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第二章 魔王復活
〇一四 治癒を単位に変えてくれる錬金術師②
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一人で隊舎にいても俺はやることもないし、また暇な王宮幽閉生活に逆戻りしてしまった気分で、宮殿本棟と隊舎を結ぶ回廊の中庭に設置されたベンチに座り、ぼんやりしていると、回廊の向こうから洗濯係のおばちゃんがやってくるのが見えた。
「あ! 聖者様! エリアス隊長の洗濯物をお届けに上がったんですが、従僕のエミールさんはいらっしゃいますか?」
今日は朝からエリアスが魔王の首実検へ赴いていていないので、エミールもヒューの教育中で王宮内の施設を案内をしていて留守にしている。
「あー、今出払っていていないんだ。エリーのなら俺が渡しておくよ」
「よろしいのですか? ではお言葉に甘えて。こちらになります」
渡されたのは魔王城へ俺を救出に来てくれたときエリアスが着ていた制服だった。
俺が色んな種類の体液でドロドロの身体で借りたマントを羽織ってしまったし、染み抜きに時間がかかったのだろう。
しかし、流石王宮の洗濯係。染みなど跡形もなく新品のような仕上がりだ。
「あとこちらが内ポケットに入れっぱなしになっていました。お手紙のようですが開封していませんので、ご安心ください」
そう言って見覚えのある封筒を手渡された。
宛名も差出人名もないが、中身が何かを俺は知っている。
それは俺が獣人領でエリアスに聖者のメダイユをあげたときに悪戯心を起こして、当て字で「襟明日」って書いて、ついでに渡したもので、封蝋の印璽は俺のものだ。
俺の記憶がなくなって、ポケットにしまっていたことも忘れてしまったのだろう。
でも、エミールが確認せずに洗濯に出すなんて――と、そこまで考えたところで、俺がエミールにヒューの教育を押し付けてしまっていたことに思い至る。
仕事が増えればミスも出てくるよな。
エミールの名誉のために、これは俺が後でこっそりエリアスの鍵の掛かる書き物机の引き出しにでもこっそりしまっておこう。
「これなら手紙じゃなくてただの落書きだから心配いらないよ。ありがとう」
洗濯係のおばちゃんを見送ると、封筒を懐にしまい、洗いたてのエリアスの制服を抱え直した。
それにしてもエリアス、こんなものをまだ開封せずに持ってたのかよ。
恥ずかしいから捨ててくれよ。
あの涙壺といい、あいつ、変なものを取っておきたがるよな。
俺は問題を先送りすることにして、とりあえずエリアスの制服を置きに隊舎へ戻ったのだが、いつもと様子が違う。
何かあったのだろうかと思っていると、困惑した様子の隊員が俺に話しかけてくる。
「聖者様にお客様ですよ。来客室へお通ししています」
「ありがとう。誰だろう?」
俺はエリアスの制服を抱き締めたまま、応接室へ向かった。
「やあ、ナナセくん。やっと会えたね」
おっと。なんかいきなり馴れ馴れしいな。
俺がノックをして応接室へ入った途端、窓際に凭れかかっていた白髪に白い髭を蓄えた、若い頃はさぞやおモテになられたであろうという壮年の紳士が親し気に話し掛けてきた。
勿論、俺の知らない人だ。
紳士がソファーに掛けないので俺も立ったまま対応する。
「名を名乗りたいところなんだけど、君は知らない方がいいだろう。私のことは『あしながおじさん』とでも呼んでくれ給え」
――あしながおじさん!
この人が例の!
「あ! 聖者様! エリアス隊長の洗濯物をお届けに上がったんですが、従僕のエミールさんはいらっしゃいますか?」
今日は朝からエリアスが魔王の首実検へ赴いていていないので、エミールもヒューの教育中で王宮内の施設を案内をしていて留守にしている。
「あー、今出払っていていないんだ。エリーのなら俺が渡しておくよ」
「よろしいのですか? ではお言葉に甘えて。こちらになります」
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俺が色んな種類の体液でドロドロの身体で借りたマントを羽織ってしまったし、染み抜きに時間がかかったのだろう。
しかし、流石王宮の洗濯係。染みなど跡形もなく新品のような仕上がりだ。
「あとこちらが内ポケットに入れっぱなしになっていました。お手紙のようですが開封していませんので、ご安心ください」
そう言って見覚えのある封筒を手渡された。
宛名も差出人名もないが、中身が何かを俺は知っている。
それは俺が獣人領でエリアスに聖者のメダイユをあげたときに悪戯心を起こして、当て字で「襟明日」って書いて、ついでに渡したもので、封蝋の印璽は俺のものだ。
俺の記憶がなくなって、ポケットにしまっていたことも忘れてしまったのだろう。
でも、エミールが確認せずに洗濯に出すなんて――と、そこまで考えたところで、俺がエミールにヒューの教育を押し付けてしまっていたことに思い至る。
仕事が増えればミスも出てくるよな。
エミールの名誉のために、これは俺が後でこっそりエリアスの鍵の掛かる書き物机の引き出しにでもこっそりしまっておこう。
「これなら手紙じゃなくてただの落書きだから心配いらないよ。ありがとう」
洗濯係のおばちゃんを見送ると、封筒を懐にしまい、洗いたてのエリアスの制服を抱え直した。
それにしてもエリアス、こんなものをまだ開封せずに持ってたのかよ。
恥ずかしいから捨ててくれよ。
あの涙壺といい、あいつ、変なものを取っておきたがるよな。
俺は問題を先送りすることにして、とりあえずエリアスの制服を置きに隊舎へ戻ったのだが、いつもと様子が違う。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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