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第二章 魔王復活
〇〇四 トムソンガゼルとジャコブヒツジ②
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「お、お前ら、宇宙人だな! 俺の全身の血液を抜いて身体の一部を切り取った後、牧場に死体を捨てるつもりだろ!」
「は……? 血液? 牧場? そんなことをして何の意味がある?」
「何の意味もないから止めろって言ってるんだ!」
「……」
トムソンガゼルとジャコブヒツジが呆れたように顔を見合わせている。
「おい、待て待て。それより宇宙人とはなんだ。いまいち話が噛み合わないぞ」
「だってお前ら宇宙人だろ? グレイだろ?」
「グレイ? それは俺のことか? お前は俺をグレイと呼ぶのか?」
「そうだよ! 他に誰がいるんだ!」
「グレイ……そうか……グレイか。新しい名を授けてくれたことに礼を言おう、聖者よ」
ジャコブヒツジ――魔王は口の中で何度も「グレイ」と呟きながら感慨深げに頷いている。
「ぶっはっ!」
それまで黙って聞いていたトムソンガゼルが、耐えられないと言うように噴出した。
「魔王に新しい名を授ける聖者もどうかと思うが、聖者に新しい名を授かる魔王もどうかと思うぞ?」
――魔王?
宇宙人じゃ、ない?
キャトられない?
勘違い?
「ま、おう……?」
「如何にも。我が城にようこそ、聖者殿」
――俺は宇宙人にアブダクションされたんじゃなくて、魔王に攫われたのか。
そこで俺は漸く現状を理解した。
ということは、この二人は魔王とその側近か。
魔王に攫われた経験がある奴とアブダクションを体験したことある奴だけが俺に石を投げなさい……。
トムソンガゼルは、いつまでも笑ってんなよ!
「コイツ面白いな! 俺が貰ってもいいか?」
「駄目だ駄目だ。これは俺のものだ。これとまぐわっているところを勇者に見せつけてやるのだからな」
「残念。だが、これだけ華奢だとすぐに壊れそうだし、壊れたら俺に下賜してくれよ」
「ふむ。考えておこう」
まぐわ……!?
勘違いだと分かって俄かに安心しかけたけど、全然安心できない状況だった。
「ま、魔王は勇者に倒されたはずじゃ……?」
二人が一斉に俺の方を見た。
「そう易々と倒される俺ではない。勇者を確実に倒すために敢えて倒された振りをしていたまでのこと」
魔王はそこで一旦言葉を切り、ニヤニヤしながら挑発的に続けた。
笑うと牙が見え隠れする。
「だがしかし、お前という弱点がこちらの手にある以上、勇者に勝機はないな?」
「エリアスを誘き出すために俺を攫ったのか!?」
今度はトムソンガゼルが芝居がかった仕草で、黒くて長い爪の生えた指先を顎に当てて溜息を吐く。
「なかなか勇者の側から離れないから、やはり魔法陣に誘い込むための餌の年齢が高すぎたかと気を揉んだぞ。しかしあれより幼いのは泣き喚いて使い物にならなくてな」
子供に駆け寄ったとき、何か踏んだと思ったのは魔法陣だったのか。
しかも子供を脅して利用するなんて、卑怯な真似しやがって。
絶対に許せない。
「あの子はどうした!? 無事なのか!?」
「おやおや、自分を罠に嵌めた子供の心配をするのか。聖者殿はお優しいな」
ふざけるなよ。
どう考えたって、その子に罪はないじゃないか。
言い返そうとした刹那、俺は自分の体の異変に気付く。
この感覚は知っている。
俺の中ではもうすっかりお馴染みとなってしまった感覚だ。
治癒の後のいつものやつ――。
選りに選ってこんな最悪のタイミングで。
「は……? 血液? 牧場? そんなことをして何の意味がある?」
「何の意味もないから止めろって言ってるんだ!」
「……」
トムソンガゼルとジャコブヒツジが呆れたように顔を見合わせている。
「おい、待て待て。それより宇宙人とはなんだ。いまいち話が噛み合わないぞ」
「だってお前ら宇宙人だろ? グレイだろ?」
「グレイ? それは俺のことか? お前は俺をグレイと呼ぶのか?」
「そうだよ! 他に誰がいるんだ!」
「グレイ……そうか……グレイか。新しい名を授けてくれたことに礼を言おう、聖者よ」
ジャコブヒツジ――魔王は口の中で何度も「グレイ」と呟きながら感慨深げに頷いている。
「ぶっはっ!」
それまで黙って聞いていたトムソンガゼルが、耐えられないと言うように噴出した。
「魔王に新しい名を授ける聖者もどうかと思うが、聖者に新しい名を授かる魔王もどうかと思うぞ?」
――魔王?
宇宙人じゃ、ない?
キャトられない?
勘違い?
「ま、おう……?」
「如何にも。我が城にようこそ、聖者殿」
――俺は宇宙人にアブダクションされたんじゃなくて、魔王に攫われたのか。
そこで俺は漸く現状を理解した。
ということは、この二人は魔王とその側近か。
魔王に攫われた経験がある奴とアブダクションを体験したことある奴だけが俺に石を投げなさい……。
トムソンガゼルは、いつまでも笑ってんなよ!
「コイツ面白いな! 俺が貰ってもいいか?」
「駄目だ駄目だ。これは俺のものだ。これとまぐわっているところを勇者に見せつけてやるのだからな」
「残念。だが、これだけ華奢だとすぐに壊れそうだし、壊れたら俺に下賜してくれよ」
「ふむ。考えておこう」
まぐわ……!?
勘違いだと分かって俄かに安心しかけたけど、全然安心できない状況だった。
「ま、魔王は勇者に倒されたはずじゃ……?」
二人が一斉に俺の方を見た。
「そう易々と倒される俺ではない。勇者を確実に倒すために敢えて倒された振りをしていたまでのこと」
魔王はそこで一旦言葉を切り、ニヤニヤしながら挑発的に続けた。
笑うと牙が見え隠れする。
「だがしかし、お前という弱点がこちらの手にある以上、勇者に勝機はないな?」
「エリアスを誘き出すために俺を攫ったのか!?」
今度はトムソンガゼルが芝居がかった仕草で、黒くて長い爪の生えた指先を顎に当てて溜息を吐く。
「なかなか勇者の側から離れないから、やはり魔法陣に誘い込むための餌の年齢が高すぎたかと気を揉んだぞ。しかしあれより幼いのは泣き喚いて使い物にならなくてな」
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しかも子供を脅して利用するなんて、卑怯な真似しやがって。
絶対に許せない。
「あの子はどうした!? 無事なのか!?」
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ふざけるなよ。
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治癒の後のいつものやつ――。
選りに選ってこんな最悪のタイミングで。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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