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第二章 魔王復活
〇〇七 林檎の花の季節は過ぎている②
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「ありがとう、ヒュー。生き返った」
「メ、メシ、もあります。た、食べますか?」
「えっ、飯あるの? 食べる食べる」
「も、ももも持ってきます」
どれくらい眠っていたのかは分からないが、気付いてみれば腹が減っている。
ヒューが出入口の側にあったワゴンを押して来て、魔王の角みたいな形の取っ手が付いた銀製のドーム型のクロッシュを外すと、体長が三〇センチほどもある丸々と太った手長海老が乗ったリゾットが作りたてのような湯気を立てていた。
クロッシュか何かに魔法が掛かっていたらしい。
ヒューがそれをティーセットと一緒にトレーに乗せてベッドへ持ってきてくれようとしたのを断って、窓際のテーブルへ並べて貰うと、俺もベッドから起き上がって着られそうなものを探したが、何も見当たらなかったのでブランケットを巻き付けて鎖を引きずりながら席に着く。
遂に俺は平たい顔族から裸族になっちまったのか。
「うまそー! ヒューは食ったの?」
「た、食べました」
「そか!」
それを聞いて俺は安心して銀製のスプーンを取った。
海老味噌と濃厚なバター風味のインディカ米に、とろとろに蕩けたチーズが絡んでいて無茶苦茶旨い。
この世界ではまだ食べ物でハズレを引いたことがないんだけど、魔王城でもそれは同じらしい。
魔族もこんな旨いものが作れるなら人間なんて喰わなきゃいいのに。
「うめー! 俺、米食うの久しぶり。ヴェイラの人たち、あんまり米食わないよな。こんなに旨いのに」
市場では流通しているし、特別珍しいわけではないんだが、ヴェイラの人たちの主食はパンなので単に米を食べる習慣がない。
獣人領の王城でもヴェイラの王宮でも辺境伯領の城でも米料理は出なかった。
診療所にいた頃も、所長も俺も料理はからっきしなんで、外食か買ってきたもので済ませていたし、米なんて買っても炊けるはずもないから、食べられなかったのだ。
「こ、米、食べたこと、ないです」
「えっ、ヒューの飯、これと同じのじゃなかったのかよ? どんなのだったんだ?」
「パ、パンとスープ」
「マジかよ。魔王ケチくせえな。今度来たら文句言ってやろ。ヒュー、ちょっとこれ一口食ってみろよ」
リゾットを一匙掬ってヒューに差し出すと、ヒューは最初は躊躇っていたが、やがて恐る恐る口を開いて、ぱくりとスプーンに食らいついた。
ゆっくりと数回咀嚼した後、青い眼が驚愕に見開かれる。
「!?!?!?」
「な? 米うめえだろ?」
こくこくと頷くヒューに、二匙目を差し出そうとすると断られたので、殻を剥いた手長海老を分けてやって残りを平らげた。
身体は相変わらず怠いが、食べたら元気が出てくるのだから現金なものだ。
着るものがないのでブランケットを体に巻き付け、鎖の届く範囲で部屋の中を見て回る。
勿論、脱出計画を練るためだ。
鎖は天蓋付きの大きなベッドの脚に括り付けられていて、トイレとバスルームになんとか入れる長さだった。
鎖が邪魔でトイレのドアが閉められないのには絶望したが、ベッドを何かで持ち上げられたら鎖を外せるかも知れない。
俺は気を失っている間にここへ連れてこられたので、今いる場所もよく分かっていない。
ところがなんとヒューは城の内部構造や部屋の位置を凡そ把握していることが分かりとても役立った。
やはり頭のいいやつだ。
ヒューから得た情報によると、この城は、玉座の間のある中央の一番高い塔を中心に、五芒星を逆さにしたような悪趣味な形で重要な施設が配置されているらしい。
今俺たちがいるこの部屋は、玉座の間のある中央塔の丁度裏側の後宮にあたる塔の天辺にあるのだという。
