異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
87 / 266
第二章 魔王復活

〇〇七 林檎の花の季節は過ぎている④

しおりを挟む
それ以降も、魔王は花と、それから本を携えて不意にやって来るようになった。
魔王が持ってくる本は甘ったるいロマンス小説ばかりで辟易したが、時々俺が読んでも面白い冒険小説も紛れ込んでいる。
ヒューの食事も改善されたのは良かったが、魔王に犯られた後、俺が目を覚ますまでヒューは食事をせずに待っているようになってしまったので、これには困り果てた。

昼夜を問わず犯され続ける日が続いたので、もう日にちの感覚がない。
魔王は俺の腹の中にはちきれんばかりに精液を注ぐと満足して帰っていく。
後始末なんてしてくれないから、動けるようになるまで俺はそのままだ。
暫くするとヒューがお湯の入った桶とタオルを持って部屋に入って来た。

「せ、聖者様。ゆ、湯をお持ちしました」
「ありがとう。自分でするから置いといてくれ」
「で、でも、いつまでもそのままでは……」

気持ちは有難いし、多分、初日はヒューがしてくれたんだと思うけど、十四歳のガキにそんなことはさせられない。
第一、俺にもまだ人としての尊厳てものがある。

どうやって断ろうかと口を開きかけた刹那、轟音とともに魔王城が激震した。
日本人の俺は地震かと思ったが、ここは日本じゃない。

様子を窺っていると、窓の外が俄かに騒がしくなる。
「急げ!」「応戦しろ!」などという魔族たちの怒声に交じって「勇者」という単語が聞こえた。

――来た! エリアスだ!
エリアスが助けに来てくれたんだ!
遅いぞエリアス!
どんだけ待たせるんだよ!

逃げるなら今がチャンスだろう。
ここで助けられるのを待っているより、俺がエリアスに合流した方が早い。
俺は重い身体を押して飛び起きた。

「ヒュー、エリアスが助けに来てくれた! ここから逃げるぞ!」
「……! で、でも、どうやって……?」

ヒューは途方に暮れたように俺をベッドに繋いでいる鎖を見る。
口で説明するよりやった方が早い。
俺は手早くブランケットを身体に巻き付け、魔王が持ってきた本をベッドの下に積み上げていく。
この本は、このときのために用意させたんだ。
精液で膨れた腹では重労働で、途中で息を吐いていると、ヒューは俺がなにをしようとしているのか一瞬で理解したようで、ヒューが「お、おれが」と代わってくれる。
自動車のタイヤ交換をするときのジャッキの要領でベッドの下に本をかましていき、鎖が巻き付けられているベッドの脚を浮かせて鎖を引き抜くことに成功したのだった。

誰もいない空中廊下を抜けて隠し扉を抜けると、そこが魔王の玉座の間だ。
黒と金で統一されたバロック様式の広間で、奥の数段高くなった場所に絢爛豪華な天蓋の付いた玉座が据えられている。
壮麗なんだが、古のヴィジュアル系バンドのプロモーションビデオに出てきそうな、禍々しい雰囲気の内装だ。
玉座に髑髏ついてるしな。
俺が言うのもなんだが、こういう方向性にガチで金掛けてやっちゃったのはかなり痛いと思う。

エリアスが上手く敵を引き付けてくれているのか、警備は皆出払っていて誰もいない。
俺たちは玉座の間のある中央塔を難なく抜け、このまま運よくエリアスと合流出来ればよかったんだが、やはりそう上手くはいかなかった。

「これはこれは、聖者殿。どちらへおいでかな?」

勇者と魔王軍が交戦中の前線と思われる正門まであと少しというところで、魔王の側近のトムソンガゼル――確か、「レン」と呼ばれていた黒髪赤眼の魔族と鉢合わせてしまったのである。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...