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第二章 魔王復活
〇一〇 グレイ③
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「それも呪いの効果か」
「すまない……頭の中では呼べているし、声に出して君の名前を呼びたいのにどうしても出てこないんだ」
けれど、俺はこの時点ではまだ事態を楽観視していた。
エリアスも一応それなりに気にはしているようだが、熱っぽい目で俺を見て、目が合うと照れたように視線を彷徨わせてしまう。
それでも俺の反応が気になるようで、チラチラとこちらの様子を窺っている。
……ほら、これだよ。
魔王に呪いを掛けられてから、エリアスはずっとこの調子なんだよ。
普通はさ、恋人の記憶だけ失う展開って、急に赤の他人みたいに素っ気なくなって、そこから徐々に好感度上げていって、何度でも恋に落ちるみたいなのが王道だし、様式美だし、お約束だろ?
なのにエリアスの場合は、最初っからこの調子で、好感度MAXで振り切れてんだよ。
ある意味、ブレてはいないんだがな。
だから名前を呼んで貰えないのはちょっと寂しくはあるけど、そのくらい大したことじゃないと思っていたんだ。
それに今のエリアスは色々忘れている分、柵がなくなっていてデレるのに躊躇いがない。
以前は俺たちの間にあった諸々の事情を考慮して、エリアスなりに俺に遠慮してるところがあったのに、そんなことも忘れてる今は、若干の照れはあるものの、ただストレートに好意を示してくる。
「魔王の呪いとはいえ、最愛の者のことを忘れてしまうとは不甲斐なくて、本来こんなことを頼める立場にないのかも知れないが、必ず思い出すので婚約解消だけはどうか思い止まって欲しい」
俺の手を握りながら切々と訴える姿を見ていると、本当に俺のこと忘れちまったんだなって実感する。
以前のエリアスなら、少なくとも俺が呪いを受けた記憶喪失の婚約者を見捨てるような奴じゃないって分かってくれていたと思う。
「いや、そんなことしねーって。魔王の呪い食らってもエリーが生きていてくれただけでめっけもんだし」
俺がそう言うと、エリアスは感極まって俺の手に何度も口付け、終いにはその手を額に押し付けて、祈るように目を瞑った。
「ありがとう! 必ず記憶を取り戻すと、この剣に誓う!」
エリアスの決意は分かったし、記憶を取り戻そうとしてくれるのは嬉しいが、隊員たちの生温かい視線が痛いから、もうそのくらいでやめておいて欲しい。
「ていうか、魔王はあのとき『道連れにしてやる』って息巻いてたのに、何でこの程度で済んだんだろう?」
「それは私も不思議に思っていた。君の話によると、魔王は私を確実に倒すためにわざと倒された振りをして機を狙い、君という私の弱点まで勾引かしたのだと言うが、にも拘わらず、実際はかなり弱体化していたように感じる」
その言葉から察すると、俺のことだけすっぽり記憶から抜けてるだけで、魔王を倒した辺りの記憶はあるようだ。
細部の矛盾がエリアスの中でどう辻褄合わせされて処理されてるのかまでは分からないが。
だが、魔王と勇者の力は世の理に則って常に拮抗しているもので、どちらか一方だけが強化されれば、もう一方も強化されてしまうのだという。
だから、勇者であるエリアスが魔王に対して弱体化――つまり、本来持っている力が出せない状態異常のようなものに掛かっていたのではと感じるには、外的要因があったとしか考えられない。
「君が何かしたのか? 君がそう意図していなかったとしても、何か弱体効果のある呪いのようなものを呟いたりはしなかったか?」
唐突に俺に話が振られて戸惑う。
エリアス曰く、高位の魔法士になると、感情を露にしただけで何かの魔法が勝手に発動してしまうことがあるのだそうだ。
確かに魔王城へ乗り込んで来たときのエリアスは、感情のままに色んな魔法が勝手に発動してるみたいで凄まじかった。
俺は治癒魔法と転移魔法しか使えないし、高位の魔法士なんかじゃないが、それでも言葉にすれば、似たようなことが俺にも起こり得るという。
そう言われても、俺は主に魔王にレイプされていただけで、自発的には特に何もしていな……――あ。
「呪いじゃないし、関係あるかどうか分からないけど、名前は付けた……かも」
「すまない……頭の中では呼べているし、声に出して君の名前を呼びたいのにどうしても出てこないんだ」
けれど、俺はこの時点ではまだ事態を楽観視していた。
エリアスも一応それなりに気にはしているようだが、熱っぽい目で俺を見て、目が合うと照れたように視線を彷徨わせてしまう。
それでも俺の反応が気になるようで、チラチラとこちらの様子を窺っている。
……ほら、これだよ。
魔王に呪いを掛けられてから、エリアスはずっとこの調子なんだよ。
普通はさ、恋人の記憶だけ失う展開って、急に赤の他人みたいに素っ気なくなって、そこから徐々に好感度上げていって、何度でも恋に落ちるみたいなのが王道だし、様式美だし、お約束だろ?