他の塔とは繋がっておらず、玉座のすぐ後ろのタペストリーで覆われた壁にある隠し扉の空中通路からしか出入りできない。
玉座の間はこの魔王城の中心部なので警備が厳重で突破は難しいだろう。
ヒューはそれらの情報を、厨房へ食事を取りに行ったり、取り替えたリネンを洗濯係のところへ持って行ったりして、城中を走り回ったついでに知ったのだそうだ。
俺とヒューに首に付けられた首輪は、魔王の所有物ということを示しているらしく、この首輪をしている限り他の魔族や魔獣に危害を加えられることはないし、ヒューは城内を比較的自由に動けるらしい。
「メ、メシ、もあります。た、食べますか?」
「えっ、飯あるの? 食べる食べる」
「も、ももも持ってきます」
どれくらい眠っていたのかは分からないが、気付いてみれば腹が減っている。
ヒューが出入口の側にあったワゴンを押して来て、魔王の角みたいな形の取っ手が付いた銀製のドーム型のクロッシュを外すと、体長が三〇センチほどもある丸々と太った手長海老が乗ったリゾットが作りたてのような湯気を立てていた。
クロッシュか何かに魔法が掛かっていたらしい。
ヒューがそれをティーセットと一緒にトレーに乗せてベッドへ持ってきてくれようとしたのを断って、窓際のテーブルへ並べて貰うと、俺もベッドから起き上がって着られそうなものを探したが、何も見当たらなかったのでブランケットを巻き付けて鎖を引きずりながら席に着く。
遂に俺は平たい顔族から裸族になっちまったのか。
「うまそー! ヒューは食ったの?」
「た、食べました」
「そか!」
それを聞いて俺は安心して銀製のスプーンを取った。
海老味噌と濃厚なバター風味のインディカ米に、とろとろに蕩けたチーズが絡んでいて無茶苦茶旨い。
この世界ではまだ食べ物でハズレを引いたことがないんだけど、魔王城でもそれは同じらしい。
魔族もこんな旨いものが作れるなら人間なんて喰わなきゃいいのに。
「うめー! 俺、米食うの久しぶり。ヴェイラの人たち、あんまり米食わないよな。こんなに旨いのに」
市場では流通しているし、特別珍しいわけではないんだが、ヴェイラの人たちの主食はパンなので単に米を食べる習慣がない。
獣人領の王城でもヴェイラの王宮でも辺境伯領の城でも米料理は出なかった。
診療所にいた頃も、所長も俺も料理はからっきしなんで、外食か買ってきたもので済ませていたし、米なんて買っても炊けるはずもないから、食べられなかったのだ。
「こ、米、食べたこと、ないです」
「えっ、ヒューの飯、これと同じのじゃなかったのかよ? どんなのだったんだ?」
「パ、パンとスープ」
「マジかよ。魔王ケチくせえな。今度来たら文句言ってやろ。ヒュー、ちょっとこれ一口食ってみろよ」
リゾットを一匙掬ってヒューに差し出すと、ヒューは最初は躊躇っていたが、やがて恐る恐る口を開いて、ぱくりとスプーンに食らいついた。
ゆっくりと数回咀嚼した後、青い眼が驚愕に見開かれる。
「!?!?!?」
「な? 米うめえだろ?」
こくこくと頷くヒューに、二匙目を差し出そうとすると断られたので、殻を剥いた手長海老を分けてやって残りを平らげた。
身体は相変わらず怠いが、食べたら元気が出てくるのだから現金なものだ。
着るものがないのでブランケットを体に巻き付け、鎖の届く範囲で部屋の中を見て回る。
勿論、脱出計画を練るためだ。
鎖は天蓋付きの大きなベッドの脚に括り付けられていて、トイレとバスルームになんとか入れる長さだった。
鎖が邪魔でトイレのドアが閉められないのには絶望したが、ベッドを何かで持ち上げられたら鎖を外せるかも知れない。
俺は気を失っている間にここへ連れてこられたので、今いる場所もよく分かっていない。
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