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第二章 魔王復活
〇一一 「俺のフラグ折れてるぞ」① ※エリアス視点
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――どうした? 何が起こった?
そうだ、私は――。
何かを思い出しかけた瞬間、頭が割れるような激痛が走った。
「エリーッ!」
誰かに抱き起されて、漸く頭痛が治まってくる。
記憶が混乱しているが、エリーというのは私のことか。
ここには私と彼の気配しかないし、他に思い当たる名の者もいないから私のことなのだろう。
他の者にそんな呼ばれ方をしたら返事などしないが、この声にそう呼ばれるのは不思議と好ましく感じる。
親し気に女児のような愛称で私を呼んだのは、見たことのない象牙色の肌をした黒髪黒眼の異国風美人だった。
しかも全裸にマントを一枚羽織っただけという姿でこんなところ――魔王城の玉座の間にいるからには、魔王に捕らえられ、慰み者にされていた可能性が高い。
私は少しの間、気を失っていたようで前後の記憶が曖昧だが、そのマントですら、白とセルリアンブルーという白騎士隊だけに着用を許された識別色であることと、着て出たはずのマントが今私の肩にないことから察するに、私が貸与したもののようだ。
美しさと匂い立つような色気にばかりに先に目が行ってしまったが、よく見ればまだ少年と言っても差し支えない年頃ではないか。
その証拠に、マントの合わせから垣間見える股間にはまだ毛も生えていない。
更に、泣き腫らしたような目元に気付き、凡その事情を察し、激しい憤りを覚えながら立ち上がると、少年は私の身体をあちこち検めながら治癒を申し出てきた。
治癒術士なのだろうか。
無闇に他人と接触するのは好きではないが、彼に触れられるのは心地良いと感じる。
それに、こんな美人とお近付きになれるのは私も男として吝かではない。
いや、駄目だ。
相手はまだ子供ではないか。
私に怪我がないことを知るや、離れて行ってしまった手を引き止めたい衝動に駆られて自分でも驚いた。
すると、途端にまた頭痛がぶり返してくる。
少々格好付けて断ってしまったが、やはり治癒を施して貰えばよかったかも知れない。
この頭痛は尋常ではない。
頭痛は治まらないし、ごく短い時間とはいえ前後不覚に陥っていたようなので、彼に事情の説明を乞えば、どうやら私は、首を落とされて尚、反撃に出た魔王から最期の一撃を喰らったとのことだった。
傍らに転がる魔王の頭部の眉間に聖剣が突き刺さっているのを認めて、何とかとどめを刺せていたことを知り、ひとまずは安堵する。
しかし、その直後に私ではなく彼自身の名を問われ返答に窮した。
子供といえど、こんな美人に会っていれば覚えていない訳がない。
躊躇しながらも正直に、覚えがないことを告げると、彼は酷くショックを受けた様子で口元を引き結んだ。
それが、泣くのを堪えているようにも見えて、計り知れない罪悪感と言い知れぬ焦燥感に駆られる。
勇者として公の場に出ることも多くなってからは、どこかで私を見かけて勝手に懸想して言い寄ってくる者は後を絶たないが、彼はそういう輩とは明らかに違う。
けれど彼の名を知らない以上、どう答えるのが正解だったのか皆目見当が付かない。
頭が割れるように痛む。
気まずい空気が漂ったところへ隊員たちが合流したときは、正直助かったと思ったが、彼まであからさまにほっとした様子だったのには苛々して仕方がなかった。
何故だ。何故こんなに心を掻き乱される。
気付けば視線は彼を追っているし、耳は彼の言葉を一言残らず聞き漏らすまいとして、頭の中は彼のことでいっぱいだし、心は彼が占めている。
とにかく彼の存在が気になって仕方がない。
その理由はすぐに判明した。
帰投する船内で隊員たちから聞いた話によると、彼――ナナセは、アルビオンから迷い込んで来た聖者と呼ばれるほどの治癒術士で、なんと私の婚約者なのだという。
おまけに、彼は幼く見えるが十九歳で、私が自ら白騎士隊に勧誘して入隊させた歴とした隊員なのだというから驚きである。
