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第二章 魔王復活
〇〇二 賢者の顔をした勇者③
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それはさておき、第一報で伝えられた「全滅」とは、軍事用語の「全滅」なので全員死んだってわけじゃなく、この場合は、部隊の三割、つまり戦闘要員の凡そ六割を喪失し、組織的な戦闘が行えない状態に陥ったという意味だ。
因みに「壊滅」が部隊の五割、戦闘要員の十割喪失。「殲滅」は部隊消滅という。
こういう用語やメソッドは、かつてのアルビオンでの大戦を教訓に、こちらにも入ってきていて実用されているらしい。
中途半端にローカライズして導入されていて、首を傾げるような部分もあり混乱するが、そこには大抵俺の考えが及ばないような、こちらの世界ならではの魔法が絡む事情や歴史的背景があったりするので慣れるしかない。
生存した者からの通信報告によると、郊外の農村が魔獣の襲撃を受けて討伐に赴いたのだが、魔獣だけでなく魔族が現れたのだと言う。
魔族が目撃されたのは魔王討伐以来、初めてのことらしく、詰所は一時騒然とする。
魔獣は知能も戦闘力も低く、姿かたちは獣のようなものが大多数だが、魔族は知能も戦闘力も高く、人型をしていて人語を話す。
そして魔獣と魔族を総称して魔物と呼ぶ。
魔獣は知能が低いので一頭では大したことは出来ず、人間たちに退治されてしまうが、魔族が使役していると事情が違ってくる。
魔王がまだ倒される前は、魔族が徒党を組んで魔獣を使役し、まるで訓練された軍隊のように効率的に町や村を襲撃していたという。
高位の魔族になると尻尾や角が生えている者もいるが、人間の女を攫って子を産ませているから混血も多く、半人半魔は見た目だけでは人間と区別が付かない。
俺が私塾で得た知識では、魔物は人を喰う。
普通の食事が出来ないわけではないのだが、人を好んで捕食するのだ。
しかも、魔物は総じて残虐性が高い上に性欲も強く、獲物を必ず犯していたぶりながら殺して喰うといわれている。
魔物にとって人間は性欲と食欲を両方満たしてくれる存在であり、犯すのも、殺すのも、喰うのも、生きる手段などではなく娯楽のための行為なのだ。
エリアスの通信が終わるのを見計らって、副隊長のヒルデブラントがやってきて移動の開始を促す。
「隊長、そろそろ船の準備も整う頃です。発着所へ移動しましょう」
「ご苦労。分かった」
ヒルデブラントは、アップバングにしたミルクティー色の髪と明るい緑色の瞳が爽やかな三十代半ばの筋肉系イケメンで、獣人領で治癒したときに、エリアスのことを「事故物件」って言ってた人だ。
貴族だからなのか、体育会系臭さがなく品が良くて話しやすそうな人だから仲良くなれたらいいんだけど、俺が他の隊員たちと話をしようとすると、エリアスが妙な心の狭さを見せて必ず邪魔をしてくるので、未だに誰とも会話らしい会話をしていない。
現地までは、前に獣人領の森からアルブム城まで乗せて貰ったときのような空飛ぶ帆船で行くらしい。
あのとき俺は、闇魔法の贄を捧げられなくてちょっとおかしなことになってて、豪華な船も全然楽しめなかったから、不謹慎だがちょっと楽しみだ。
しかし、俺がいそいそとエリアスの後に続くと、エリアスは急に振り返って俺の前で手を翳し制止した。
「ナナセは今回は詰所で待機だ」
「えっ!? なんでだよ!? 怪我人いっぱい出てるんだろ!?」
「初陣で魔族を相手にするには厳しすぎる」
「そんなこと言ってる場合かよ! エリーが俺を連れて行かないって言うなら、一人で勝手について行くぞ! そのほうが百倍面倒臭いぞ? どうする?」
「ぐ……」
エリアスは俺の決意に気圧されて言葉に詰まった。
落ちたな。
