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第一章 聖者降臨
〇三九 美しい花瓶②
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「花を一つ貰ってもいいか?」
「どうぞどうぞ! 全部でも!」
花なんか欲しいのかよ。
全部でもいいと言ったのにエリアスは一輪だけ抜いて礼服のボタンホールに挿した。
俺とエリアスの仲なんだから遠慮なんかしなくていいのによ。
なのに俺は更に白いブーケまで持たされた。
エリアスとお揃いの白騎士隊の識別色である白とセルリアンブルーのリボンが付いてるから持たざるを得ない。
侍従長が出席者の名前を順に読み上げている。
入場は身分が低い順だから、辺境伯家のボンボンで勇者のエリアスが呼ばれるのは招待されている王族たちの直前、かなり最後のほうだ。
フリードリヒ陛下が用意してくれた控室で順番を待っていると城の侍従が呼びに来て、エリアスのエスコートで人でごった返すホワイエへ出た。
刹那、黄色い悲鳴と低いどよめきに迎えられ軽くビビるが、エリアスの腕に掴まっていた俺の手の上にエリアスのそれが重ねられる。
見上げれば、エリアスが穏やかな勇者スマイルを湛えていて、ちょっと安心して俺も微笑み返すと、周囲の黄色い声が一層酷くなった。
その手の黄色い声に慣れていない俺は、それでまたビクッと腰が引けてしまったんだが、エリアスはそんな俺の腕を解くと腰を抱き寄せて「私がついている」と甘い声で囁きながら額に優しく唇を寄せた。
黄色い声は最早「ギャ゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」っていう汚い悲鳴から「ヴォ゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」っていう汚い雄叫びに変わり、一番先頭にいた令嬢が目の前でバッタリ倒れた。
すぐに周囲の人に助け起こされてどこかへ連れて行かれたが、薄く白目をむいていた顔が忘れられない。夢に見そうだ。
ドン引きする俺氏。更にぎゅっと俺を抱き締めて顔中にチュッチュし出すエリアス。汚さを増す雄叫び。
これ、連鎖反応が永遠に終わらないやつ!
エリアス、気持ちは嬉しいが今はそれは逆効果だ。
――しかし、異世界にも腐女子っているんだな。
「ホモが嫌いな女子なんていません」て宇宙の法則だったか。
でもな、俺の場合は好きになった相手がたまたま男だっただけで、元来ホモじゃない。
頼むから俺たちみたいなナマモノで妄想すんな!
妄想を本尊に悟られるようじゃまだまだなんだよ!
あまつさえ、公の場で腐臭を隠せないどころか、わざわざ俺たちの視界に入ってくるようじゃ、そもそもナマモノで妄想する資格なんてないんだぞ!
俺たちの前では、せめて頬の内側でも噛んで堪えろ!
出来ないならせいぜい、そこの燭台に蝋燭でも抜き挿しして萌えていてくれ!
お前たち無機物でいいんだろ?
寧ろそういうののほうが地雷を踏み抜かれる心配がない分、萌えるんだろ?
ああっ、しまった! 今日の俺はその無機物だった! 花器だった!
だからなのか!?
とにかく、俺を美しい花瓶で妄想するのだけはやめろ。
それはマジでやばい。
「勇者エリアス・フォン・ブルーメンタール、聖者ナナセ」
何事もなかったかのように侍従長が名前を読み上げると、辺りは先程までとはまた違う空気で一時騒然として、俺たちを見ようとする人たちがホワイエへ詰め掛けた。
だが、近くには白騎士隊の隊員たちも配備されているし、ここにいるのは全員上流階級の人たちだからか、流石にこの間の城の広場での一般市民のようにはならない。
どうでもいいけど俺、今初めてエリアスのフルネームを知ったよ。
「花咲く谷」とはまた辺境伯家は雅な家名だな。
ほーん。だから俺を花で飾ったのか。
そして俺は何時の間にか聖者呼びがデフォになってる上に名前だけかよ。
自分で聖者って名乗ったことはないんだけどな。
そういえば苗字とか聞かれないから答えたことないけど、これは多分ないものだと思われてるくさいな。
教えたところでこっちの人が発音出来そうにないから黙っているが。
こんなに人が沢山いて会場内に入れるのか?