――そして、どうやら私は魔王に呪いを掛けられ、ナナセに関する記憶だけ失ってしまったらしい。
そうだ、私は――。
何かを思い出しかけた瞬間、頭が割れるような激痛が走った。
「エリーッ!」
誰かに抱き起されて、漸く頭痛が治まってくる。
記憶が混乱しているが、エリーというのは私のことか。
ここには私と彼の気配しかないし、他に思い当たる名の者もいないから私のことなのだろう。
他の者にそんな呼ばれ方をしたら返事などしないが、この声にそう呼ばれるのは不思議と好ましく感じる。
親し気に女児のような愛称で私を呼んだのは、見たことのない象牙色の肌をした黒髪黒眼の異国風美人だった。
しかも全裸にマントを一枚羽織っただけという姿でこんなところ――魔王城の玉座の間にいるからには、魔王に捕らえられ、慰み者にされていた可能性が高い。
私は少しの間、気を失っていたようで前後の記憶が曖昧だが、そのマントですら、白とセルリアンブルーという白騎士隊だけに着用を許された識別色であることと、着て出たはずのマントが今私の肩にないことから察するに、私が貸与したもののようだ。
美しさと匂い立つような色気にばかりに先に目が行ってしまったが、よく見ればまだ少年と言っても差し支えない年頃ではないか。
その証拠に、マントの合わせから垣間見える股間にはまだ毛も生えていない。
更に、泣き腫らしたような目元に気付き、凡その事情を察し、激しい憤りを覚えながら立ち上がると、少年は私の身体をあちこち検めながら治癒を申し出てきた。
治癒術士なのだろうか。
無闇に他人と接触するのは好きではないが、彼に触れられるのは心地良いと感じる。
それに、こんな美人とお近付きになれるのは私も男として吝かではない。
いや、駄目だ。
相手はまだ子供ではないか。
私に怪我がないことを知るや、離れて行ってしまった手を引き止めたい衝動に駆られて自分でも驚いた。
すると、途端にまた頭痛がぶり返してくる。
少々格好付けて断ってしまったが、やはり治癒を施して貰えばよかったかも知れない。
この頭痛は尋常ではない。
頭痛は治まらないし、ごく短い時間とはいえ前後不覚に陥っていたようなので、彼に事情の説明を乞えば、どうやら私は、首を落とされて尚、反撃に出た魔王から最期の一撃を喰らったとのことだった。
傍らに転がる魔王の頭部の眉間に聖剣が突き刺さっているのを認めて、何とかとどめを刺せていたことを知り、ひとまずは安堵する。
しかし、その直後に私ではなく彼自身の名を問われ返答に窮した。
子供といえど、こんな美人に会っていれば覚えていない訳がない。
躊躇しながらも正直に、覚えがないことを告げると、彼は酷くショックを受けた様子で口元を引き結んだ。
それが、泣くのを堪えているようにも見えて、計り知れない罪悪感と言い知れぬ焦燥感に駆られる。
勇者として公の場に出ることも多くなってからは、どこかで私を見かけて勝手に懸想して言い寄ってくる者は後を絶たないが、彼はそういう輩とは明らかに違う。
けれど彼の名を知らない以上、どう答えるのが正解だったのか皆目見当が付かない。
頭が割れるように痛む。
気まずい空気が漂ったところへ隊員たちが合流したときは、正直助かったと思ったが、彼まであからさまにほっとした様子だったのには苛々して仕方がなかった。
何故だ。何故こんなに心を掻き乱される。
気付けば視線は彼を追っているし、耳は彼の言葉を一言残らず聞き漏らすまいとして、頭の中は彼のことでいっぱいだし、心は彼が占めている。
とにかく彼の存在が気になって仕方がない。
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――そして、どうやら私は魔王に呪いを掛けられ、ナナセに関する記憶だけ失ってしまったらしい。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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