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第三章 黎明と黄昏
〇〇九 約束されたメリーバッドエンドの剣①
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多分、今の説明でエリアスは「熄」に込めた俺の想いを理解してくれたようだ。
その証拠に、嬉しいような、悲しいような、何とも言えない表情をしている。
まあ、言ってみれば「約束されたメリーバッドエンドの剣」だからな。
こういうのは核兵器と同じで、持っていても使わないことで最大の威力を発揮する。
メリバ目的で使う機会が訪れないことを祈るまでだ。
「――ウズミビ、どういう字だ?」
以前、エリアスの名前にも漢字の当て字を付けたことがあったから今度も漢字を期待しているのだろう。
エリアスは不意に立ち上がって俺に向き直ると、神妙な面持ちで聖剣を引き抜いて、フェンシングの礼のように剣を身体の前で垂直に立てた。
その剣身には俺には読めない光る文字が青白く浮かび上がっている。
「……えっと、字はこう書く……」
そんな大袈裟なと思いながらも、エリアスの綺麗な所作に俺も慌てて立ち上がり、書くものがなかったのでエリアスに分かるかどうか疑問だったが咄嗟に空中に指で「熄」と書く――と、不思議なことに俺が空中に書いた文字が一角ごとに青白い光となって剣身に刻まれていったのだ。
今の、何だ!?
俺は何もしてないぞ!?
エリアスが何かしたのか!?
いや、何かしたとしたら聖剣の方か……!?
「熄」
剣身に新たに浮かび上がった青白い「熄」という文字に俺が呆気に取られている間に、エリアスが再び聖剣の新しい名を呼び、剣身がそれに呼応するかのように震えて音を響かせた。
な、何が起こっているんです……?
「良い名をありがとう、ナナセ。感謝する」
「う、うん……どういたしまして」
なんか凄い瞬間に居合わせた気がするし、凄いもんを見た気がするけど、エリアスは平然と現実を受け入れてるし、まあなんだ、とりあえず気に入って貰えたなら良かったと思うことにする。
エリアスが若干、剣身に格好良い漢字が付いて喜んでる外人さんに見えなくもないけど、若干な、若干。
「熄と覇、案外相性いいかもな」
「その、ツキノクライブブン――とは、不思議な響きだが、どういう意味だ?」
いつぞやの「キャトられる」と、さっきの「チンダル現象」に続いて、今の「覇」が、またしてもエリアスの興味を惹いたようで、俺は意味をルヴァの公用語で説明した。
「『月の暗い部分』って意味」
漢字は中国から渡って来たものだが、それまで日本に文字はなくとも日常的に話す言葉は元々あったので、一つの字でも中国語に近い読み方を音読み、日本語の読み方を訓読みとし、一文字に複数の読み方が存在するという全世界の人類史上でも稀少な言語体系が生まれた。
例えば「火」という音読みの漢字が中国から入ってくる以前から、物質の急激な酸化によって発生する現象としての火そのものは日本にもあり「ヒ」と呼ばれていたので、「火」という漢字を「ヒ」という日本語の話し言葉の単語に当てはめて訓読みとしたのだ。
ちな、二字熟語の頭の文字を音読みにして後ろの文字を訓読みにする重箱読みや、その逆の湯桶読みというものも存在するから更にややこしい。
その証拠に、嬉しいような、悲しいような、何とも言えない表情をしている。
まあ、言ってみれば「約束されたメリーバッドエンドの剣」だからな。
こういうのは核兵器と同じで、持っていても使わないことで最大の威力を発揮する。
メリバ目的で使う機会が訪れないことを祈るまでだ。
「――ウズミビ、どういう字だ?」
以前、エリアスの名前にも漢字の当て字を付けたことがあったから今度も漢字を期待しているのだろう。
エリアスは不意に立ち上がって俺に向き直ると、神妙な面持ちで聖剣を引き抜いて、フェンシングの礼のように剣を身体の前で垂直に立てた。
その剣身には俺には読めない光る文字が青白く浮かび上がっている。
「……えっと、字はこう書く……」
そんな大袈裟なと思いながらも、エリアスの綺麗な所作に俺も慌てて立ち上がり、書くものがなかったのでエリアスに分かるかどうか疑問だったが咄嗟に空中に指で「熄」と書く――と、不思議なことに俺が空中に書いた文字が一角ごとに青白い光となって剣身に刻まれていったのだ。
今の、何だ!?
俺は何もしてないぞ!?
エリアスが何かしたのか!?
いや、何かしたとしたら聖剣の方か……!?
「熄」
剣身に新たに浮かび上がった青白い「熄」という文字に俺が呆気に取られている間に、エリアスが再び聖剣の新しい名を呼び、剣身がそれに呼応するかのように震えて音を響かせた。
な、何が起こっているんです……?
「良い名をありがとう、ナナセ。感謝する」
「う、うん……どういたしまして」
なんか凄い瞬間に居合わせた気がするし、凄いもんを見た気がするけど、エリアスは平然と現実を受け入れてるし、まあなんだ、とりあえず気に入って貰えたなら良かったと思うことにする。
エリアスが若干、剣身に格好良い漢字が付いて喜んでる外人さんに見えなくもないけど、若干な、若干。
「熄と覇、案外相性いいかもな」
「その、ツキノクライブブン――とは、不思議な響きだが、どういう意味だ?」
いつぞやの「キャトられる」と、さっきの「チンダル現象」に続いて、今の「覇」が、またしてもエリアスの興味を惹いたようで、俺は意味をルヴァの公用語で説明した。
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ちな、二字熟語の頭の文字を音読みにして後ろの文字を訓読みにする重箱読みや、その逆の湯桶読みというものも存在するから更にややこしい。
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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