異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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番外編 勇者の休日

王宮の鳥籠③

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ルートヴィヒ殿下と何があったのかは後で詳しく訊くとして、この宮殿には私の祖先が金に物を言わせて自費で設置したブルーメンタール辺境伯領への転移門がある。
貴族でこのヴェルスパ王宮内から自分の領地への転移門を所有するのは、ヴェイラ王国ではブルーメンタール辺境伯だけだ。
それだけ王家の信頼が厚く、抱えている魔法士の質も高いということである。

「転移門は俺が動かすから心配いらないぜ!」

ナナセは軽々しく言っているが、この国に転移門を動かせる高位魔法士が何人いるのか、しかも自分も稀少なその一人に数えられることを果たしてナナセは分かっているのだろうか……。

転移門などという使い方によっては形勢をひっくり返せるような長距離移動装置が国の中央、しかも王宮の敷地内に存在するのは、それを扱えるものが少ないのと、一度に転移させられる人数が限られているからだ。

本来、転移魔法は高位大魔法に分類されるもので、普通は一度使えば魔力が尽きて連続行使は出来ないし、大体ナナセのように短い詠唱で即時行使出来る者は見たことがない。
私がナナセを追って白騎士隊を引き連れて獣人領へ転移出来たのは、国中の魔法士の協力があってこそだったのである。

獣人領のアルブム城からヴェイラ王国のヴェルスパ王宮へ帰るときも、ルートヴィヒ殿下と二名の側近、それから私とナナセだけが転移門を使い、その他の者は陸路で帰投する手筈になっていたのだが、ナナセが小首を傾げて「なんで? みんな一緒に帰ればいいじゃん?」などと言い出して、バルコニーに入りきれない全員を二度に分けて本当に転移させてしまったのだ。

これは非常に由々しき問題だった。
もしも、敵国の城内に軍を大量派兵出来る者が存在するとしたら――。
ナナセ一人いれば最小限の戦力で戦況を覆せるということになる。
即座に目撃者全員に箝口令が敷かれ、ナナセは宮殿の奥の鳥籠のような部屋に押し込められ厳重な警護がつくこととなったのだ。

本人は治癒と転移の他、魔法は何も使えないと言っているが、その実、ナナセには底知れないところがある。
父親であるスバル殿は攻撃魔法専門の闇魔法士だと聞いたし、そもそも怪しさで言えば、若い頃に異世界転移を経験しているという母親の方が得体が知れない分、数段怪しい。
あの二人の子であるとすれば、他にも何らかの才を受け継いでいる可能性は否定できない。
もしかすると、ナナセは何かとんでもないモノの血を引いているのではないだろうか。

知識がないことが怖い。
情報を手に入れられないことが怖い。
ナナセを護ろうにも何から護ればいいのかすら分からない、この状況が恐ろしかった。

母親の転移に関しては過去の文献を調べてみれば何か分かるかも知れないし、その辺りのことは、ナナセのご両親とは旧知の中であるという所長を一度問い詰めてみる必要があるだろう。

「落ち着け。すぐには無理だ。陛下や殿下に黙って行くわけにはいかないだろう。それに、実家のほうの準備もある」
「それもそうだな。すまん。はしゃぎすぎた」

ナナセはそう言いつつもまだ興奮冷めやらぬ様子で、矢継ぎ早に質問してくる。

「エリーの兄弟も一緒に住んでるのか? エリーは末っ子なんだっけ? 何人兄弟? 兄弟ってどんな感じ?」
「両親と兄二人が同居している。姉も二人いるがすでに嫁いだ。兄弟は、そうだな……言ってしまえば、敵に回すと恐ろしくて味方に付けると頼りない感じだ」

私の家族にまで興味を持って貰えることに嬉しく思いながら、訊ねられたことについて端的に説明すると、ナナセは「ぶはっ」と噴出した。

「なんだよそれ、楽しそうだな」
「ナナセの家ほど楽しくはないと思うが、王都より静かだから寛げるとは思う。それはそうと部屋に何か希望はあるか?」
「普通でっ! こういう他の部屋と様子が違うようなのじゃなくて、あくまで普通なのがいいっ! なんならエリーの部屋でいいっ!」
「うちの領地は一年を通じて色とりどりの花が咲く谷にあるから、様々な花の名が付いた自慢の客室があるんだが……」
「……やっぱり行かない」
「ッ!?」

この後、カウチソファーにばったりと倒れ込んでしまったナナセのご機嫌を戻すのに、私は大変な労力を要したが、それはそれで楽しい時間でもあった。
私たちはまだ喧嘩らしい喧嘩はしたことがないが、私は多分、ナナセとなら少しくらいなら喧嘩するのだって楽しいのだと思う。
それよりも、フリードリヒ陛下やルートヴィヒ殿下に対抗した上に巻き返せるまたとない機会だったのに、却下されてしまったことが手痛い。
しかし、そのお陰で私は陛下や殿下と同じ轍を踏まずに済んだことを、すぐに知ることになる。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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