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第二章 魔王復活
〇一〇 グレイ①
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魔王が今際の際で放った一撃。
それは、俺の名前を使い、エリアスを呪う呪文だった。
分かっているのはそれだけで、当初は何が起こったのか正確には誰も把握していなかったのだ。
しかし事態が進むにつれ、この呪いの本質が徐々に露呈していくことになる。
首を刎ねられて尚ニワトリ並みの生命力を見せた魔王も、眉間を聖剣で貫かれては、流石にもう絶命しているだろう。
倒れたエリアスを抱き起すと、すぐに意識を取り戻した。
「今の何!? どっか怪我してないか!? すぐに治癒を……」
「……いや、必要ない。それより私はどうしたんだ? 何があった?」
「魔王が最期の力を振り絞ってエリーに何かしたんだよ。なあ、ホントに大丈夫?」
「ああ、私はなんともない。それより君は魔王に捕らえられていたのか?」
「えっ……?」
君!?
捕らえられていたのかって!?
何かがおかしい。
それに、見たところ怪我はなく、本人も大丈夫だとは言ってるけど、いくら勇者といえども、魔王に最期の一撃を食らって何ともないってことはないだろう。
出来れば、その可能性だけは考えたくなかったんだが、俺はもしやと思ったことを口にしてみる。
「……えーと、エリー? 俺の名前分かる?」
「……どこかで会ったか? 済まない。君のような方と一度でも会っていたら忘れないと思うのだが記憶にない」
また「君」って言ったし!
……ていうか、エリアス今、「記憶にない」って言ったか!?
「どこかで会ったか?」って言った!?
これはもしや噂に聞く、お約束の記憶喪失というやつでは――。
呪文に俺の名前を使用したのは、そういう意図があってのことか。
捕らえられている間、俺が魔王に名前を教えなかったのは特に理由があってのことではなく、魔王もしつこくは訊かなかったし、ただの子供っぽい意地だったのだが、救出に来たエリアスによって知られてしまった。
とはいえ、俺もエリアスの名前を呼びまくってたあの状況で、俺だけエリアスに名前を呼ばれないのも寂しいものがあるし、まさか名前にそんな使い道があるなんて予想できなかったのだからエリアスは責められない。
俺もエリアスも完全に油断していたんだ。
俺が言葉を失って穴の開くほど見ていると、エリアスはポッと赤くなって、目のやり場に困ったかのように「失礼」と言って俺の肩から掛かったマントの前をそっと掻き合わせてくれる。
刹那、入口が俄かに騒がしくなり、見れば白騎士隊の面々が駆け付けて来てくれたところだった。
「隊長! 聖者様! ご無事で!」
「城内の雑魚の掃討完了しました!」
「うわ、魔王戦もう終わってる!? マジかよ!?」
「魔王ソロ討伐とか、隊長もいよいよ人の領域から外れて来たな」
「本気モードの隊長パネェ……」
状況報告をしながら口々に好き勝手なことを言う隊員たちの間から、黒髪碧眼の少年が飛び出して駆け寄ってくる。
「せ、聖者様!」
捕らえられている間、ずっと俺の面倒を見てくれていたヒューだった。
俺がさっき魔王の側近の魔族のレンに絡まれたとき、勇者を呼んできてくれって言って逃がしたんだが、一緒にいるってことは無事に白騎士隊と合流できたらしい。
「ヒュー! 無事だったんだ!」
「その子が隊長に聖者様の居場所を教えてくれたんですよ」
そう言ったのは副隊長のヒルデブラントだった。
ヒューはエリアスに俺の居場所を伝えてくれたんだ。
「そうだったんだ。ありがとうヒュー。お陰で助かったよ。ヒルデブラントも、みんなもありがとう」
魔王の城へ乗り込むなんて、例え精鋭部隊の白騎士隊の隊員でも命懸けには違いないのだから、いくら感謝しても足りないくらいだ。
これは後で聞いた話なんだが、俺の救出作戦に参加するため名乗りを上げてくれた者の多くは、志半ばで病気や怪我で退役を余儀なくされ、俺の治癒によって現役復帰を果たした歴戦の騎士や兵士とその仲間たちだったという。
志願者はかなりの数に上り、魔王軍を数で圧倒していたばかりでなく、それぞれが皆、経験豊富な実力者で士気も高い。
これほど高名な戦士が一堂に会す場は前代未聞で、ちょっと壮観だったそうだ。
ぶちギレたエリアスが魔王を瞬殺したのはともかく、多くの人の助力によってこんなに早く掃討が終わったのだろう。
しかし、膨れ上がった救出作戦への参加人数は一個旅団相当――俺は正確な数は知らないが、旅団というからには一五〇〇人から六〇〇〇人の間くらいなのだろう――に上り、その連隊編成に手間取って行動開始が遅れたのも事実だ。
戦闘に携わる職に就いている者の数が国民の約五パーセント程度のヴェイラ王国でその数はかなりのものといえる。
迅速さを取るか確実性を取るかで揉めて、少数精鋭の白騎士隊の隊長として迷わず前者を取るべくまた暴走しかけたエリアスを止めるのにかなりの労力を要したと副隊長のヒルデブラントがげっそりした顔で言っていたのには、俺も苦笑いで返すしかない。
それは、俺の名前を使い、エリアスを呪う呪文だった。
分かっているのはそれだけで、当初は何が起こったのか正確には誰も把握していなかったのだ。
しかし事態が進むにつれ、この呪いの本質が徐々に露呈していくことになる。
首を刎ねられて尚ニワトリ並みの生命力を見せた魔王も、眉間を聖剣で貫かれては、流石にもう絶命しているだろう。
倒れたエリアスを抱き起すと、すぐに意識を取り戻した。
「今の何!? どっか怪我してないか!? すぐに治癒を……」
「……いや、必要ない。それより私はどうしたんだ? 何があった?」
「魔王が最期の力を振り絞ってエリーに何かしたんだよ。なあ、ホントに大丈夫?」
「ああ、私はなんともない。それより君は魔王に捕らえられていたのか?」
「えっ……?」
君!?
