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第二章 魔王復活
〇二〇 「神でも悪魔でもいい」② ※エリアス視点 【第二章 魔王復活 完】
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話が逸れたな。
ヒューの話に戻ろう。
しかし、私は結果的に、ヒューがナナセの従僕に就くことを許した。
その最たる理由は、ヒューがナナセに心酔しているという一点に尽きる。
ヒューはナナセに一度命を救われているが、それが恋に発展したとして、何ら不思議はない。
命の恩を命で返すのは、一般人には難しいが、恋ならばいざというときナナセのために命を投げ打つことも容易いだろう。
あれでも、時間稼ぎくらいにはなるかも知れない。
死線を潜り抜けてきた経験から言えば、いつも、生死を分かつのは時間にして数秒だ。
ヴェイラ王国第二王子ルートヴィヒ殿下に、獣人領の王フリードリヒ陛下に、魔王、加えてあの「あしながおじさん」といい、ナナセは厄介なものを矢鱈と引き寄せる。
いや、それを言えば私が一番厄介なのだろうが、今のところナナセの愛を勝ち得ているのは私なので、私は除外させて貰おう。
そしてそんな厄介な輩と比べれば、ヒューなど私が恐れるに足りない小物だ。
取るに足らない小物だとは分かっているが、ヒューがナナセの側にいるのを見ると、何故か私はそわそわと落ち着かない気持ちにさせられる。
多分、従僕という役職上、距離が近すぎるせいだろう。
――その考えが崩れたのは、ナナセと風呂に入る間に着替えの用意とメイドにベッドメイクを頼むために、ヒューを寝室へ呼んだときだった。
ナナセは先に浴室へ連れて行っていたので、私がヒューと二人きりで話すのは実質これが初めてだったのだ。
ヒューはベッドの上の惨状を冷めた青い瞳で一瞥するなり、私を睨み付けて堂々と言い放った。
「聖者様に余り無体を強いないでください」
その様は、まるで別人のようで、室内には他に誰もいないのに、一瞬、誰に言われたのか分からなかった。
誰だ貴様は?
吃音症はどうした?
いつものおどおどした態度はどうした?
演技か?
演技なのか?
「エリー?」
その時、ナナセがバスルームの扉の隙間からひょっこり顔だけ出してきたので、私がヒューを睨んで牽制すると、怯えたような顔をして慌てて出ていく。
それがまたいけなかった。
「エリー、ヒューはまだ子供なんだから、もう少し優しく接してやってくれよ」
ヒューが出て行った後で、ナナセは困ったように言う。
子供? あれが?
何を言ってる?
あれはもう一人前の「男」だろう。
子供というなら、今の私の方が余程叱られた子供ではないか。
しかし、ナナセが子供だと思っているうちは、ヒューもナナセの前では子供として振舞うだろう。
それに、私もナナセの前で狭量なところを見せるわけにはいかない。
このことはナナセには黙ったまま暫く様子を見ることにした。
恋は好敵手がいた方が盛り上がるというが、あれはない。
あれなら、殺してしまえばいい魔王のほうがまだマシだった。
ヒューを殺したらナナセは私を許さないだろう。
アドバンテージでいえば私の方が遥かに高いはずである。
なのに、どうしてこんなに不安になるんだ。
嫉妬で気が狂いそうだ。
私はどうすればいいんだ。
この際、神でも悪魔でもいい、誰か教えてくれ。
「異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが」第二章 魔王復活 完
※明日からは「第三章 黎明と黄昏」が始まります。 第二章の登場人物紹介を先に投稿しているのでご注意ください。
ヒューの話に戻ろう。
しかし、私は結果的に、ヒューがナナセの従僕に就くことを許した。
その最たる理由は、ヒューがナナセに心酔しているという一点に尽きる。
ヒューはナナセに一度命を救われているが、それが恋に発展したとして、何ら不思議はない。
命の恩を命で返すのは、一般人には難しいが、恋ならばいざというときナナセのために命を投げ打つことも容易いだろう。
あれでも、時間稼ぎくらいにはなるかも知れない。
死線を潜り抜けてきた経験から言えば、いつも、生死を分かつのは時間にして数秒だ。
ヴェイラ王国第二王子ルートヴィヒ殿下に、獣人領の王フリードリヒ陛下に、魔王、加えてあの「あしながおじさん」といい、ナナセは厄介なものを矢鱈と引き寄せる。
いや、それを言えば私が一番厄介なのだろうが、今のところナナセの愛を勝ち得ているのは私なので、私は除外させて貰おう。
そしてそんな厄介な輩と比べれば、ヒューなど私が恐れるに足りない小物だ。
取るに足らない小物だとは分かっているが、ヒューがナナセの側にいるのを見ると、何故か私はそわそわと落ち着かない気持ちにさせられる。
多分、従僕という役職上、距離が近すぎるせいだろう。
――その考えが崩れたのは、ナナセと風呂に入る間に着替えの用意とメイドにベッドメイクを頼むために、ヒューを寝室へ呼んだときだった。
ナナセは先に浴室へ連れて行っていたので、私がヒューと二人きりで話すのは実質これが初めてだったのだ。
ヒューはベッドの上の惨状を冷めた青い瞳で一瞥するなり、私を睨み付けて堂々と言い放った。
「聖者様に余り無体を強いないでください」
その様は、まるで別人のようで、室内には他に誰もいないのに、一瞬、誰に言われたのか分からなかった。
誰だ貴様は?
吃音症はどうした?
いつものおどおどした態度はどうした?
演技か?
演技なのか?
「エリー?」
その時、ナナセがバスルームの扉の隙間からひょっこり顔だけ出してきたので、私がヒューを睨んで牽制すると、怯えたような顔をして慌てて出ていく。
それがまたいけなかった。
「エリー、ヒューはまだ子供なんだから、もう少し優しく接してやってくれよ」
ヒューが出て行った後で、ナナセは困ったように言う。
子供? あれが?
何を言ってる?
あれはもう一人前の「男」だろう。
子供というなら、今の私の方が余程叱られた子供ではないか。
しかし、ナナセが子供だと思っているうちは、ヒューもナナセの前では子供として振舞うだろう。
それに、私もナナセの前で狭量なところを見せるわけにはいかない。
このことはナナセには黙ったまま暫く様子を見ることにした。
恋は好敵手がいた方が盛り上がるというが、あれはない。
あれなら、殺してしまえばいい魔王のほうがまだマシだった。
ヒューを殺したらナナセは私を許さないだろう。
アドバンテージでいえば私の方が遥かに高いはずである。
なのに、どうしてこんなに不安になるんだ。
嫉妬で気が狂いそうだ。
私はどうすればいいんだ。
この際、神でも悪魔でもいい、誰か教えてくれ。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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