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第一章 聖者降臨
〇四二 イフタフ・ヤー・シムシム②
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これは、闇魔法じゃない。
代償のいらない類の魔法。
複雑な魔法陣と術式がそれを可能にしている。
うちの物置には、親父一人の残滓しかなかったし、あの時は術式の意味なんて分からなくて変な感じがしたとしか思わなかったけれど。
凄い……。これだけの人の魔法の残滓が蓄積されてこんなに大きく青白く輝いているなんて。
ヴェイラの上空にもよく探せば青白い光が見つかるかも知れない。
ただ、使ったのが俺と親父だけだろうから、これほど大きく強い光ではなくて、うちの物置の電球よりも小さな光だろう。
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下が何か言っていたが、魔法の術式に集中していた俺にはもう何も聞こえなかった。
転移先は「俺ん家の物置」だ。
その場所は俺の中に最初からあった。
これは魔法の残滓を記憶するだけの装置だから、俺が魔法の形跡を一切残さなければ次に使うときは転移先はヴェイラのままだ。
――いける。
そう、確信する。
多分、質量も時間さえも無意味。
距離も関係ない。だが極端に近いと逆に魔力を食う。
例えるなら、転移魔法は一本の針金の両端を合わせて輪っかを作る作業に似ている。
長さ一メートルの針金で輪っかを作るのと、長さ一センチの針金で輪っかを作るのとでは、針金の太さが同じなら、後者の方がより多くの力が必要となり難易度は格段に高くなる。
だから一センチ横に転移するのには膨大な魔力を必要とするが、一定距離以上になれば、隣国のヴェイラへ転移するのも遥か遠くの異世界へ転移するのもそう変わらない。誤差の範囲だ。
トリガーさえ分かっていれば呪文は何だっていい。
寧ろ呪文さえも、いらない。
こっちに転移してきたばかりのとき、これだけ出鱈目な治癒魔法が使えるなら帰ることも出来るだろうと色々試してみたのに全然駄目だった理由が今ならわかる。
俺は「帰りたい」ってただそれだけをひたすら念じていたから駄目だったんだ。
これは「門」なんだから「開け」が正解だろう。
とても門には見えないけど、魔法によって門という概念を付与されている、そういうものなんだ。
転移門は何時でも使える状態でヴェイラ王都全体にずっとあったのに、俺は「開け」というトリガーを知らなかったから使うことが出来なかったのだ。
わかってみればなんて間抜けなことだろう。
これってアレだよな、「オズの魔法使い」オチ。
ドロシーは元の世界へ帰れる銀の靴を最初に手に入れていたのにも拘わらず「踵を鳴らす」というトリガーを知らなかったがために、カカシとブリキの木こりと臆病なライオンと供にエメラルドの都を目指すことになった。
ライオンはフリードリヒ陛下がいるし、残るルートヴィヒ殿下とエリアスのどっちがカカシでどっちがブリキの木こりかが問題だな。
ただ、俺が今言えることは、異世界転移先駆者であるドロシー先輩は偉大だったってことだ。
無詠唱でもいけるけど、やっぱりここは来た時と同じく、子供でも知ってる世界で一番有名なあのアラビア語の呪文を唱えたい――それは即ち。
「開けゴマ!」
完成した術式が発動するのと、エリアスが俺の名前を呼びながら魔法陣の中に飛び込んでくるのとが同時だった。
代償のいらない類の魔法。
複雑な魔法陣と術式がそれを可能にしている。
うちの物置には、親父一人の残滓しかなかったし、あの時は術式の意味なんて分からなくて変な感じがしたとしか思わなかったけれど。
凄い……。これだけの人の魔法の残滓が蓄積されてこんなに大きく青白く輝いているなんて。
ヴェイラの上空にもよく探せば青白い光が見つかるかも知れない。
ただ、使ったのが俺と親父だけだろうから、これほど大きく強い光ではなくて、うちの物置の電球よりも小さな光だろう。
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下が何か言っていたが、魔法の術式に集中していた俺にはもう何も聞こえなかった。
転移先は「俺ん家の物置」だ。
その場所は俺の中に最初からあった。
これは魔法の残滓を記憶するだけの装置だから、俺が魔法の形跡を一切残さなければ次に使うときは転移先はヴェイラのままだ。
――いける。
そう、確信する。
多分、質量も時間さえも無意味。
距離も関係ない。だが極端に近いと逆に魔力を食う。
例えるなら、転移魔法は一本の針金の両端を合わせて輪っかを作る作業に似ている。
長さ一メートルの針金で輪っかを作るのと、長さ一センチの針金で輪っかを作るのとでは、針金の太さが同じなら、後者の方がより多くの力が必要となり難易度は格段に高くなる。
だから一センチ横に転移するのには膨大な魔力を必要とするが、一定距離以上になれば、隣国のヴェイラへ転移するのも遥か遠くの異世界へ転移するのもそう変わらない。誤差の範囲だ。
トリガーさえ分かっていれば呪文は何だっていい。
寧ろ呪文さえも、いらない。
こっちに転移してきたばかりのとき、これだけ出鱈目な治癒魔法が使えるなら帰ることも出来るだろうと色々試してみたのに全然駄目だった理由が今ならわかる。
俺は「帰りたい」ってただそれだけをひたすら念じていたから駄目だったんだ。
これは「門」なんだから「開け」が正解だろう。
とても門には見えないけど、魔法によって門という概念を付与されている、そういうものなんだ。
転移門は何時でも使える状態でヴェイラ王都全体にずっとあったのに、俺は「開け」というトリガーを知らなかったから使うことが出来なかったのだ。
わかってみればなんて間抜けなことだろう。
これってアレだよな、「オズの魔法使い」オチ。
ドロシーは元の世界へ帰れる銀の靴を最初に手に入れていたのにも拘わらず「踵を鳴らす」というトリガーを知らなかったがために、カカシとブリキの木こりと臆病なライオンと供にエメラルドの都を目指すことになった。
ライオンはフリードリヒ陛下がいるし、残るルートヴィヒ殿下とエリアスのどっちがカカシでどっちがブリキの木こりかが問題だな。
ただ、俺が今言えることは、異世界転移先駆者であるドロシー先輩は偉大だったってことだ。
無詠唱でもいけるけど、やっぱりここは来た時と同じく、子供でも知ってる世界で一番有名なあのアラビア語の呪文を唱えたい――それは即ち。
「開けゴマ!」
完成した術式が発動するのと、エリアスが俺の名前を呼びながら魔法陣の中に飛び込んでくるのとが同時だった。
2
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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