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第三章 黎明と黄昏
〇〇二 住んでる部屋まで事故物件①
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今日のためにエリアスが用意してくれた酒は、以前、獣人領の夜会で飲み損なったスパークリングワインだ。
エリアスはいつぞやの失った記憶を取り戻したとき封を開けるのに使った投擲用のナイフをまたどこかから取り出してボトルに施された金属箔を切り、その下のワイヤーとコルク栓のミュズレを慣れた手つきで器用に緩めていく。
そのままボトル内の炭酸ガスを抜いてる様子だったので貴族らしくお上品に音を立てずにお行儀よく開けるのかとちょっと残念に思いながら見ていたら、単に勢いを調整していただけらしく、ポンと小気味の良い音を立ててコルク栓を俺のいるベッドの天蓋の中に飛ばしてくれた。
やっぱこういう祝い事のときは派手に音を立てて飛ばさないとだよな。
育ちが良くて品行方正なエリアスがあまりお行儀のよろしくないことをしてるのが可笑しくて俺が笑い転げながら天蓋に当たって落ちてきたコルク栓をキャッチするとエリアスも珍しく声をあげて笑っていた。
それからエリアスはベッドの縁に斜めに腰掛けて、見惚れるような貴公子然とした仕草でスパークリングワインを二脚の背の高いチューリップ型のグラスに注いでひとつを俺に寄越して縁をかちりと軽く打ち合わせる。
「おめでとうナナセ」
このイケメン、何をやっても様になるのにこういう格好良いことをさりげなくするからな。
一口も飲んでないのに顔が火照てってくるのを誤魔化すようにグラスに口を付けて傾けると泡が水面にハート型に立ち上っていることに気付く。
しかもよく見ると泡の一つ一つまでもが球状ではなく小さなハート型になっている。
「ハート型の泡だ!」
スパークリングワイン専用のグラスには、スパークリングポイントっていって泡を絶え間なく立ち上らせるためにグラスの底にわざと傷をつけてあるものがあり、アルビオンにも小さな硝子の突起をハート型に付けているものがあるけど、泡は途中で形が崩れて歪に中央に固まって浮くだけでこんな風に綺麗なハート形にはならないし、そもそも泡の一つ一つがハート型になるなんてことはないからきっと魔法の仕業なのだろう。
次から次へと憎い演出しやがって。
これらは全部俺を喜ばせようとして準備してたんだよな。
エリアス、どんだけ俺のこと考えてるんだよ。
顔だけじゃなく目頭まで熱くなるのを感じて、俺は慌ててハート型の泡ごとグラスの中身を飲み干した。
初めて飲んだ異世界のスパークリングワインは、美味しくて飲みやすくて、俺はぐびぐびいってしまったが、二人で半分くらい開けたところでエリアスにグラスを取り上げられてしまう。
俺は炭酸が抜けてしまうから飲み切ってしまおうと思っていたのに、エリアス曰く、スパークリングワインを一晩で飲み切ってしまうのは無粋なことらしい。
良いスパークリングワインは夜に栓を開けても朝まで炭酸が抜けず、俗にいう「天使の囁き」がシュワシュワと聞こえるという。
この発泡酒が特に恋人たちに好まれる理由はそこにある。
夜に二人で開けたスパークリングワインを朝にまた一緒に飲むということは、一晩一緒に過ごすという意味も含まれるのだ。
蒸留酒は身体を酔わせ、こういった醸造酒は脳を酔わせるという。
だが俺が酔っているとしたら酒にじゃなくてエリアスに酔っているんだろう。
ベッドの上に仰向けに寝かされて、いつも以上に甘くてうっとりするようなエリアスの口付けを受けながら目を閉じようとすると、不図、ベッドの天蓋から何かが垂れ下がっているのが視界の端に入った。
それは草か何かの束のようにも見えるし、人間の髪のようにも見える。
根元を辿るように視線を上げれば、丁度、天蓋の上から逆さまに頭を突き出してこちらを覗き込んでいる土気色の顔をした長い亜麻色の髪の女と目が合った――。
エリアスはいつぞやの失った記憶を取り戻したとき封を開けるのに使った投擲用のナイフをまたどこかから取り出してボトルに施された金属箔を切り、その下のワイヤーとコルク栓のミュズレを慣れた手つきで器用に緩めていく。
そのままボトル内の炭酸ガスを抜いてる様子だったので貴族らしくお上品に音を立てずにお行儀よく開けるのかとちょっと残念に思いながら見ていたら、単に勢いを調整していただけらしく、ポンと小気味の良い音を立ててコルク栓を俺のいるベッドの天蓋の中に飛ばしてくれた。
やっぱこういう祝い事のときは派手に音を立てて飛ばさないとだよな。
育ちが良くて品行方正なエリアスがあまりお行儀のよろしくないことをしてるのが可笑しくて俺が笑い転げながら天蓋に当たって落ちてきたコルク栓をキャッチするとエリアスも珍しく声をあげて笑っていた。
それからエリアスはベッドの縁に斜めに腰掛けて、見惚れるような貴公子然とした仕草でスパークリングワインを二脚の背の高いチューリップ型のグラスに注いでひとつを俺に寄越して縁をかちりと軽く打ち合わせる。
「おめでとうナナセ」
このイケメン、何をやっても様になるのにこういう格好良いことをさりげなくするからな。
一口も飲んでないのに顔が火照てってくるのを誤魔化すようにグラスに口を付けて傾けると泡が水面にハート型に立ち上っていることに気付く。
しかもよく見ると泡の一つ一つまでもが球状ではなく小さなハート型になっている。
「ハート型の泡だ!」
スパークリングワイン専用のグラスには、スパークリングポイントっていって泡を絶え間なく立ち上らせるためにグラスの底にわざと傷をつけてあるものがあり、アルビオンにも小さな硝子の突起をハート型に付けているものがあるけど、泡は途中で形が崩れて歪に中央に固まって浮くだけでこんな風に綺麗なハート形にはならないし、そもそも泡の一つ一つがハート型になるなんてことはないからきっと魔法の仕業なのだろう。
次から次へと憎い演出しやがって。
これらは全部俺を喜ばせようとして準備してたんだよな。
エリアス、どんだけ俺のこと考えてるんだよ。
顔だけじゃなく目頭まで熱くなるのを感じて、俺は慌ててハート型の泡ごとグラスの中身を飲み干した。
初めて飲んだ異世界のスパークリングワインは、美味しくて飲みやすくて、俺はぐびぐびいってしまったが、二人で半分くらい開けたところでエリアスにグラスを取り上げられてしまう。
俺は炭酸が抜けてしまうから飲み切ってしまおうと思っていたのに、エリアス曰く、スパークリングワインを一晩で飲み切ってしまうのは無粋なことらしい。
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