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第三章 黎明と黄昏
〇〇九 約束されたメリーバッドエンドの剣②
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それらの集大成というべき、一文字に十五通りの読み方をさせた文章もある。
生花を生甲斐にした生え抜きの生娘
生絹を生業に生計立てた
生い立ちは生半可ではなかった
生憎生前は生まれてこのかた
生涯通して生粋の生だった
これはネイティブな日本人には難なく読めるが、外国人には難しい文章として有名だ。
そしてこの豊富な読み方を持つ日本語には、訓読みが矢鱈長い漢字というものも存在する。
漢字検定一級内で例を挙げれば「蔘」が最長だが、漢検協会発行の漢検要覧に掲載されていないもので有名なところでは「閄」と書いて「ものかげからきゅうにとびだしてひとをおどろかせるときにはっするこえ」と読ませるものまである。
「熄」と「覇」もその一種だ。
如何にも中二病の俺が大好きそうなやつだろう。
これらは一見ふざけた当て字のようだが、常用漢字表外の訓読みと言う。
熄と覇――どっちもマイナーっていうかネガティブな印象を持たれがちだが、俺とエリアスにとっては希望に満ちた意味を持つ。
終熄させることが出来るなら、もう何も怖がる必要はないのだから。
きっと、名前の意味なんて俺たち二人だけが分かっていればいい。
「覇を背負うためのベルトを誂えなくてはな。両手が塞がってしまうと不便だろう」
熄を鞘に納めたエリアスが、今度は俺の手から覇を取りあげ、ベッドの脇に熄と並べて置きながら独り言のように呟いた。
この杖でかいから持ち運び大変そうだなってのもあるけど、多分手を繋ぐためだ。
魔王の呪いの一件以来、俺たちは出歩くときも寝る時も大抵手を繋いでいるからな。
ヴェイラの登場で、なんだかいきなり物凄く濃ゆい二十歳の誕生日になっちまったけど、俺たちを邪魔する者は今日はもうこれ以上訪れないだろう。
今日は始まったばかりで、俺たちはまだ恋人らしいことを実質何もしていない。
エリアスが俺のバスローブの胸の合わせから手を入れて、胸元から肩を撫でるように脱がせて袖を落とした。
エロい脱がせ方しやがって。
こういうの、どこで覚えてくるんだろ。
ヴェイラは元カノじゃなかったけど、元カノ若しくは元カレともこういうことをしてたんだろうかというどす黒い感情が俺の中に湧き上がる。
……まあ、当然してただろうな。こんなイケメンだし。
刹那、胸の奥がチクリと痛んだ。
まただ。
ヤベエ、俺、嫉妬してる。
生花を生甲斐にした生え抜きの生娘
生絹を生業に生計立てた
生い立ちは生半可ではなかった
生憎生前は生まれてこのかた
生涯通して生粋の生だった
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そしてこの豊富な読み方を持つ日本語には、訓読みが矢鱈長い漢字というものも存在する。
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終熄させることが出来るなら、もう何も怖がる必要はないのだから。
きっと、名前の意味なんて俺たち二人だけが分かっていればいい。
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