異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第二章 魔王復活

〇〇九 ナナセ③

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「ナナセのお陰で魔王を倒すことが出来たんだ」

俺が落ち着くのを待って、エリアスは俺の首に填められていた忌々しい鎖を聖剣で切断してくれた。
それから聖剣の柄を俺の方へ掲げて見せて、ぽつぽつと話し始める。
そこには俺がエリアスにあげた聖者のメダイユが今もしっかりと填まっていた。
どういうことかと不思議そうに見上げる俺に、エリアスは説明する。

「ナナセの側で繰り返し高威力の闇魔法を浴び、闇属性を帯びた魔力を吸収していたこの聖者のメダイユは、恐らく既にただの真鍮ではないものに変質している」
「あ、そうか! オリハルコン――」

オリハルコン。
エリアスは明言を避けたが、古代、アトランティスに存在したというその幻の金属は、考古学では真鍮だったという説が濃厚だ。

真鍮は実戦用の武器には向かないが、他の金属と比べて魔力吸収率が飛び抜けて高いので、古代から儀式で使用する武器や道具には広く用いられている。
そうやって、儀式で長い年月を掛けて繰り返し魔力を注ぎ込まれた真鍮のことをオリハルコンと呼ぶのではないかと仮説を立てていた俺は、だからメダイユを真鍮で鋳造して貰っていたのだ。

エリアスが聖剣に填め込むとまでは予想していなかったが。
それが、まさか本当に完成したのか?

「闇属性の攻撃は聖属性で、聖属性の攻撃は闇属性で理論上は相殺させることができる。だが、闇属性の攻撃は闇属性では防げない。そして今、ナナセのメダイユのお陰でこの聖剣は攻撃時に闇属性を乗せることが出来るように変容している」

竜族のような一部の古代種を除き、エルフや獣人といった古代種や人間は、何の属性も纏っておらず、生来無属性だが、魔族は生まれながらに闇属性を纏っている。
魔族が同族意識が強いのは、同族の攻撃は防ぎようがなく、争えば大ダメージを受けるからだという。
属性を持つものにとって一番厄介なのは同族なのである。
エリアスはその魔族の特異性を利用したのだ。

「それを知らない魔王は、私の攻撃を聖属性だと思い込み、闇属性で防いだつもりでいたが、実際には闇属性を乗せていたから防ぐことが出来ず、あっさり片が付いた」

そうか、聖者のメダイユが……。
あれは元々、診療所での治癒中に同じ部屋に置きっぱなしにしていたら出来た偶然の産物だったのだ。
それだけなら僅かな治癒効果を発揮した後、ただの金属片に戻ってしまうが、エリアスはそれを聖剣に填め込み、常に佩剣して俺の治癒に付き添っていたから、生贄を必要とする高威力の闇魔法に繰り返し曝されて急速にオリハルコン化したのだろう。

納得してしまうと、今度は「助かったんだ」という実感が追い付いてきてエリアスにしがみついた。

「……俺、信じてた。必ずエリーが助けに来てくれるって信じてた。一瞬たりとも疑ってなかったぜ? けど……」

そこで一旦身体を離して、怒っていますという顔を作って見上げれば、エリアスは何を言われるのかと少し緊張した面持ちで身構える。

「遅ぇよ!」

挑発的に言ってやると、まさか助けに来て文句を言われるとは思っていなかったのだろうエリアスは、瞠目した後でなんだかちょっと嬉しそうに首を傾げて挑発に乗ってきた。

「……悪かった。だが、元はと言えばナナセが約束を守らず、勝手に私の側を離れたのが原因じゃなかったか?」
「うっ、それは俺も悪いと思ってるし反省してる。けど、あの状況ならしょうがないだろ」
「しょうがなくなどない。ナナセは一人しかいない。進んで危険な目に合うような行為は止めて欲しい」
「俺だって進んで危険な目に合うつもりはねえよ。でも、また同じような状況になったら俺は何度でも同じことをする自信がある。あそこで俺が飛び出していなければ、ヒューを助けられなかったし、もしも見殺しになんてしてたら俺は物凄く後悔してた。俺、反省はしても、後悔だけはしたくないんだ」

まんまと罠に飛び込んだ俺を罵る奴はいるだろう。
けれど、それは結果論に過ぎない。
例え罠だったとしても、助けられる可能性があるなら飛び出してみるしかないんだ。

「……ナナセの身に何かあったら私はこの世界を許しはしない」
「そうならないように何とかするのがエリーの仕事だろ」
「確かに私にも至らなかった部分はあるが、大体ナナセは――」
「それを言うならエリーだって――」

――この手の口論は始めると止め処ない。
俺たちはこのとき初めてちょっとした喧嘩をした。
それが今の俺たちに必要なものだったからだ。
今ここで蟠りをすべて吐き出して、後々まで引き摺ることなくやっていけるように――。

「――帰ろう」

エリアスは、俺を抱きかかえるようにして立たせると、床に転がっていた魔王の首を角を掴んで持ち上げる。

「ちょ、エリー!?」
「首級を持ち帰る」
「ああ、なるほど……」

刹那、白っぽく濁った菫色の瞳がカッと見開かれたかと思うと、首だけになった魔王が恐ろしい声で呪いの言葉を吐く。

「おのれ勇者め! 俺一人では逝かん! 道連れにしてくれる! ――『』!!」

そのとき、魔王は確かに俺の名を呼んだ。
しかし、標的は俺ではなかった。

――違う!
今のは俺を呼んだんじゃない!
魔王は俺の名前を呪文に使用したんだ!
それも、あろうことかエリアスを呪う呪文に――!

魔王の放った最期の一撃は閃光となってエリアスを襲い、エリアスは咄嗟に聖剣を魔王の眉間に突き立てる。
すべては、ほんの刹那の出来事で――。

「エリーッ!」

玉座の間に俺の絶叫が響いた。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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