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第一章 聖者降臨
〇四五 明けない夜はない②
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俺の提案にフリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下も乗ってきた。
「ナナセからのダンスのお誘いとあらば喜んで」
「余と一曲如何かな、ナナセ」
複雑な表情をしているエリアスの手を引いて、フリードリヒ陛下もルートヴィヒ殿下も誘って舞踏会へ戻ると、まだ結構人がいて、相当出来上がっちゃって様子のおかしい人や、馬鹿騒ぎをして髪や服装の乱れた人や、酔いつぶれて床に転がっている人ももチラホラ覗える。
そんな中でも、フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下に気付くと数人ずつのグループが代わる代わる進み出てボウ・アンド・スクレープやカーテシーをして行く。
例の盛り上げ役の侍従と宮廷道化師と宮廷吟遊詩人もすぐに俺たちに気付いてまた小芝居を始め、演奏がすぐに変わった。
今度の曲は三拍子でテンポの速いガリアードだ。
侍従によるステップの講習があり、絶対ステップを知ってるはずのフリードリヒ陛下やルートヴィヒ殿下まで練習に参加して、自ら道化師に絡まれに行っては吟遊詩人に弄られていたのがツボって、俺は笑い過ぎてお腹が痛くなった。
やっぱりこいつらお笑いコンビ結成すべきだ。
ルッツ&フリッツのコント見たい。
このガリアードはペアになったりする必要もなく、基本のステップさえ覚えてしまえば、後はアドリブで好き勝手にぴょんぴょん跳ねていればいい。
これ、絶対楽しいやつ!
練習が終わり、俺はエリアスと手を繋いだまま真っ先に躍り出た。
エリアスも今度はちょっと楽しそうだ。
向かい合って踊ってみると、エリアスは身長あるし脚が長くて動きにキレがあるからクッソ格好良い。
なんなん!? キレッキレ! MMDかよ!
こんだけ踊れて社交界苦手だって言うんだから何て勿体ない。
そのうちルートヴィヒ殿下が俺の前に割り込んで来て「こんな風に踊れる?」っていうようにアレンジを加えた複雑なステップを王子様らしく優雅に踏んだので、俺もその挑戦を受けてルートヴィヒ殿下のステップを真似て見せると、そこにフリードリヒ陛下が交ざる。
フリードリヒ陛下のダンスは完全にネコ科の動物の動きで軸がブレない。
体幹が人間と違う。これはずるいだろ。
ギャラリーからも「おお~!」って歓声が起こってるし。
俺が両手を挙げて降参して、すごすごとエリアスの元へ逃げ帰ると、ルートヴィヒ殿下が「試合に勝って勝負に負けたって感じだな」とフリードリヒ陛下を弄る。
夜通し踊っても足りないくらいだったが、舞踏会は夜明けと供に終わるのだ。
いっそ、夜が明けなければいいと思う。
だが、そんな俺の願いも空しく、空が菫色と桃色に染まる頃、舞踏会はお開きとなった。
この城に居候中の俺とエリアスは手を繋ぎながら閑散としたテラスへ出てベンチに座る。
舞踏会の終焉はどこか物悲しい。
憧憬、焦燥、哀愁、慕情、郷愁、後悔、期待、その他にも色んな感情がないまぜになって、泣きたいような笑いたいような、胸を掻き毟られるような不思議な気持ちになるんだ。
みんな帰る場所があって、そこへ帰って行く。
俺の帰る場所はどこだろう?
アルビオンの実家?
ヴェイラ王都の診療所?
この城の、あのファンシーな部屋だろうか?
それとも――。
俺はエリアスを見上げ、繋いでいた手を握り直した。
俺の帰る場所はきっとここだ。
エリアスの隣しかありえない。
「ナナセからのダンスのお誘いとあらば喜んで」
「余と一曲如何かな、ナナセ」
複雑な表情をしているエリアスの手を引いて、フリードリヒ陛下もルートヴィヒ殿下も誘って舞踏会へ戻ると、まだ結構人がいて、相当出来上がっちゃって様子のおかしい人や、馬鹿騒ぎをして髪や服装の乱れた人や、酔いつぶれて床に転がっている人ももチラホラ覗える。
そんな中でも、フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下に気付くと数人ずつのグループが代わる代わる進み出てボウ・アンド・スクレープやカーテシーをして行く。
例の盛り上げ役の侍従と宮廷道化師と宮廷吟遊詩人もすぐに俺たちに気付いてまた小芝居を始め、演奏がすぐに変わった。
今度の曲は三拍子でテンポの速いガリアードだ。
侍従によるステップの講習があり、絶対ステップを知ってるはずのフリードリヒ陛下やルートヴィヒ殿下まで練習に参加して、自ら道化師に絡まれに行っては吟遊詩人に弄られていたのがツボって、俺は笑い過ぎてお腹が痛くなった。
やっぱりこいつらお笑いコンビ結成すべきだ。
ルッツ&フリッツのコント見たい。
このガリアードはペアになったりする必要もなく、基本のステップさえ覚えてしまえば、後はアドリブで好き勝手にぴょんぴょん跳ねていればいい。
これ、絶対楽しいやつ!
練習が終わり、俺はエリアスと手を繋いだまま真っ先に躍り出た。
エリアスも今度はちょっと楽しそうだ。
向かい合って踊ってみると、エリアスは身長あるし脚が長くて動きにキレがあるからクッソ格好良い。
なんなん!? キレッキレ! MMDかよ!
こんだけ踊れて社交界苦手だって言うんだから何て勿体ない。
そのうちルートヴィヒ殿下が俺の前に割り込んで来て「こんな風に踊れる?」っていうようにアレンジを加えた複雑なステップを王子様らしく優雅に踏んだので、俺もその挑戦を受けてルートヴィヒ殿下のステップを真似て見せると、そこにフリードリヒ陛下が交ざる。
フリードリヒ陛下のダンスは完全にネコ科の動物の動きで軸がブレない。
体幹が人間と違う。これはずるいだろ。
ギャラリーからも「おお~!」って歓声が起こってるし。
俺が両手を挙げて降参して、すごすごとエリアスの元へ逃げ帰ると、ルートヴィヒ殿下が「試合に勝って勝負に負けたって感じだな」とフリードリヒ陛下を弄る。
夜通し踊っても足りないくらいだったが、舞踏会は夜明けと供に終わるのだ。
いっそ、夜が明けなければいいと思う。
だが、そんな俺の願いも空しく、空が菫色と桃色に染まる頃、舞踏会はお開きとなった。
この城に居候中の俺とエリアスは手を繋ぎながら閑散としたテラスへ出てベンチに座る。
舞踏会の終焉はどこか物悲しい。
憧憬、焦燥、哀愁、慕情、郷愁、後悔、期待、その他にも色んな感情がないまぜになって、泣きたいような笑いたいような、胸を掻き毟られるような不思議な気持ちになるんだ。
みんな帰る場所があって、そこへ帰って行く。
俺の帰る場所はどこだろう?
アルビオンの実家?
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この城の、あのファンシーな部屋だろうか?
それとも――。
俺はエリアスを見上げ、繋いでいた手を握り直した。
俺の帰る場所はきっとここだ。
エリアスの隣しかありえない。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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