異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第二章 魔王復活

〇〇七 林檎の花の季節は過ぎている④

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それ以降も、魔王は花と、それから本を携えて不意にやって来るようになった。
魔王が持ってくる本は甘ったるいロマンス小説ばかりで辟易したが、時々俺が読んでも面白い冒険小説も紛れ込んでいる。
ヒューの食事も改善されたのは良かったが、魔王に犯られた後、俺が目を覚ますまでヒューは食事をせずに待っているようになってしまったので、これには困り果てた。

昼夜を問わず犯され続ける日が続いたので、もう日にちの感覚がない。
魔王は俺の腹の中にはちきれんばかりに精液を注ぐと満足して帰っていく。
後始末なんてしてくれないから、動けるようになるまで俺はそのままだ。
暫くするとヒューがお湯の入った桶とタオルを持って部屋に入って来た。

「せ、聖者様。ゆ、湯をお持ちしました」
「ありがとう。自分でするから置いといてくれ」
「で、でも、いつまでもそのままでは……」

気持ちは有難いし、多分、初日はヒューがしてくれたんだと思うけど、十四歳のガキにそんなことはさせられない。
第一、俺にもまだ人としての尊厳てものがある。

どうやって断ろうかと口を開きかけた刹那、轟音とともに魔王城が激震した。
日本人の俺は地震かと思ったが、ここは日本じゃない。

様子を窺っていると、窓の外が俄かに騒がしくなる。
「急げ!」「応戦しろ!」などという魔族たちの怒声に交じって「勇者」という単語が聞こえた。

――来た! エリアスだ!
エリアスが助けに来てくれたんだ!
遅いぞエリアス!
どんだけ待たせるんだよ!

逃げるなら今がチャンスだろう。
ここで助けられるのを待っているより、俺がエリアスに合流した方が早い。
俺は重い身体を押して飛び起きた。

「ヒュー、エリアスが助けに来てくれた! ここから逃げるぞ!」
「……! で、でも、どうやって……?」

ヒューは途方に暮れたように俺をベッドに繋いでいる鎖を見る。
口で説明するよりやった方が早い。
俺は手早くブランケットを身体に巻き付け、魔王が持ってきた本をベッドの下に積み上げていく。
この本は、このときのために用意させたんだ。
精液で膨れた腹では重労働で、途中で息を吐いていると、ヒューは俺がなにをしようとしているのか一瞬で理解したようで、ヒューが「お、おれが」と代わってくれる。
自動車のタイヤ交換をするときのジャッキの要領でベッドの下に本をかましていき、鎖が巻き付けられているベッドの脚を浮かせて鎖を引き抜くことに成功したのだった。

誰もいない空中廊下を抜けて隠し扉を抜けると、そこが魔王の玉座の間だ。
黒と金で統一されたバロック様式の広間で、奥の数段高くなった場所に絢爛豪華な天蓋の付いた玉座が据えられている。
壮麗なんだが、古のヴィジュアル系バンドのプロモーションビデオに出てきそうな、禍々しい雰囲気の内装だ。
玉座に髑髏ついてるしな。
俺が言うのもなんだが、こういう方向性にガチで金掛けてやっちゃったのはかなり痛いと思う。

エリアスが上手く敵を引き付けてくれているのか、警備は皆出払っていて誰もいない。
俺たちは玉座の間のある中央塔を難なく抜け、このまま運よくエリアスと合流出来ればよかったんだが、やはりそう上手くはいかなかった。

「これはこれは、聖者殿。どちらへおいでかな?」

勇者と魔王軍が交戦中の前線と思われる正門まであと少しというところで、魔王の側近のトムソンガゼル――確か、「レン」と呼ばれていた黒髪赤眼の魔族と鉢合わせてしまったのである。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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