エリアスなら、知らないところで勝手に危ないことをされるくらいなら、目の届く範囲にいてくれたほうが幾分マシだと考えるに違いない。
「隊長の負けだな!」
ヒルデブラントが勝敗判定を下すと、俺たちの様子を窺って静まり返っていた詰所内に俄かに笑いと喝采が沸き起こった。
因みに「壊滅」が部隊の五割、戦闘要員の十割喪失。「殲滅」は部隊消滅という。
こういう用語やメソッドは、かつてのアルビオンでの大戦を教訓に、こちらにも入ってきていて実用されているらしい。
中途半端にローカライズして導入されていて、首を傾げるような部分もあり混乱するが、そこには大抵俺の考えが及ばないような、こちらの世界ならではの魔法が絡む事情や歴史的背景があったりするので慣れるしかない。
生存した者からの通信報告によると、郊外の農村が魔獣の襲撃を受けて討伐に赴いたのだが、魔獣だけでなく魔族が現れたのだと言う。
魔族が目撃されたのは魔王討伐以来、初めてのことらしく、詰所は一時騒然とする。
魔獣は知能も戦闘力も低く、姿かたちは獣のようなものが大多数だが、魔族は知能も戦闘力も高く、人型をしていて人語を話す。
そして魔獣と魔族を総称して魔物と呼ぶ。
魔獣は知能が低いので一頭では大したことは出来ず、人間たちに退治されてしまうが、魔族が使役していると事情が違ってくる。
魔王がまだ倒される前は、魔族が徒党を組んで魔獣を使役し、まるで訓練された軍隊のように効率的に町や村を襲撃していたという。
高位の魔族になると尻尾や角が生えている者もいるが、人間の女を攫って子を産ませているから混血も多く、半人半魔は見た目だけでは人間と区別が付かない。
俺が私塾で得た知識では、魔物は人を喰う。
普通の食事が出来ないわけではないのだが、人を好んで捕食するのだ。
しかも、魔物は総じて残虐性が高い上に性欲も強く、獲物を必ず犯していたぶりながら殺して喰うといわれている。
魔物にとって人間は性欲と食欲を両方満たしてくれる存在であり、犯すのも、殺すのも、喰うのも、生きる手段などではなく娯楽のための行為なのだ。
エリアスの通信が終わるのを見計らって、副隊長のヒルデブラントがやってきて移動の開始を促す。
「隊長、そろそろ船の準備も整う頃です。発着所へ移動しましょう」
「ご苦労。分かった」
ヒルデブラントは、アップバングにしたミルクティー色の髪と明るい緑色の瞳が爽やかな三十代半ばの筋肉系イケメンで、獣人領で治癒したときに、エリアスのことを「事故物件」って言ってた人だ。
貴族だからなのか、体育会系臭さがなく品が良くて話しやすそうな人だから仲良くなれたらいいんだけど、俺が他の隊員たちと話をしようとすると、エリアスが妙な心の狭さを見せて必ず邪魔をしてくるので、未だに誰とも会話らしい会話をしていない。
現地までは、前に獣人領の森からアルブム城まで乗せて貰ったときのような空飛ぶ帆船で行くらしい。
あのとき俺は、闇魔法の贄を捧げられなくてちょっとおかしなことになってて、豪華な船も全然楽しめなかったから、不謹慎だがちょっと楽しみだ。
しかし、俺がいそいそとエリアスの後に続くと、エリアスは急に振り返って俺の前で手を翳し制止した。
「ナナセは今回は詰所で待機だ」
「えっ!? なんでだよ!? 怪我人いっぱい出てるんだろ!?」
「初陣で魔族を相手にするには厳しすぎる」
「そんなこと言ってる場合かよ! エリーが俺を連れて行かないって言うなら、一人で勝手について行くぞ! そのほうが百倍面倒臭いぞ? どうする?」
「ぐ……」
エリアスは俺の決意に気圧されて言葉に詰まった。
落ちたな。
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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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