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第二章 魔王復活
〇一一 「俺のフラグ折れてるぞ」③ ※エリアス視点
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――その夜は、ナナセの記憶を失っている私にとって初夜に等しかった。
魔王を倒して勾引かされていた婚約者を助け出したのだ。
今夜ばかりは私たちの邪魔をするものはいない。
今の私にはナナセと睦み合った記憶もないのだが、それだけに、この降って湧いたような幸運に興奮しない男がいるだろうか。
ナナセを部屋へ送り届けた私は、呪いに効果があるかどうか分からないが治癒を試してみたいというナナセに室内へ招き入れられ、治癒を施して貰ってからどういう経緯でそうなったのかは覚えていないが、服を脱ぐのももどかしく、口付けを交わしながら浴室へ雪崩れ込んだ。
因みに、ナナセの治癒では呪いは解けなかった。
全面に防水加工を施した石造りの浴室と、二人で入ってもまだ余裕のある浴槽は、風呂が好きなナナセのために以前の私が改装させたものらしい。
ナナセの祖国の風呂は浴室の手前に脱衣所が設けられているというが、間取りの関係でそこまでは再現できなかったのだという。
誰かと一緒に風呂に入るなんて甘いことはしたことがないと思っていたが、ナナセの話によると私たちは大抵いつも一緒に入っているのだそうだ。
互いの体を洗うのが、これほど官能を刺激する行為だとは知らなかった。
何時の間にか、あの酷い頭痛も治まっている。
ついでに、ナナセの身体に魔王による虐待の痕跡がないか、さりげなく目を走らせ、象牙色の肌にしみひとつないことを確認した。
治癒術士ということだから自分で治癒済みなのかもしれないが、とりあえずはほっとする。
「君のここは何も生えていないが、アルビオンでは皆こうなのか?」
陰毛の生えていない、つるりとした下腹部を洗いながらずっと気になっていたことを尋ねると、ナナセの表情が急に翳る。
「……それなんだけどさ」
言い難そうに口籠ってなかなか話そうとしないナナセからどうにか聞き出した情報によると、魔王に剃られてしまったのだということだった。
「……そうか、魔王に?」
自分でも驚くほど低く掠れた声が出て、うっかり漏らしてしまった感情が冷気となり、濡れた髪から滴り落ちる水滴がキンッと澄んだ音を立てながら次々に凍り付いて、雹のようにパラパラと浴室の床石の上へ落ちた。
「エ、エリー……!?」
ナナセの驚愕した声にハッとしてすぐに冷気を抑える。
幸い、ナナセに被害はないようだ。
「すまない。制御を誤った」
こんなことは初めてだ。
感情が暴走することも、制御を誤ることも。
これも呪いの影響か。
「わっ! 冷たっ! こんなに冷えて、風邪引くぞ!」
温かい手に頬を包まれて、自分が冷えていたことを知る。
偶には制御を誤るのも悪くないかもしれない。
ナナセの手に頬を摺り寄せた。
「どしたんだよ。やっぱり呪いの影響でどこか具合が悪いのか?」
「いや、そうではない。ただ――」
浴室の扉を開け、ここへ入るまでに床に点々と脱ぎ散らかしていた服に手を伸ばし、衣嚢の中から玻璃の涙壺を取り出して戻ると、ナナセに見せる。
これは魔王の首に掛かっていたものだ。
魔王を倒して勾引かされていた婚約者を助け出したのだ。
今夜ばかりは私たちの邪魔をするものはいない。
今の私にはナナセと睦み合った記憶もないのだが、それだけに、この降って湧いたような幸運に興奮しない男がいるだろうか。
ナナセを部屋へ送り届けた私は、呪いに効果があるかどうか分からないが治癒を試してみたいというナナセに室内へ招き入れられ、治癒を施して貰ってからどういう経緯でそうなったのかは覚えていないが、服を脱ぐのももどかしく、口付けを交わしながら浴室へ雪崩れ込んだ。
因みに、ナナセの治癒では呪いは解けなかった。
全面に防水加工を施した石造りの浴室と、二人で入ってもまだ余裕のある浴槽は、風呂が好きなナナセのために以前の私が改装させたものらしい。
ナナセの祖国の風呂は浴室の手前に脱衣所が設けられているというが、間取りの関係でそこまでは再現できなかったのだという。
誰かと一緒に風呂に入るなんて甘いことはしたことがないと思っていたが、ナナセの話によると私たちは大抵いつも一緒に入っているのだそうだ。
互いの体を洗うのが、これほど官能を刺激する行為だとは知らなかった。
何時の間にか、あの酷い頭痛も治まっている。
ついでに、ナナセの身体に魔王による虐待の痕跡がないか、さりげなく目を走らせ、象牙色の肌にしみひとつないことを確認した。
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「君のここは何も生えていないが、アルビオンでは皆こうなのか?」
陰毛の生えていない、つるりとした下腹部を洗いながらずっと気になっていたことを尋ねると、ナナセの表情が急に翳る。
「……それなんだけどさ」
言い難そうに口籠ってなかなか話そうとしないナナセからどうにか聞き出した情報によると、魔王に剃られてしまったのだということだった。
「……そうか、魔王に?」
自分でも驚くほど低く掠れた声が出て、うっかり漏らしてしまった感情が冷気となり、濡れた髪から滴り落ちる水滴がキンッと澄んだ音を立てながら次々に凍り付いて、雹のようにパラパラと浴室の床石の上へ落ちた。
「エ、エリー……!?」
ナナセの驚愕した声にハッとしてすぐに冷気を抑える。
幸い、ナナセに被害はないようだ。
「すまない。制御を誤った」
こんなことは初めてだ。
感情が暴走することも、制御を誤ることも。
これも呪いの影響か。
「わっ! 冷たっ! こんなに冷えて、風邪引くぞ!」
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「いや、そうではない。ただ――」
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これは魔王の首に掛かっていたものだ。
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