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第二章 魔王復活
〇一三 「フツメンの擬人化」① ※エリアス視点
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呪いの只中にありながら、私は今、幸福の絶頂を実感している。
最愛の者の名を呼ぶことすら出来ない私を案じて、ナナセがこの世界で誰にも教えたことのない特別な名で呼ぶことを私だけに許してくれたのだ。
勿論それは、記憶を失う前の私も知らないのだという。
それは「聖なる者」という意味を持つ家名ではあったが、そんなことはどうだっていい。
遂に私は私に勝ったのだ。
その事実は揺ぎ無い。
ナナセの愛を感じる。
想う相手から想いを返されることのなんと素晴らしいことか。
しかし、ナナセは記憶のない私がいきなり溺愛状態になったことに疑問を抱いているようだった。
私にとっては至極当然のことではあるのだが、ナナセにしてみればそう思ってしまうのも無理もない。
記憶を失う前の私はきっと、空虚な生の中でナナセへの愛だけが心の支えだったのだろう。
それは多分、魔王の呪いなど遥かに及ばないところにあった。
だから記憶を失ってもナナセへの愛だけは何ら影響を受けなかったのだ。
私の心境を率直に述べ、どうにかナナセを納得させるのに至ったが、直後に耳を疑うようなことを口にする。
「だって、俺なんかエリーに釣り合わないだろ。一回くらいならうっかり好きになることもあるかも知れないけど、二度目は流石にないなって」
何故こんな美貌の青年が、それほどまでに自分を卑下するのか。
ここまで自己評価が著しく低いのは何故か。
理由を訊ねれば、アルビオンでは「フツメンの擬人化」という二つ名を欲しいままにしていたのだとナナセは言う。
どういう意味か正確なことは分からないが、ナナセの説明によると「凡庸な人物を更に擬人化した」というような意味らしい。
私にそう説明した後でナナセは「あれ? でも擬人化ってことは美化されてるはずだから、俺が意味を取り違えてた? つまりどういうことだろ?」と首を傾げていた。
だが、それで私も得心が行った。
本来の意味がどうであれ、この場合はナナセがその名をどういう意味合いで受け止めていたかこそが重要なのだ。
見たところナナセの魔力量は途轍もない。
相手の魔力量を見ただけで推し量れるものはそういないため、気付く者は滅多にはいないだろうが、ナナセの魔力量は治癒術士としては常軌を逸している。
私が気付いたからには恐らく魔王も気付いていただろう。
魔力量が多い者は、得てして呼び名に影響を受け易い。
魔王が「グレイ」という名を授かって弱体化したように、ナナセもまた「フツメンの擬人化」という二つ名に引き摺られ、本人がそう思い込むことで魂が「フツメンの擬人化」に近づいてしまっていたのだ。
魂の変容は、外見に直接的に影響することは稀だが、周囲の者たちに与える印象への影響は計り知れない。
恐らく、アルビオンでのナナセは物理的な容姿は変わらずとも凡庸な人物として強く印象付けられ、埋もれていたことだろう。
それがこの世界へ来て「聖者」と呼ばれるようになり、本来のナナセのあるべき姿に戻ってきたのではないだろうか。
それならば、ナナセがこの歳まで誰とも性交渉の経験がなかったことも説明が付く。
私はナナセに「フツメンの擬人化」という二つ名を授けたという「マックのJK」なる人物に密かに感謝の意を表した。
かの人物がいなければ、ナナセの処女は守られていなかっただろう。
最愛の者の名を呼ぶことすら出来ない私を案じて、ナナセがこの世界で誰にも教えたことのない特別な名で呼ぶことを私だけに許してくれたのだ。
勿論それは、記憶を失う前の私も知らないのだという。
それは「聖なる者」という意味を持つ家名ではあったが、そんなことはどうだっていい。
遂に私は私に勝ったのだ。
その事実は揺ぎ無い。
ナナセの愛を感じる。
想う相手から想いを返されることのなんと素晴らしいことか。
しかし、ナナセは記憶のない私がいきなり溺愛状態になったことに疑問を抱いているようだった。
私にとっては至極当然のことではあるのだが、ナナセにしてみればそう思ってしまうのも無理もない。
記憶を失う前の私はきっと、空虚な生の中でナナセへの愛だけが心の支えだったのだろう。
それは多分、魔王の呪いなど遥かに及ばないところにあった。
だから記憶を失ってもナナセへの愛だけは何ら影響を受けなかったのだ。
私の心境を率直に述べ、どうにかナナセを納得させるのに至ったが、直後に耳を疑うようなことを口にする。
「だって、俺なんかエリーに釣り合わないだろ。一回くらいならうっかり好きになることもあるかも知れないけど、二度目は流石にないなって」
何故こんな美貌の青年が、それほどまでに自分を卑下するのか。
ここまで自己評価が著しく低いのは何故か。
理由を訊ねれば、アルビオンでは「フツメンの擬人化」という二つ名を欲しいままにしていたのだとナナセは言う。
どういう意味か正確なことは分からないが、ナナセの説明によると「凡庸な人物を更に擬人化した」というような意味らしい。
私にそう説明した後でナナセは「あれ? でも擬人化ってことは美化されてるはずだから、俺が意味を取り違えてた? つまりどういうことだろ?」と首を傾げていた。
だが、それで私も得心が行った。
本来の意味がどうであれ、この場合はナナセがその名をどういう意味合いで受け止めていたかこそが重要なのだ。
見たところナナセの魔力量は途轍もない。
相手の魔力量を見ただけで推し量れるものはそういないため、気付く者は滅多にはいないだろうが、ナナセの魔力量は治癒術士としては常軌を逸している。
私が気付いたからには恐らく魔王も気付いていただろう。
魔力量が多い者は、得てして呼び名に影響を受け易い。
魔王が「グレイ」という名を授かって弱体化したように、ナナセもまた「フツメンの擬人化」という二つ名に引き摺られ、本人がそう思い込むことで魂が「フツメンの擬人化」に近づいてしまっていたのだ。
魂の変容は、外見に直接的に影響することは稀だが、周囲の者たちに与える印象への影響は計り知れない。
恐らく、アルビオンでのナナセは物理的な容姿は変わらずとも凡庸な人物として強く印象付けられ、埋もれていたことだろう。
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