119 / 266
第二章 魔王復活
〇二〇 「神でも悪魔でもいい」① ※エリアス視点
しおりを挟む
暦は気付けば七月に入り、七日のナナセの誕生日が目前に迫っていた。
数日間とはいえ、魔王に呪いを掛けられ、選りに選ってナナセのことを忘れてしまうという失態を犯していたタイムロスが手痛い。
いや、あれはあれで、ナナセの違う一面が見られたり、結果的に二人の距離が縮まったりして、良かったこともあるのだが――。
ともかく、ナナセの生まれた国では、ニ十歳を成人と定めていて、その日を境に飲酒も解禁になるらしい。
ということは、ナナセにとって二十歳の誕生日はとても大事な行事なのだ。
それならば、盛大に祝いたいところだが、私とナナセの間にはどうも価値観の相違がある。
異世界人なのでそれも当然だろう。
しかし、どう祝っていいものか分からないし、一生に一度しかない二十歳の誕生日に失敗は許されない。
そこで私は素直にナナセに訊ねることにしたのだ。
するとナナセは、暫し考えた後で、「一緒に酒を飲みたい」と言う。
そんなことでいいのかと訊き返すと、「エリーと一緒にってところが重要なんだ」と言われてしまい、これには参った。いや、本当に参った。
アルビオンでは結婚を申し込む際に、給料の三か月分相当の婚約指輪なるものを渡す風習があるという。
以前、私はそれを知らずに手ぶらでナナセに求婚してしまった。
その結果、ナナセには逃げられてしまったし、あれは失敗だったと今更ながらに思う訳で、ナナセの誕生日当日は、密かに求婚のやり直しを計画している。
来るべき日のために北の宇宙ウルソナの鍛冶師に注文した、合金好きなナナセの一番好きな合金だというチタン合金製の婚約指輪はなかなかの仕上がりだ。
特殊な表面加工が施され虹色に輝く指輪は、デザインはシンプルだが見た目も美しく、また妙な魔法を踏まされて拉致されたりしないよう魔法抵抗も付与してあり、ナナセもきっと気に入ってくれることだろう。
ナナセが魔王に勾引かされたり、私が魔王に呪いに掛けられたりで、何かと慌ただしい日々が続いたが、やっと落ち着いた生活に戻れるだろうと思われた矢先に、私にはひとつだけ懸念事項があった。
その懸念事項とは即ち、魔王城からナナセが連れ帰ったヒューとかいう男だ。
あいつは元々、私たちが魔物討伐に向かった農村で、魔族に脅されていたとはいえナナセを罠に掛けて拉致させた張本人である。
私としては、そんな怪しい者をナナセの側に置くことなど、断じて許せるわけがない。
だが、魔王城でどのような交流があったか定かではないが、ナナセはヒューのことを気に入っていて、彼が孤児になってしまったことを知るや、自分の従僕にしたいと言い出した。
絆されている。悪い傾向だ。
私に言わせればナナセは、飼えもしないのに可哀想だという理由で滅多矢鱈に生き物を拾ってくる子供のようなものだ。
そういった偽善とは、時に優しさと呼ばれるものの別名でもある。
だからナナセの本性は、思い付きで行動する甘えた偽善者でしかない。
どう見ても体調が優れない者や、怪我人に向かって「大丈夫?」などと無責任な声を掛けたことが過去に一度もない者ならば、ナナセの偽善を責める資格を持つだろうが、つまりそんな者は存在しないのだ。
自ら出撃を決めたにも拘らず、初めて人が魔獣に襲われている場面を見たとき、ナナセは一人では立てないほどに震えていた。
その後、勝手に私の側から離れて、まんまと魔族の罠にかかった時も然りだ。
だが、如何に偽善的であっても動ける者はそれだけで他の者とは一線を画して稀少である。
現実を知らないからこその甘えであっても、これから知って行けばいい。
それに、そういった甘えたところや、偽善的なところも含めて、私はナナセを愛している。
寧ろそこが良い。
きっと、ナナセがそういう性格でなかったら、私など見向きもされていないだろう。
だから私は、ナナセを決して責めないし、見捨てはしないし、手放すつもりもない。
ナナセはもっと思い付きで行動して、もっと私を頼ればいいとさえ思う。
世界中を敵に回しても、私には何時如何なる時もナナセに手を差し伸べる用意がある。
ナナセのことは私だけが知っていればいいのだ。
