮廷のコンプライアンスどうなってんだよ。
だがしかし、それでなくてもかなり前からウキウキソワソワしていて、一体誰の誕生日か分からない状態だったエリアスをどうやったら俺が責められるというのか。
俺の誕生日がエリアスをそれほどまでに幸せに出来るのなら、一年三六五日毎日誕生日だって構わない。
例え毎日プレゼントの山と格闘することになってもだ。
そんなわけで、一方的に送り付けられた物は全部寄付してしまうにしても、御礼状くらいは送っておかないとならないだろう。
俺はエリアスに色々教えて貰いながら、黙々と贈り物と送り主の名前を紙に書きつけていく。
ここのところは、兎に角暇だった先日までとは打って変わって忙しくしているので、日常生活の細々としたことを金銭契約で心置きなく頼める者がいるのは有難い限りだ。
そうして俺は最後の贈り物の箱の開封に取り掛かった。
さっきヒューが持ってきたものだが、添えられていた封筒の差出人名を見て思わず声を上げる。
「これ、あしながおじさんからだ……!」
忙しなく封蝋を割って封を開けると、中には二つ折りのバースデーカードが入っていて、「お誕生日おめでとう」という文句の下に、提出したレポートの出来に対する評価と次の課題が、少し癖があるが流麗な文字で記されていた。
「また何か言ってきたのか」
「うん、次の課題だって。でもこれって――」
何て説明していいか分からなかったので戸惑いつつカードを広げて見せてやると、エリアスは一度さっと目を通してから声に出してそれを読んだ。
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それだ!
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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