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第二章 魔王復活
〇一二 お清めセックスは封印された②
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エリアスにお清めセックスをして貰うには、魔王城で俺が魔王に受けた仕打ちを何もかも包み隠さずエリアスに話す必要がある。
でも俺は話せなかったんだ。
だって、そんなこと言えるわけがない。
レイプされてイくような奴だって知られるのが怖かった。
この身体が穢されていることを知られたくなかった。
もうちょっとだ。もうちょっとだけでいい。
穢れた俺を知らないエリアスに、穢れを知らない者のように扱って貰いたかったんだ。
――て、思っていた時期が俺にもありました。
そんなことを考えていた頃の俺は結局のところ、物事の本質が見えていなかったんだ。
現実問題としては聊か事情が違ってくる。
考えてもみて欲しい。
エリアスは、自分自身に対しても強烈な嫉妬を見せる男だぞ?
しかも呪いのせいで俺の名前を呼べないことで、かなりのフラストレーションが溜まっているように見える。
そんなときに、俺が魔王城で魔王にされたことの一部始終を知ったら――。
想像するだけでも恐ろしい。
俺どうなっちゃうの?
今度は何されるの?
お清めセックスで上書きするんだろ?
てことは、俺が魔王に受けた仕打ち以上のことを今度はエリアスにされるってことだよな?
特に今のエリアスは柵がなくなって感情がストレートに出ているから、俺にもちょっと予想が付かない。
俺にとっては、エリアスに倒された魔王より、魔王を倒したエリアスのガチお清めセックスのほうが余程恐ろしいんだが……。
そう思い至って、俺は魔王の呪いの真髄と、本当の恐ろしさを知ったのだ。
多分、この呪いの真の恐ろしさを理解出来る奴は俺の他にはいないだろう。
誰にも分かって貰えないところがまた恐ろしい。
だが、そうなれば、俺の出すべき答えは一つ。
――エリアスの記憶が戻るまで、魔王にされたことは黙っていよう。
こうして、お清めセックスは封印された。
この件に関しては、半分以上逆恨みともいえなくはないが、怒りの矛先は全て魔王へ向けることにする。
おのれ、魔王め!
そうして、夜も白々と明ける頃、気絶するように眠りについた俺が次に目を覚ましたのは仄かな暗闇の中だった。
ベッドの天蓋の帳が全部きっちりと閉じられているから、どのくらい寝ていて今何時くらいなのかも分からないけど、帳は部屋の明るさで俺が起きないための配慮だろうから外はまだ明るい時間なんだろう。
まあ、季節はもう夏で、欧州の環境に近いこっちでは夜十時くらいまで明るいんだがな。
「おはよう、愛しい人」
――「愛しい人」!?
俺は指輪かよ!?
火山に捨てられちゃうのかよ!?
起き抜けの微睡みの中、腰にクる声に耳元でそう囁かれて俺は秒で覚醒した。
顔と顔がくっつきそうなほどの至近距離で視線が合った途端、淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が優しく眇められる。
「昨夜は羽目を外してしまってすまない。身体の調子はどうだ? 私の最愛……」
おいおいおい、今度は「最愛」ときたぜ。
突っ込みたいけど顔中にめっちゃキスされてて突っ込めない。
「……うん、ちょっと怠いけど平気だ」
「もう少し寝ていても構わないが、起きられそうなら何か食べた方がいい。昨日から何も食べていないだろう」
昨日は、魔王城の中で一応飲んでおいた方がいいと渡されたポーションを飲んだ上に、帰りの船の中でフランスパンを丸々一本分使ったカスクルートっていうバゲットサンドを貰ったんだが、俺は半分だけ食べて半分残していた。
俺的には結構がっつりめに食べてたんだが、身体の大きなこっちの人の基準では小食ということになるので、俺の記憶がないエリアスに矢鱈と心配されたのだ。
ああ、でも昨日のカスクルートは、トラディションっていう皮がパリパリの本格的なフランスパンに生ハムとレタスやチコリやエンダイブみたいな葉物野菜に薄くスライスしたフェンネルとレモンと数種類のチーズを挟んであって、ディジョンマスタードとマヨネーズっぽいソースが掛かってて旨かったなあれ。
この世界、ホント、食い物に外れがない。
「エリーが食べるなら一緒に食べる」
ポーション飲むと空腹感が麻痺するみたいなんだけど、かといって満腹感があるわけではないので食べて食べられないことはない。
それより俺に付き合ってエリアスが食べてないことの方が問題だ。
でも俺は話せなかったんだ。
だって、そんなこと言えるわけがない。
レイプされてイくような奴だって知られるのが怖かった。
この身体が穢されていることを知られたくなかった。
もうちょっとだ。もうちょっとだけでいい。
穢れた俺を知らないエリアスに、穢れを知らない者のように扱って貰いたかったんだ。
――て、思っていた時期が俺にもありました。
そんなことを考えていた頃の俺は結局のところ、物事の本質が見えていなかったんだ。
現実問題としては聊か事情が違ってくる。
考えてもみて欲しい。
エリアスは、自分自身に対しても強烈な嫉妬を見せる男だぞ?