なのにエリアスの場合は、最初っからこの調子で、好感度MAXで振り切れてんだよ。
ある意味、ブレてはいないんだがな。
だから名前を呼んで貰えないのはちょっと寂しくはあるけど、そのくらい大したことじゃないと思っていたんだ。
それに今のエリアスは色々忘れている分、柵がなくなっていてデレるのに躊躇いがない。
以前は俺たちの間にあった諸々の事情を考慮して、エリアスなりに俺に遠慮してるところがあったのに、そんなことも忘れてる今は、若干の照れはあるものの、ただストレートに好意を示してくる。
「魔王の呪いとはいえ、最愛の者のことを忘れてしまうとは不甲斐なくて、本来こんなことを頼める立場にないのかも知れないが、必ず思い出すので婚約解消だけはどうか思い止まって欲しい」
俺の手を握りながら切々と訴える姿を見ていると、本当に俺のこと忘れちまったんだなって実感する。
以前のエリアスなら、少なくとも俺が呪いを受けた記憶喪失の婚約者を見捨てるような奴じゃないって分かってくれていたと思う。
「いや、そんなことしねーって。魔王の呪い食らってもエリーが生きていてくれただけでめっけもんだし」
俺がそう言うと、エリアスは感極まって俺の手に何度も口付け、終いにはその手を額に押し付けて、祈るように目を瞑った。
「ありがとう! 必ず記憶を取り戻すと、この剣に誓う!」
エリアスの決意は分かったし、記憶を取り戻そうとしてくれるのは嬉しいが、隊員たちの生温かい視線が痛いから、もうそのくらいでやめておいて欲しい。
「ていうか、魔王はあのとき『道連れにしてやる』って息巻いてたのに、何でこの程度で済んだんだろう?」
「それは私も不思議に思っていた。君の話によると、魔王は私を確実に倒すためにわざと倒された振りをして機を狙い、君という私の弱点まで勾引かしたのだと言うが、にも拘わらず、実際はかなり弱体化していたように感じる」
その言葉から察すると、俺のことだけすっぽり記憶から抜けてるだけで、魔王を倒した辺りの記憶はあるようだ。
細部の矛盾がエリアスの中でどう辻褄合わせされて処理されてるのかまでは分からないが。
だが、魔王と勇者の力は世の理に則って常に拮抗しているもので、どちらか一方だけが強化されれば、もう一方も強化されてしまうのだという。
だから、勇者であるエリアスが魔王に対して弱体化――つまり、本来持っている力が出せない状態異常のようなものに掛かっていたのではと感じるには、外的要因があったとしか考えられない。
「君が何かしたのか? 君がそう意図していなかったとしても、何か弱体効果のある呪いのようなものを呟いたりはしなかったか?」
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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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