異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
110 / 266
第二章 魔王復活

〇一四 治癒を単位に変えてくれる錬金術師③

しおりを挟む
「治癒を単位に変えてくれる錬金術師の……! お世話になっています!」
「ははっ! 錬金術師か。面白いことを言うね。本当はもっと早く君に会えるはずだったんだけど聊か予定が狂ってしまってね」

あしながおじさんは自分の魅力を熟知した仕草でウインクした。
生涯現役ってこういう人のことを言うんだろうな。

「ほら、フリードリヒ陛下を通じて私が君の帰郷のお手伝いをさせて頂くはずだったんだけど、君、自力で帰れちゃったから、私の出番がなくなってしまったんだよ」

ああっ、フリードリヒ陛下に俺の帰郷の協力者を紹介して貰う手筈だったんだけど、俺が転移門使って自力で帰っちゃったときのことな!
その節は申し訳ございませんでした!

「それはそうと――」

俺が謝罪しようと口を開きかけた刹那、おじさんはそれを見計らったように更に言葉を被せてくる。

「ナナセくんは最近救護院へ行っていないようだね?」

そう言ったおじさんの瞳からは、先程までの砕けた雰囲気は消え失せていた。
俺はハッとして、抱えたままだったエリアスの制服をぎゅっと抱き締める。

「このままでは単位をあげられないよ? 留年してしまってもいいのかい?」

口調も物腰も柔らかいが、その言葉には一切の妥協を許さない厳しさが秘められていた。
表面上は単位や留年の話をしているようだが、きっと違う。
多分俺は今、試されているのだ。
ここで答えを誤ってはいけない。
慎重に受け答えしなくては。

「そこで、救済措置として特別課題を出そう」

それが、なにがしかの試験であることは明白だった。
緊張に、知らず、背筋を冷たい汗が流れ落ちていく。
俺の緊張を読み取ってか、おじさんは満足そうに目を細める。

「君への課題は『勇者に掛けられた魔王の呪いを解く』ことだ。レポート提出も忘れずにね」

――勇者に掛けられた魔王の呪いを解く!
それは誰かに言われるまでもなく、まさに今の俺が取り組まなくてはならない課題だった。

「レポートは王宮の侍従に渡せば私のところへ届くようになっている。勿論、『あしながおじさん』宛てでね」

おじさんは打って変わってまたおどけたような調子に戻ると、俺が抱き締めていたエリアスの制服に視線を落とす。

「君なら必ず成し遂げられると信じているよ。いや、君にしかできないと言うべきか……。それに君はもうその術を持っているね?」

おじさんは言うだけ言うと「見送りは結構」と、そのまま風のように颯爽と帰って行き、暫し茫然としていた俺が、慌てて後を追いかけたが、もうすでに影も形も見えなかった。

「……勇者に掛けられた魔王の呪いを解く」

――何やってんだろう、俺。
このままで良いはずはない。
それなのに俺は自分の都合ばかり考えて、エリアスがいっそこのまま何も思い出さなくていいとさえ思ってた。
挙句の果てに、それを課題にまで出されて――。
最低だな俺。

呪いの解き方なんて知らない。
おじさんはもう俺が持ってるって言ってたけど、治癒やキスが失敗してからは、その術を知ろうともしなかった。

俺、エリアスに謝らないと。
エリアスは俺に謝られるのは苦手みたいだけど、それでも謝らないと。
謝って、それからどうするか分からない。
けど、謝らないと。
謝ってからのことは、謝ってから考えよう。

だが、脱力した身体はなかなか動いてくれず、俺はその場に立ち尽くしていた。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...