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第三章 黎明と黄昏
〇〇七 質の高いチンダル
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「俺が治癒するとき、チンダル現象みたいな光が出るの、闇魔法なのになんで光が出るのか不思議だったんだけど、そういうことだったのか……」
「チンダル……?」
今まで黙って聞いていたエリアスが妙なところで口を挟んできた。
その顔と声でチンダル言うな。
二十年間生きて来て、そんな質の高いチンダル初めて聞いたぞ。
エリアスは世の中の大抵のことには余り興味を抱かないが、俺が口にした途端に興味が湧いてくるらしい。
全く興味を持たないよりは喜ばしいことなんだが、つい先日も魔王に掛けられた呪いが解けて記憶が戻ってから、「キャトられる」とはどういう意味かしつこく聞かれたことを思い出して恥ずかしくなる。
あのときのことは恥ずかしいから思い出したくないし、説明するのはもっと恥ずかしいのにさ。
しかもエリアスは俺が答え難いことも分かってるから、そういうことを訊いてくるときは大体ベッドの上で焦らしながら訊くんだ。
そんで俺はとろとろに蕩けて使い物にならない頭を必死に働かせて答えるまでイかせて貰えない。
それに比べれば今この場で訊かれる方が全然マシではある。
「チンダル現象ってのはほら、森の中で木漏れ日が射してると光の柱みたいなのが見えるだろ? あれのことだよ。あと雲の切れ間から射す天使の梯子――こっちではヤコブの梯子かな――それも薄明光線って言ってチンダル現象の一種だな」
ちな、薄暗い部屋に窓から光が射し込んで、埃みたいなのがキラキラ舞ってるのが見えるのは幾何反射というまた別の現象だ。
「ナナセの治癒術の方がチンダル現象より美しい」
エリアスは口元に得意げな笑みを浮かべて誇らしそうに胸を張る。
エリアスは聖剣に選ばれた勇者様だし、騎士団の精鋭部隊の隊長だし辺境伯の子息だし、顔もいいし頭もいいし財産も地位も名誉もあるハイスペイケメンで、他に幾らでも自慢することなんてあるだろうに、それでも誇らし気に話すのは専ら俺についてのどうでもいいようなことだ。
嬉しいか嬉しくないかと言えば、嬉しいには違いないんだが、その内容が悉く俺にとっては到底自慢できるようなことではないためどうにも居た堪れない。
「それよりヴェイラ先輩。聖属性が異世界から持ち込まれたってことは、エリーの聖剣もですか?」
「そうよ。聖属性の道具も生き物もみんなそう」
「じゃあ、理論上は五行もこの世界で使えるってことですか?」
「それは間違いなく精霊戦争が勃発するわね」
「精霊戦争」
「『聖』は、火・水・木・土のような相互関係には当てはまらなかったから精霊たちと共存することが出来たけど、奔放な精霊たちが聖者君に与すことができないということは、ゴギョウはそうではないということなのよ」
なるほど、五行の火・水・木・金・土は、四大精霊の火・水・木・土と被ってるから、外来種が生態系を荒らすような事態になってしまうのか。
それは困る。
もしかしたら俺も攻撃魔法が使えるかと思ったんだけど、浅慮過ぎた。
五行の金は八卦で天と沢を表す。
使えたらちょっと強そうなのに残念だ。
俺ががっかりしているのを見かねてヴェイラが心配そうに慰めてくれる。
「でも聖者君てば、精霊を力を借りずとも、オリハルコンの錬成に成功したじゃない」
そう言われて、ベッドの脇に置かれていたエリアスの聖剣に視線をやると、エリアスも聖剣を手に取って頷いた。
「あれ、やっぱりオリハルコンなんですか? 本物を見たことがなかったから、ちゃんと出来てるのかどうかも分からなくて」
「出来てる出来てる。ちゃんと出来てるわよ」
そっか。俺、オリハルコンの錬成に成功したんだ。
ヴェイラのお墨付きを頂いた。
そう思うと気分が浮上してくる。
それに今はヴェイラに貰った格好良い杖もあるじゃないか。
俺は嬉しくなって杖を両手で高く掲げた。
「これ、黒くて丸い珠が付いてるから『覇』って名前にします」
名前は直感で決めた。
月の暗い部分なんて名前、一見ネガティブなイメージだけど、ヴェイラから光と闇の話を聞いた後だと印象がずいぶんと変わってくる。
付けてから気付いたけど、寧ろ光と闇が表裏一体の闇魔法にぴったりの名前じゃないかこれ。
今まで何の道具も使わずに治癒術出来てたから疑問にも思わなかったけど、そういえばこの世界の魔法士ってみんな杖を持っていた気がする。
俺の役に立つって治癒が強力になるとか、広範囲になるとかって事かも知れないしもしかしてこれ、魔法のステッキ的なやつか!
しかし、俺が杖の使い方を詳しく訊こうと視線を戻した刹那、ヴェイラはにっこり笑って掻き消えるようにいなくなった。
そして後にはヴェイラの声だけが響く。
「精霊の加護がないこの世界でも聖者君は金属と相性が飛び抜けて良いみたいだから、そのルヴァの金属から出来た杖がきっと役に立ってくれると思うわ」
まって♡
この杖の金属、ルヴァの燃え滓なのかよ!?
