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番外編 勇者の休日
花咲く谷②
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父は兄夫妻と母を連れて、わざわざ転移門のあるこの側防塔の天辺まで出迎えに出てきていたのだ。
「アルブレヒト・フォン・ブルーメンタールだ。斯様に遠いところまでようこそおいで下さいました、聖者様」
上からなのか下からなのか、せめてどちらかに言い方を統一しろと思ったが、聖者という他に類を見ない唯一無二の立場をこの貴族階級に当てはめると一体どのような身分に属するのか、父も多少なりとも戸惑っているようだ。
「エリアスよ、お前の活躍は王都より遠いこの地にも届いているぞ。よくぞ聖者様を護り抜いた。父としてお前を誇らしく思うぞ」
――これは、ナナセの逃避行が一体どのように伝わっているのか、聞くのが少し怖い。
知らないうちに盛大に尾鰭が付いてしまっているのではないだろうか。
力強く肩を叩かれ、私が目礼で応えると、ナナセも慌てて前に進み出て差し出された手を取った。
「閣下。聖者様は止めてください。できればナナセと」
貴族ではないのに、ナナセは貴族の挨拶を知っている。
辺境伯相手にナナセが堂々と挨拶できることを誇らしく思いながら、得意になって父を見ると、あろうことか父はナナセの手の甲に口付けをかましていた。
「そうか。では、私のことも閣下は止めてくれ給え」
そう言いながら、なんと父は顎髭を弄りながら片目を瞑り、ナナセに秋波を送っている。
これは多分、私を揶揄って面白がっているだけなので無闇に相手にしてはいけない。反応したら思う壺だ。
「わかりました、ブルーメンタール卿」
「いやいや、義理の息子になるのだから父と呼んでくれ」
私を見上げてくるナナセに頷くと、ナナセは首を傾げる。
「エリーは何て?」
「『父上』と呼んでいる」
「では義父上とお呼びしてもいいでしょうか」
「ああ、是非そうしてくれ」
気恥ずかしかったのか、ナナセは頬を赤らめ目を伏せて一歩下がると、上手く挨拶できたことを誉めてくれと言うように、私の袖を掴んだ。
とてもいいんだが、よすぎて顔がにやけてしまうので家族の前で余り可愛いことをしないで貰いたい。
「さあ、妻と息子夫婦たちを紹介しよう。三男のエリアスはもうお見知りかな?」
父は面白くもない冗談を言い、母のゼルダ、長兄のアルウィン、次兄のクローヴィスと、それぞれの妻たちを順に紹介し、更に嫁に行ってここにはもういない長姉のバルドハートと次姉のディドゥリカについても話し始めたので、母が「挨拶はもうそのくらいにして、続きはサロンで致しましょう」と諫めてくれた。
それまで後ろに控えていた私の従僕のエミールとこの城の従僕に荷物を任せ、屋内に入る。
家族とは魔王討伐が終わった直後に報告に来た際にも会っているし、祝勝祭の式典でも会った。
別に不仲と言う訳ではないが、十五で王都へ出て騎士見習いになってからずっと王宮勤めだったため、これほど頻繁に家族と顔を合わせることは珍しい。
ナナセがこの城に滞在中、継続的な治癒を施したい旨を申し出ると、父は歓迎の言葉を述べ、それから語った。
父の旧友であり、辺境伯領の騎士団長だった男が、魔物討伐の際に隻腕になり退役していたのだが、王都でナナセの治癒を受け、現役復帰するため現在再鍛錬中なのだという。
その者なら私も覚えているが、その話を聞くのは初めてだ。
淡々と語られる父の思いを、ナナセは静かに受け止めていた。
「アルブレヒト・フォン・ブルーメンタールだ。斯様に遠いところまでようこそおいで下さいました、聖者様」
上からなのか下からなのか、せめてどちらかに言い方を統一しろと思ったが、聖者という他に類を見ない唯一無二の立場をこの貴族階級に当てはめると一体どのような身分に属するのか、父も多少なりとも戸惑っているようだ。
「エリアスよ、お前の活躍は王都より遠いこの地にも届いているぞ。よくぞ聖者様を護り抜いた。父としてお前を誇らしく思うぞ」
――これは、ナナセの逃避行が一体どのように伝わっているのか、聞くのが少し怖い。
知らないうちに盛大に尾鰭が付いてしまっているのではないだろうか。
力強く肩を叩かれ、私が目礼で応えると、ナナセも慌てて前に進み出て差し出された手を取った。
「閣下。聖者様は止めてください。できればナナセと」
貴族ではないのに、ナナセは貴族の挨拶を知っている。
辺境伯相手にナナセが堂々と挨拶できることを誇らしく思いながら、得意になって父を見ると、あろうことか父はナナセの手の甲に口付けをかましていた。
「そうか。では、私のことも閣下は止めてくれ給え」
そう言いながら、なんと父は顎髭を弄りながら片目を瞑り、ナナセに秋波を送っている。
これは多分、私を揶揄って面白がっているだけなので無闇に相手にしてはいけない。反応したら思う壺だ。
「わかりました、ブルーメンタール卿」
「いやいや、義理の息子になるのだから父と呼んでくれ」
私を見上げてくるナナセに頷くと、ナナセは首を傾げる。
「エリーは何て?」
「『父上』と呼んでいる」
「では義父上とお呼びしてもいいでしょうか」
「ああ、是非そうしてくれ」
気恥ずかしかったのか、ナナセは頬を赤らめ目を伏せて一歩下がると、上手く挨拶できたことを誉めてくれと言うように、私の袖を掴んだ。
とてもいいんだが、よすぎて顔がにやけてしまうので家族の前で余り可愛いことをしないで貰いたい。
「さあ、妻と息子夫婦たちを紹介しよう。三男のエリアスはもうお見知りかな?」
父は面白くもない冗談を言い、母のゼルダ、長兄のアルウィン、次兄のクローヴィスと、それぞれの妻たちを順に紹介し、更に嫁に行ってここにはもういない長姉のバルドハートと次姉のディドゥリカについても話し始めたので、母が「挨拶はもうそのくらいにして、続きはサロンで致しましょう」と諫めてくれた。
それまで後ろに控えていた私の従僕のエミールとこの城の従僕に荷物を任せ、屋内に入る。
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淡々と語られる父の思いを、ナナセは静かに受け止めていた。
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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