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第一章 聖者降臨
〇四五 明けない夜はない③ 【第一章 聖者降臨 完】
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この一年は異世界へ転移して、言葉も通じず右も左も分からない中、元宮廷治癒術士の所長に拾われて、私塾で言葉やこの世界のことを学びながら、診療所で治癒を施して慌ただしく過ごした。
そうした日々が、実は穏やかだったと思えるほどに、ここ数日は怒涛のようだった。
エリアスに求婚されて、その後不可抗力でセックスしちゃって、王都から逃げ出して、ヴェイラ王国の王子様ルートヴィヒ殿下と出会って一緒に小旅行して、負傷していた獣人領の王様フリードリヒ陛下を治癒してお城に招待されて、お城でも治癒をして、それからエリアスに恋をした――。
数時間前にお城の舞踏会を抜け出して、一度家に帰って、この世界へまた戻ってきたなんて信じられない。
「ナナセ、スバル殿の言っていたことを覚えているか?」
この数時間のことをしみじみと思い返していると、同じく今日のことを思い返していたらしいエリアスが話しかけてくる。
「闇魔法のこと?」
「そうだ。ナナセより先に死ぬなと言われたことだ」
あー、そっちか。
俺はてっきり生贄をグレードアップさせた方の件かと思ったんだが、エリアスはさっき仮にも俺を殺す宣言してしまったから、それを気にしているんだろう。
生贄を捧げられなくなった闇魔法士の末路――。
自分のものではない意思に支配され、子種を求めて誰彼構わず股を開いてしまう発情状態の末に惨めに死んでいくくらいならエリアスの手で殺されたいと思うのは当然のことだが、それがどれほどエリアスを苦しませる結果になるか、俺だって考えない訳じゃない。
好きな人には、希望が潰えない限り、どんな状態だって生きていて欲しいって考えてしまう。
俺は今とっても気分が良くて、この余韻にもうちょっと浸っていたいから、生贄グレードアップの件はまたの機会に物申すとしてエリアスに続きを促す。
「私はナナセを一人では死なせはしない」
「それって、もしも俺が不慮の事故か何かで先に死んだら、エリーは後追い自殺するってこと?」
エリアスはそれには答えず、俺の手を取って指先に口付ける。
死ぬときは一緒とか心中的な話なのかと思ったらそれも違ったようだ。
「もしもナナセが私より先に死ぬようなことがあれば、私は魔王になってしまうかもしれない。だから……」
「……なあエリー、いいこと教えてやろうか」
人差し指をクイクイと曲げて耳を貸すように催促すると、寄せてきた耳元に俺のとっておきの秘密を教えてやった。
「魔王になっても俺はエリーのことが好きだよ」
「……!」
ついでにチュッと音を立てて耳に口付けてやると、エリアスはビクッと跳ねて心底驚いた顔で俺を見る。
そんな分かり切ったことすら俺が言ってやらなくちゃ分からないなんて、エリアスは俺に関することにはやっぱりちょっとお馬鹿になるようだ。
俺がニヤニヤしていると、エリアスは決まりが悪そうに居住まいを正して俺の肩を抱き、俺の唇を自分のそれで塞いできた。
――明けない夜はない。
それが、どんなに楽しい夜だったとしても、明けない夜はないのだ。
吹き抜ける朝の風からは、そろそろ夏の気配がする。
朝焼けの空にひとつだけ輝く星が消えるまで、俺たちはいつまでも一緒に見ていた。
「異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが」第一章 聖者降臨 完
※次回から勇者視点番外編→二章→三章→最終章と続きます。
そうした日々が、実は穏やかだったと思えるほどに、ここ数日は怒涛のようだった。
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数時間前にお城の舞踏会を抜け出して、一度家に帰って、この世界へまた戻ってきたなんて信じられない。
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「闇魔法のこと?」
「そうだ。ナナセより先に死ぬなと言われたことだ」
あー、そっちか。
俺はてっきり生贄をグレードアップさせた方の件かと思ったんだが、エリアスはさっき仮にも俺を殺す宣言してしまったから、それを気にしているんだろう。
生贄を捧げられなくなった闇魔法士の末路――。
自分のものではない意思に支配され、子種を求めて誰彼構わず股を開いてしまう発情状態の末に惨めに死んでいくくらいならエリアスの手で殺されたいと思うのは当然のことだが、それがどれほどエリアスを苦しませる結果になるか、俺だって考えない訳じゃない。
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エリアスはそれには答えず、俺の手を取って指先に口付ける。
死ぬときは一緒とか心中的な話なのかと思ったらそれも違ったようだ。
「もしもナナセが私より先に死ぬようなことがあれば、私は魔王になってしまうかもしれない。だから……」
「……なあエリー、いいこと教えてやろうか」
人差し指をクイクイと曲げて耳を貸すように催促すると、寄せてきた耳元に俺のとっておきの秘密を教えてやった。
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「……!」
ついでにチュッと音を立てて耳に口付けてやると、エリアスはビクッと跳ねて心底驚いた顔で俺を見る。
そんな分かり切ったことすら俺が言ってやらなくちゃ分からないなんて、エリアスは俺に関することにはやっぱりちょっとお馬鹿になるようだ。
俺がニヤニヤしていると、エリアスは決まりが悪そうに居住まいを正して俺の肩を抱き、俺の唇を自分のそれで塞いできた。
――明けない夜はない。
それが、どんなに楽しい夜だったとしても、明けない夜はないのだ。
吹き抜ける朝の風からは、そろそろ夏の気配がする。
朝焼けの空にひとつだけ輝く星が消えるまで、俺たちはいつまでも一緒に見ていた。
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※次回から勇者視点番外編→二章→三章→最終章と続きます。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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