捕らえられていたのかって!?
何かがおかしい。
それに、見たところ怪我はなく、本人も大丈夫だとは言ってるけど、いくら勇者といえども、魔王に最期の一撃を食らって何ともないってことはないだろう。
出来れば、その可能性だけは考えたくなかったんだが、俺はもしやと思ったことを口にしてみる。
「……えーと、エリー? 俺の名前分かる?」
「……どこかで会ったか? 済まない。君のような方と一度でも会っていたら忘れないと思うのだが記憶にない」
また「君」って言ったし!
……ていうか、エリアス今、「記憶にない」って言ったか!?
「どこかで会ったか?」って言った!?
これはもしや噂に聞く、お約束の記憶喪失というやつでは――。
呪文に俺の名前を使用したのは、そういう意図があってのことか。
捕らえられている間、俺が魔王に名前を教えなかったのは特に理由があってのことではなく、魔王もしつこくは訊かなかったし、ただの子供っぽい意地だったのだが、救出に来たエリアスによって知られてしまった。
とはいえ、俺もエリアスの名前を呼びまくってたあの状況で、俺だけエリアスに名前を呼ばれないのも寂しいものがあるし、まさか名前にそんな使い道があるなんて予想できなかったのだからエリアスは責められない。
俺もエリアスも完全に油断していたんだ。
俺が言葉を失って穴の開くほど見ていると、エリアスはポッと赤くなって、目のやり場に困ったかのように「失礼」と言って俺の肩から掛かったマントの前をそっと掻き合わせてくれる。
刹那、入口が俄かに騒がしくなり、見れば白騎士隊の面々が駆け付けて来てくれたところだった。
「隊長! 聖者様! ご無事で!」
「城内の雑魚の掃討完了しました!」
「うわ、魔王戦もう終わってる!? マジかよ!?」
「魔王ソロ討伐とか、隊長もいよいよ人の領域から外れて来たな」
「本気モードの隊長パネェ……」
状況報告をしながら口々に好き勝手なことを言う隊員たちの間から、黒髪碧眼の少年が飛び出して駆け寄ってくる。
「せ、聖者様!」
捕らえられている間、ずっと俺の面倒を見てくれていたヒューだった。
俺がさっき魔王の側近の魔族のレンに絡まれたとき、勇者を呼んできてくれって言って逃がしたんだが、一緒にいるってことは無事に白騎士隊と合流できたらしい。
「ヒュー! 無事だったんだ!」
「その子が隊長に聖者様の居場所を教えてくれたんですよ」
そう言ったのは副隊長のヒルデブラントだった。
ヒューはエリアスに俺の居場所を伝えてくれたんだ。
「そうだったんだ。ありがとうヒュー。お陰で助かったよ。ヒルデブラントも、みんなもありがとう」
魔王の城へ乗り込むなんて、例え精鋭部隊の白騎士隊の隊員でも命懸けには違いないのだから、いくら感謝しても足りないくらいだ。
これは後で聞いた話なんだが、俺の救出作戦に参加するため名乗りを上げてくれた者の多くは、志半ばで病気や怪我で退役を余儀なくされ、俺の治癒によって現役復帰を果たした歴戦の騎士や兵士とその仲間たちだったという。
志願者はかなりの数に上り、魔王軍を数で圧倒していたばかりでなく、それぞれが皆、経験豊富な実力者で士気も高い。
これほど高名な戦士が一堂に会す場は前代未聞で、ちょっと壮観だったそうだ。
ぶちギレたエリアスが魔王を瞬殺したのはともかく、多くの人の助力によってこんなに早く掃討が終わったのだろう。
しかし、膨れ上がった救出作戦への参加人数は一個旅団相当――俺は正確な数は知らないが、旅団というからには一五〇〇人から六〇〇〇人の間くらいなのだろう――に上り、その連隊編成に手間取って行動開始が遅れたのも事実だ。
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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