ここは獣人領なので当然ながら圧倒的に獣人が多くて、みんな人型を取っているからケモ要素は耳と尻尾だけではあるんだが、全体的の大柄で女性でも身長二メートル越えもざらだ。
自分が小人になった錯覚に陥る。
こんな中に入っていったら、俺なんかもみくちゃにされてしまうんではと思っていたら、エリアスの勇者補正が炸裂していた。
エリアスを中心に遠巻きに囲みは出来るが、一定の距離を保っていて誰も近寄れない。
移動すると囲みがぞろぞろと後を付いてくる。
コミケ会場に現れた叶姉妹かよ。
勇者は何時如何なる場でも佩剣が許されていて、今も聖剣を腰に下げているから前後に嵩張るし物理的な意味で近寄れないっていうのもあるが、ちょっと壮観だ。
この後、王族たちが二階から貴賓席へ入場して、各々挨拶へ向かうという流れだが、こちらは獣人領では入場の順番と逆に行うということで、早々にフリードリヒ陛下の御前へ向かった。
そうして俺は、笑顔で迎えてくれたフリードリヒ陛下の胸元で燦然と輝く、王位継承者へ受け継がれるレガリアの首飾りの主石の先端に「聖者のメダイユ」が付いているのを見つけることになる。
「どうぞどうぞ! 全部でも!」
花なんか欲しいのかよ。
全部でもいいと言ったのにエリアスは一輪だけ抜いて礼服のボタンホールに挿した。
俺とエリアスの仲なんだから遠慮なんかしなくていいのによ。
なのに俺は更に白いブーケまで持たされた。
エリアスとお揃いの白騎士隊の識別色である白とセルリアンブルーのリボンが付いてるから持たざるを得ない。
侍従長が出席者の名前を順に読み上げている。
入場は身分が低い順だから、辺境伯家のボンボンで勇者のエリアスが呼ばれるのは招待されている王族たちの直前、かなり最後のほうだ。
フリードリヒ陛下が用意してくれた控室で順番を待っていると城の侍従が呼びに来て、エリアスのエスコートで人でごった返すホワイエへ出た。
刹那、黄色い悲鳴と低いどよめきに迎えられ軽くビビるが、エリアスの腕に掴まっていた俺の手の上にエリアスのそれが重ねられる。
見上げれば、エリアスが穏やかな勇者スマイルを湛えていて、ちょっと安心して俺も微笑み返すと、周囲の黄色い声が一層酷くなった。
その手の黄色い声に慣れていない俺は、それでまたビクッと腰が引けてしまったんだが、エリアスはそんな俺の腕を解くと腰を抱き寄せて「私がついている」と甘い声で囁きながら額に優しく唇を寄せた。
黄色い声は最早「ギャ゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」っていう汚い悲鳴から「ヴォ゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」っていう汚い雄叫びに変わり、一番先頭にいた令嬢が目の前でバッタリ倒れた。
すぐに周囲の人に助け起こされてどこかへ連れて行かれたが、薄く白目をむいていた顔が忘れられない。夢に見そうだ。
ドン引きする俺氏。更にぎゅっと俺を抱き締めて顔中にチュッチュし出すエリアス。汚さを増す雄叫び。
これ、連鎖反応が永遠に終わらないやつ!
エリアス、気持ちは嬉しいが今はそれは逆効果だ。
――しかし、異世界にも腐女子っているんだな。
「ホモが嫌いな女子なんていません」て宇宙の法則だったか。
でもな、俺の場合は好きになった相手がたまたま男だっただけで、元来ホモじゃない。
頼むから俺たちみたいなナマモノで妄想すんな!
妄想を本尊に悟られるようじゃまだまだなんだよ!
あまつさえ、公の場で腐臭を隠せないどころか、わざわざ俺たちの視界に入ってくるようじゃ、そもそもナマモノで妄想する資格なんてないんだぞ!
俺たちの前では、せめて頬の内側でも噛んで堪えろ!
出来ないならせいぜい、そこの燭台に蝋燭でも抜き挿しして萌えていてくれ!
お前たち無機物でいいんだろ?
寧ろそういうののほうが地雷を踏み抜かれる心配がない分、萌えるんだろ?
ああっ、しまった! 今日の俺はその無機物だった! 花器だった!
だからなのか!?
とにかく、俺を美しい花瓶で妄想するのだけはやめろ。
それはマジでやばい。
「勇者エリアス・フォン・ブルーメンタール、聖者ナナセ」
何事もなかったかのように侍従長が名前を読み上げると、辺りは先程までとはまた違う空気で一時騒然として、俺たちを見ようとする人たちがホワイエへ詰め掛けた。
だが、近くには白騎士隊の隊員たちも配備されているし、ここにいるのは全員上流階級の人たちだからか、流石にこの間の城の広場での一般市民のようにはならない。
どうでもいいけど俺、今初めてエリアスのフルネームを知ったよ。
「花咲く谷」とはまた辺境伯家は雅な家名だな。
ほーん。だから俺を花で飾ったのか。
そして俺は何時の間にか聖者呼びがデフォになってる上に名前だけかよ。
自分で聖者って名乗ったことはないんだけどな。
そういえば苗字とか聞かれないから答えたことないけど、これは多分ないものだと思われてるくさいな。
教えたところでこっちの人が発音出来そうにないから黙っているが。
こんなに人が沢山いて会場内に入れるのか?
ここは獣人領なので当然ながら圧倒的に獣人が多くて、みんな人型を取っているからケモ要素は耳と尻尾だけではあるんだが、全体的の大柄で女性でも身長二メートル越えもざらだ。
自分が小人になった錯覚に陥る。
こんな中に入っていったら、俺なんかもみくちゃにされてしまうんではと思っていたら、エリアスの勇者補正が炸裂していた。
エリアスを中心に遠巻きに囲みは出来るが、一定の距離を保っていて誰も近寄れない。
移動すると囲みがぞろぞろと後を付いてくる。
コミケ会場に現れた叶姉妹かよ。
勇者は何時如何なる場でも佩剣が許されていて、今も聖剣を腰に下げているから前後に嵩張るし物理的な意味で近寄れないっていうのもあるが、ちょっと壮観だ。
この後、王族たちが二階から貴賓席へ入場して、各々挨拶へ向かうという流れだが、こちらは獣人領では入場の順番と逆に行うということで、早々にフリードリヒ陛下の御前へ向かった。
そうして俺は、笑顔で迎えてくれたフリードリヒ陛下の胸元で燦然と輝く、王位継承者へ受け継がれるレガリアの首飾りの主石の先端に「聖者のメダイユ」が付いているのを見つけることになる。
0
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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