それって、この宇宙と同じもので出来てるってことじゃあ……。
思わず杖から手を離してしまったが、杖が床に倒れる前にエリアスが横から掴んで俺の手に持ち直させてくれた。
ああ、ありがとな……。
「チンダル……?」
今まで黙って聞いていたエリアスが妙なところで口を挟んできた。
その顔と声でチンダル言うな。
二十年間生きて来て、そんな質の高いチンダル初めて聞いたぞ。
エリアスは世の中の大抵のことには余り興味を抱かないが、俺が口にした途端に興味が湧いてくるらしい。
全く興味を持たないよりは喜ばしいことなんだが、つい先日も魔王に掛けられた呪いが解けて記憶が戻ってから、「キャトられる」とはどういう意味かしつこく聞かれたことを思い出して恥ずかしくなる。
あのときのことは恥ずかしいから思い出したくないし、説明するのはもっと恥ずかしいのにさ。
しかもエリアスは俺が答え難いことも分かってるから、そういうことを訊いてくるときは大体ベッドの上で焦らしながら訊くんだ。
そんで俺はとろとろに蕩けて使い物にならない頭を必死に働かせて答えるまでイかせて貰えない。
それに比べれば今この場で訊かれる方が全然マシではある。
「チンダル現象ってのはほら、森の中で木漏れ日が射してると光の柱みたいなのが見えるだろ? あれのことだよ。あと雲の切れ間から射す天使の梯子――こっちではヤコブの梯子かな――それも薄明光線って言ってチンダル現象の一種だな」
ちな、薄暗い部屋に窓から光が射し込んで、埃みたいなのがキラキラ舞ってるのが見えるのは幾何反射というまた別の現象だ。
「ナナセの治癒術の方がチンダル現象より美しい」
エリアスは口元に得意げな笑みを浮かべて誇らしそうに胸を張る。
エリアスは聖剣に選ばれた勇者様だし、騎士団の精鋭部隊の隊長だし辺境伯の子息だし、顔もいいし頭もいいし財産も地位も名誉もあるハイスペイケメンで、他に幾らでも自慢することなんてあるだろうに、それでも誇らし気に話すのは専ら俺についてのどうでもいいようなことだ。
嬉しいか嬉しくないかと言えば、嬉しいには違いないんだが、その内容が悉く俺にとっては到底自慢できるようなことではないためどうにも居た堪れない。
「それよりヴェイラ先輩。聖属性が異世界から持ち込まれたってことは、エリーの聖剣もですか?」
「そうよ。聖属性の道具も生き物もみんなそう」
「じゃあ、理論上は五行もこの世界で使えるってことですか?」
「それは間違いなく精霊戦争が勃発するわね」
「精霊戦争」
「『聖』は、火・水・木・土のような相互関係には当てはまらなかったから精霊たちと共存することが出来たけど、奔放な精霊たちが聖者君に与すことができないということは、ゴギョウはそうではないということなのよ」
なるほど、五行の火・水・木・金・土は、四大精霊の火・水・木・土と被ってるから、外来種が生態系を荒らすような事態になってしまうのか。
それは困る。
もしかしたら俺も攻撃魔法が使えるかと思ったんだけど、浅慮過ぎた。
五行の金は八卦で天と沢を表す。
使えたらちょっと強そうなのに残念だ。
俺ががっかりしているのを見かねてヴェイラが心配そうに慰めてくれる。
「でも聖者君てば、精霊を力を借りずとも、オリハルコンの錬成に成功したじゃない」
そう言われて、ベッドの脇に置かれていたエリアスの聖剣に視線をやると、エリアスも聖剣を手に取って頷いた。
「あれ、やっぱりオリハルコンなんですか? 本物を見たことがなかったから、ちゃんと出来てるのかどうかも分からなくて」
「出来てる出来てる。ちゃんと出来てるわよ」
そっか。俺、オリハルコンの錬成に成功したんだ。
ヴェイラのお墨付きを頂いた。
そう思うと気分が浮上してくる。
それに今はヴェイラに貰った格好良い杖もあるじゃないか。
俺は嬉しくなって杖を両手で高く掲げた。
「これ、黒くて丸い珠が付いてるから『覇』って名前にします」
名前は直感で決めた。
月の暗い部分なんて名前、一見ネガティブなイメージだけど、ヴェイラから光と闇の話を聞いた後だと印象がずいぶんと変わってくる。
付けてから気付いたけど、寧ろ光と闇が表裏一体の闇魔法にぴったりの名前じゃないかこれ。
今まで何の道具も使わずに治癒術出来てたから疑問にも思わなかったけど、そういえばこの世界の魔法士ってみんな杖を持っていた気がする。
俺の役に立つって治癒が強力になるとか、広範囲になるとかって事かも知れないしもしかしてこれ、魔法のステッキ的なやつか!
しかし、俺が杖の使い方を詳しく訊こうと視線を戻した刹那、ヴェイラはにっこり笑って掻き消えるようにいなくなった。
そして後にはヴェイラの声だけが響く。
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思わず杖から手を離してしまったが、杖が床に倒れる前にエリアスが横から掴んで俺の手に持ち直させてくれた。
ああ、ありがとな……。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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