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第二章 魔王復活
〇一四 治癒を単位に変えてくれる錬金術師③
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「治癒を単位に変えてくれる錬金術師の……! お世話になっています!」
「ははっ! 錬金術師か。面白いことを言うね。本当はもっと早く君に会えるはずだったんだけど聊か予定が狂ってしまってね」
あしながおじさんは自分の魅力を熟知した仕草でウインクした。
生涯現役ってこういう人のことを言うんだろうな。
「ほら、フリードリヒ陛下を通じて私が君の帰郷のお手伝いをさせて頂くはずだったんだけど、君、自力で帰れちゃったから、私の出番がなくなってしまったんだよ」
ああっ、フリードリヒ陛下に俺の帰郷の協力者を紹介して貰う手筈だったんだけど、俺が転移門使って自力で帰っちゃったときのことな!
その節は申し訳ございませんでした!
「それはそうと――」
俺が謝罪しようと口を開きかけた刹那、おじさんはそれを見計らったように更に言葉を被せてくる。
「ナナセくんは最近救護院へ行っていないようだね?」
そう言ったおじさんの瞳からは、先程までの砕けた雰囲気は消え失せていた。
俺はハッとして、抱えたままだったエリアスの制服をぎゅっと抱き締める。
「このままでは単位をあげられないよ? 留年してしまってもいいのかい?」
口調も物腰も柔らかいが、その言葉には一切の妥協を許さない厳しさが秘められていた。
表面上は単位や留年の話をしているようだが、きっと違う。
多分俺は今、試されているのだ。
ここで答えを誤ってはいけない。
慎重に受け答えしなくては。
「そこで、救済措置として特別課題を出そう」
それが、なにがしかの試験であることは明白だった。
緊張に、知らず、背筋を冷たい汗が流れ落ちていく。
俺の緊張を読み取ってか、おじさんは満足そうに目を細める。
「君への課題は『勇者に掛けられた魔王の呪いを解く』ことだ。レポート提出も忘れずにね」
――勇者に掛けられた魔王の呪いを解く!
それは誰かに言われるまでもなく、まさに今の俺が取り組まなくてはならない課題だった。
「レポートは王宮の侍従に渡せば私のところへ届くようになっている。勿論、『あしながおじさん』宛てでね」
おじさんは打って変わってまたおどけたような調子に戻ると、俺が抱き締めていたエリアスの制服に視線を落とす。
「君なら必ず成し遂げられると信じているよ。いや、君にしかできないと言うべきか……。それに君はもうその術を持っているね?」
おじさんは言うだけ言うと「見送りは結構」と、そのまま風のように颯爽と帰って行き、暫し茫然としていた俺が、慌てて後を追いかけたが、もうすでに影も形も見えなかった。
「……勇者に掛けられた魔王の呪いを解く」
――何やってんだろう、俺。
このままで良いはずはない。
それなのに俺は自分の都合ばかり考えて、エリアスがいっそこのまま何も思い出さなくていいとさえ思ってた。
挙句の果てに、それを課題にまで出されて――。
最低だな俺。
呪いの解き方なんて知らない。
おじさんはもう俺が持ってるって言ってたけど、治癒やキスが失敗してからは、その術を知ろうともしなかった。
俺、エリアスに謝らないと。
エリアスは俺に謝られるのは苦手みたいだけど、それでも謝らないと。
謝って、それからどうするか分からない。
けど、謝らないと。
謝ってからのことは、謝ってから考えよう。
だが、脱力した身体はなかなか動いてくれず、俺はその場に立ち尽くしていた。
「ははっ! 錬金術師か。面白いことを言うね。本当はもっと早く君に会えるはずだったんだけど聊か予定が狂ってしまってね」
あしながおじさんは自分の魅力を熟知した仕草でウインクした。
生涯現役ってこういう人のことを言うんだろうな。
「ほら、フリードリヒ陛下を通じて私が君の帰郷のお手伝いをさせて頂くはずだったんだけど、君、自力で帰れちゃったから、私の出番がなくなってしまったんだよ」
ああっ、フリードリヒ陛下に俺の帰郷の協力者を紹介して貰う手筈だったんだけど、俺が転移門使って自力で帰っちゃったときのことな!
その節は申し訳ございませんでした!
「それはそうと――」
俺が謝罪しようと口を開きかけた刹那、おじさんはそれを見計らったように更に言葉を被せてくる。
「ナナセくんは最近救護院へ行っていないようだね?」
そう言ったおじさんの瞳からは、先程までの砕けた雰囲気は消え失せていた。
俺はハッとして、抱えたままだったエリアスの制服をぎゅっと抱き締める。
「このままでは単位をあげられないよ? 留年してしまってもいいのかい?」
口調も物腰も柔らかいが、その言葉には一切の妥協を許さない厳しさが秘められていた。
表面上は単位や留年の話をしているようだが、きっと違う。
多分俺は今、試されているのだ。
ここで答えを誤ってはいけない。
慎重に受け答えしなくては。
「そこで、救済措置として特別課題を出そう」
それが、なにがしかの試験であることは明白だった。
緊張に、知らず、背筋を冷たい汗が流れ落ちていく。
俺の緊張を読み取ってか、おじさんは満足そうに目を細める。
「君への課題は『勇者に掛けられた魔王の呪いを解く』ことだ。レポート提出も忘れずにね」
――勇者に掛けられた魔王の呪いを解く!
それは誰かに言われるまでもなく、まさに今の俺が取り組まなくてはならない課題だった。
「レポートは王宮の侍従に渡せば私のところへ届くようになっている。勿論、『あしながおじさん』宛てでね」
おじさんは打って変わってまたおどけたような調子に戻ると、俺が抱き締めていたエリアスの制服に視線を落とす。
「君なら必ず成し遂げられると信じているよ。いや、君にしかできないと言うべきか……。それに君はもうその術を持っているね?」
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だが、脱力した身体はなかなか動いてくれず、俺はその場に立ち尽くしていた。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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