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番外編 勇者の休日

真鍮とオリハルコン② 【番外編 勇者の休日 完】

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「オリハルコンは真鍮に長い年月をかけて繰り返し儀式で魔力を注いで作られたものだったんじゃないかって俺は考えてるんだ。だから俺もメダイユを敢えて真鍮で鋳造して貰ってたんだけどな。でも、まさかエリーが聖剣の柄に填め込むとは思ってはいなかったぜ」

待て。待ってくれ。
ナナセは何を言っている?
何をやろうとしている?
もしや、ナナセは始めから意図的にオリハルコンを作ろうとしていたというのか!?

「これはあくまで俺の個人的な仮説なんだけど、高威力の闇魔法に繰り返し曝されていたメダイユが、短期間で急速にオリハルコン化していたとしたら……」

ナナセはそこで言葉を切り、ポケットの中を何やらごそごそしていたかと思うと一枚の見慣れない硬貨を取り出してこちらへ翳して見せた。
硬貨は冷めた金色をしていて、中央に開いた丸い穴に紅白の飾り紐を通して結んである。

「これは俺の生まれた国の通貨で五円玉って言って、これも真鍮で出来てるんだけど、神に願いを込めて儀式的に捧げるときは大抵この五円玉が使われるんだ。真鍮は魔力だけじゃなく、そういった人の想いなんかも吸収しやすい金属なのかも知れないよな」

私が沈黙しているのをどう勘違いしたのか、ナナセは硬貨をしまいながら慌てて弁解しだす。

「ああ、ごめんな。こんな話、エリーにはつまんなかったよな。俺、金属が大好きでさ。特にこういう合金が好きなんだけど、話し出すと止まんなくなっちゃうんだ」
「いや、つまらなくなどないよ。寧ろ興味深い話だった」

嘘ではない。
私も丁度、指輪の素材について悩んでいたのだから大変興味深い話ではある。

「ホントか?」
「本当だ。もっと聞きたい。合金が好きということは、純度の高い金や銀や白金などには興味はないのか?」

私と合金の話が出来ると思ったのか、金や銀や白金と聞いて、ナナセはあからさまに落胆した後で、心の底から興味がなさそうに「ないなー」と返した。

詰んだ。

「そうか。では、どんな合金が好きなんだ?」

混ざり物があると肌がかぶれることもあるから、滅多なものは使いたくないのだが、参考までに訊いてみる。
なにしろオリハルコンを自作しようとしている相手に贈る指輪なのだ。
それより上がない以上、用いる金属の素材選びに失敗したら受け取って貰えるかどうかも怪しい。

「そうだなー。色々あるけど、やっぱ一番はチタン合金かなー」
「チタン合金」

僅かな光明が見えてきた。
硬くて強度があり軽い金属だが加工が難しいと聞く。
この場合、彫金術士ではなく鍛冶術士を当たるべきだろうか。
北の宇宙ウルソナの鍛冶術士ならなんとかなるかも知れない。

因みに、これで漸く婚約指輪エンゲージリングの方向性の目途が立った私が、結婚指輪マリッジリングというペアリングの存在を知るのは、もう少し先のことである。
勿論、その素材はもうオリハルコンしか残されていないわけだが、それはまた別の話だ。

お喋りはこのくらいにしよう。
聖剣を手の届く場所に立て掛け、ベッドの上でチタン合金について熱く語るナナセの服を脱がしに掛かる。
出来ればベッドの上では、もう少し色気のある話題にして欲しいのだが、そういう相手に惚れてしまったのだから、甘んじて受け入れよう。

今回の件もだが、ナナセと一緒にいると度々こういった、最初からそうなるように決められていたのではないかと疑いたくなる場面に遭遇する。
例えば、王都を脱出したナナセがルートヴィヒ殿下と同行することになったり、暗殺未遂で大怪我を負ったフリードリヒ陛下をナナセが救ったり……。

煩雑な手順を踏み、状況が二転三転しても、その道程に必ず意味があった。
何か少しでもタイミングが狂えば全てが台無しになっていたことだろう。

私も四年待って欲しいと言われたときは絶望しかけたが、結果的に四年間の休暇――もとい、警護任務を命じられた今となっては神の采配かと思えるほど私にとって都合が良すぎる。
どういうわけか、ナナセに関わる事柄は、何か問題が発生したその当時は理不尽だと感じても、後々になってみると総ての事象が有効に作用した。

――止めよう。人知の及ばぬ領域のことなど考えても仕方がない。
今はただ、ナナセと出逢えた奇跡だけを享受していればいいのだ。

「異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが」番外編 勇者の休日 完
※次回から第二章「魔王復活」が始まります。第二一章の登場人物紹介とイラストを先に投稿しているのでご注意ください。
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