数日間とはいえ、魔王に呪いを掛けられ、選りに選ってナナセのことを忘れてしまうという失態を犯していたタイムロスが手痛い。
いや、あれはあれで、ナナセの違う一面が見られたり、結果的に二人の距離が縮まったりして、良かったこともあるのだが――。
ともかく、ナナセの生まれた国では、ニ十歳を成人と定めていて、その日を境に飲酒も解禁になるらしい。
ということは、ナナセにとって二十歳の誕生日はとても大事な行事なのだ。
それならば、盛大に祝いたいところだが、私とナナセの間にはどうも価値観の相違がある。
異世界人なのでそれも当然だろう。
しかし、どう祝っていいものか分からないし、一生に一度しかない二十歳の誕生日に失敗は許されない。
そこで私は素直にナナセに訊ねることにしたのだ。
するとナナセは、暫し考えた後で、「一緒に酒を飲みたい」と言う。
そんなことでいいのかと訊き返すと、「エリーと一緒にってところが重要なんだ」と言われてしまい、これには参った。いや、本当に参った。
アルビオンでは結婚を申し込む際に、給料の三か月分相当の婚約指輪なるものを渡す風習があるという。
以前、私はそれを知らずに手ぶらでナナセに求婚してしまった。
その結果、ナナセには逃げられてしまったし、あれは失敗だったと今更ながらに思う訳で、ナナセの誕生日当日は、密かに求婚のやり直しを計画している。
来るべき日のために北の宇宙ウルソナの鍛冶師に注文した、合金好きなナナセの一番好きな合金だというチタン合金製の婚約指輪はなかなかの仕上がりだ。
特殊な表面加工が施され虹色に輝く指輪は、デザインはシンプルだが見た目も美しく、また妙な魔法を踏まされて拉致されたりしないよう魔法抵抗も付与してあり、ナナセもきっと気に入ってくれることだろう。
ナナセが魔王に勾引かされたり、私が魔王に呪いに掛けられたりで、何かと慌ただしい日々が続いたが、やっと落ち着いた生活に戻れるだろうと思われた矢先に、私にはひとつだけ懸念事項があった。
その懸念事項とは即ち、魔王城からナナセが連れ帰ったヒューとかいう男だ。
あいつは元々、私たちが魔物討伐に向かった農村で、魔族に脅されていたとはいえナナセを罠に掛けて拉致させた張本人である。
私としては、そんな怪しい者をナナセの側に置くことなど、断じて許せるわけがない。
だが、魔王城でどのような交流があったか定かではないが、ナナセはヒューのことを気に入っていて、彼が孤児になってしまったことを知るや、自分の従僕にしたいと言い出した。
絆されている。悪い傾向だ。
私に言わせればナナセは、飼えもしないのに可哀想だという理由で滅多矢鱈に生き物を拾ってくる子供のようなものだ。
そういった偽善とは、時に優しさと呼ばれるものの別名でもある。
だからナナセの本性は、思い付きで行動する甘えた偽善者でしかない。
どう見ても体調が優れない者や、怪我人に向かって「大丈夫?」などと無責任な声を掛けたことが過去に一度もない者ならば、ナナセの偽善を責める資格を持つだろうが、つまりそんな者は存在しないのだ。
自ら出撃を決めたにも拘らず、初めて人が魔獣に襲われている場面を見たとき、ナナセは一人では立てないほどに震えていた。
その後、勝手に私の側から離れて、まんまと魔族の罠にかかった時も然りだ。
だが、如何に偽善的であっても動ける者はそれだけで他の者とは一線を画して稀少である。
現実を知らないからこその甘えであっても、これから知って行けばいい。
それに、そういった甘えたところや、偽善的なところも含めて、私はナナセを愛している。
寧ろそこが良い。
きっと、ナナセがそういう性格でなかったら、私など見向きもされていないだろう。
だから私は、ナナセを決して責めないし、見捨てはしないし、手放すつもりもない。
ナナセはもっと思い付きで行動して、もっと私を頼ればいいとさえ思う。
世界中を敵に回しても、私には何時如何なる時もナナセに手を差し伸べる用意がある。
ナナセのことは私だけが知っていればいいのだ。
0
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)



オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる