異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
146 / 266
第三章 黎明と黄昏

〇一四 魔導書を編纂せよ

しおりを挟む
ヴェイラの襲撃を受けた誕生日の翌日、俺は隊舎の自室で誕生日プレゼントの開封作業と整理に追われていた。

「こ、これで最後です」

隊舎の一階に届けられていた贈り物の箱を持ってきてくれたのは、魔物に襲撃された農村で俺が助けた少年、ヒューだ。
孤児となったヒューは、事情聴取もあったので白騎士隊預かりとなり、俺が従僕として雇っている。
ヒューはエリアスの従僕のエミールに師事すると一度教わっただけですぐに仕事を覚えてしまうので、エミールを以てして「扱き甲斐がある」と不穏なことを言わしめたくらいだった。

「ありがとう、ヒュー。こっちにくれ」
「は、はい」

俺はヒューが持ってきた贈り物の箱を受け取った。
他にもローテーブルの上には色も形も様々な贈り物の山がジェンガみたいに積み上げられている。
これらの荷物は全て俺の誕生日プレゼントだ。

この世界ではエリアスくらいにしか教えていない俺の誕生日なんて個人情報がどこから漏れたのかと言うと、勿論、他ならぬエリアスその人からだった。
異世界には、求婚するとき婚約指輪エンゲージリングなるものを贈る慣習があるらしいとの情報をエリアスに齎したのは、騎士団の別の隊の隊長らしく、その隊長も又聞きだったため、ニュースソースの伯爵だか公爵だかの子息を呼び出し、材質はプラチナにダイヤモンドが一般的だが相手の好みが最優先だとか、予算は給料の三か月分だとか、大抵は相手の誕生日に指輪を携えて求婚するものだとかいうことまで詳しく訊いたという経緯があったのだそうだ。
斯くして俺の誕生日は騎士団のみならず、宮廷に出入りする貴族たちまでにも知れ渡ることとなり、貴族というのは矢鱈と贈り物をしたがるもので、俺の部屋のテーブルにバースデープレゼントの山が出来るに至ったのである。
宮廷のコンプライアンスどうなってんだよ。

だがしかし、それでなくてもかなり前からウキウキソワソワしていて、一体誰の誕生日か分からない状態だったエリアスをどうやったら俺が責められるというのか。
俺の誕生日がエリアスをそれほどまでに幸せに出来るのなら、一年三六五日毎日誕生日だって構わない。
例え毎日プレゼントの山と格闘することになってもだ。

そんなわけで、一方的に送り付けられた物は全部寄付してしまうにしても、御礼状くらいは送っておかないとならないだろう。
俺はエリアスに色々教えて貰いながら、黙々と贈り物と送り主の名前を紙に書きつけていく。

ここのところは、兎に角暇だった先日までとは打って変わって忙しくしているので、日常生活の細々としたことを金銭契約で心置きなく頼める者がいるのは有難い限りだ。

そうして俺は最後の贈り物の箱の開封に取り掛かった。
さっきヒューが持ってきたものだが、添えられていた封筒の差出人名を見て思わず声を上げる。

「これ、あしながおじさんからだ……!」

忙しなく封蝋シーリングワックスを割って封を開けると、中には二つ折りのバースデーカードが入っていて、「お誕生日おめでとう」という文句の下に、提出したレポートの出来に対する評価と次の課題が、少し癖があるが流麗な文字で記されていた。

「また何か言ってきたのか」
「うん、次の課題だって。でもこれって――」

何て説明していいか分からなかったので戸惑いつつカードを広げて見せてやると、エリアスは一度さっと目を通してから声に出してそれを読んだ。

「――魔導書グリモワールを編纂せよ」

魔導書って!?
俺、そんなもん実物を見たことすらねーよ!?
見たことないものを作れって、無理難題過ぎない!?
第一、俺は治癒魔法と転移魔法がチョットデキルだけだし、この世界の四大精霊も力を貸せないって、昨晩ヴェイラに明言されたんだせ!?

「贈り物のほうにヒントが隠されているんじゃないのか」

それだ!
エリアスの言葉にハッとした俺は、あしながおじさんからの誕プレのリボンを解いた。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...