しかも呪いのせいで俺の名前を呼べないことで、かなりのフラストレーションが溜まっているように見える。
そんなときに、俺が魔王城で魔王にされたことの一部始終を知ったら――。
想像するだけでも恐ろしい。
俺どうなっちゃうの?
今度は何されるの?
お清めセックスで上書きするんだろ?
てことは、俺が魔王に受けた仕打ち以上のことを今度はエリアスにされるってことだよな?
特に今のエリアスは柵がなくなって感情がストレートに出ているから、俺にもちょっと予想が付かない。
俺にとっては、エリアスに倒された魔王より、魔王を倒したエリアスのガチお清めセックスのほうが余程恐ろしいんだが……。
そう思い至って、俺は魔王の呪いの真髄と、本当の恐ろしさを知ったのだ。
多分、この呪いの真の恐ろしさを理解出来る奴は俺の他にはいないだろう。
誰にも分かって貰えないところがまた恐ろしい。
だが、そうなれば、俺の出すべき答えは一つ。
――エリアスの記憶が戻るまで、魔王にされたことは黙っていよう。
こうして、お清めセックスは封印された。
この件に関しては、半分以上逆恨みともいえなくはないが、怒りの矛先は全て魔王へ向けることにする。
おのれ、魔王め!
そうして、夜も白々と明ける頃、気絶するように眠りについた俺が次に目を覚ましたのは仄かな暗闇の中だった。
ベッドの天蓋の帳が全部きっちりと閉じられているから、どのくらい寝ていて今何時くらいなのかも分からないけど、帳は部屋の明るさで俺が起きないための配慮だろうから外はまだ明るい時間なんだろう。
まあ、季節はもう夏で、欧州の環境に近いこっちでは夜十時くらいまで明るいんだがな。
「おはよう、愛しい人」
――「愛しい人」!?
俺は指輪かよ!?
火山に捨てられちゃうのかよ!?
起き抜けの微睡みの中、腰にクる声に耳元でそう囁かれて俺は秒で覚醒した。
顔と顔がくっつきそうなほどの至近距離で視線が合った途端、淡褐色と淡緑色の混ざり合う榛色の瞳が優しく眇められる。
「昨夜は羽目を外してしまってすまない。身体の調子はどうだ? 私の最愛……」
おいおいおい、今度は「最愛」ときたぜ。
突っ込みたいけど顔中にめっちゃキスされてて突っ込めない。
「……うん、ちょっと怠いけど平気だ」
「もう少し寝ていても構わないが、起きられそうなら何か食べた方がいい。昨日から何も食べていないだろう」
昨日は、魔王城の中で一応飲んでおいた方がいいと渡されたポーションを飲んだ上に、帰りの船の中でフランスパンを丸々一本分使ったカスクルートっていうバゲットサンドを貰ったんだが、俺は半分だけ食べて半分残していた。
俺的には結構がっつりめに食べてたんだが、身体の大きなこっちの人の基準では小食ということになるので、俺の記憶がないエリアスに矢鱈と心配されたのだ。
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