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第二章 魔王復活
〇〇四 トムソンガゼルとジャコブヒツジ①
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――ここ、何処だろ?
身体が凄くだるい。
微睡みながらも薄く目を開けて見ると、黒いシーツ、黒い掛け布団、黒い枕、黒い天蓋。黒い世界。
こんなベッドが置いてある部屋、隊舎にあったのか。
それとも宮殿内の別の部屋なのかな。
またルッツが変な部屋用意したんじゃないだろうな。
なんかここ、フランスのシュノンソー城のルイーズ・ド・ロレーヌ=ヴォーデモンの寝室みたいだ。
夫が暗殺されたルイーズ王妃は、王への哀悼を示す白い喪服姿で真っ黒な部屋に引き籠って余生を過ごし「白衣の王妃」って呼ばれてたんだ。
今の俺には縁起でもないから止めて欲しい。
ベッドの中でもぞもぞ動いて隣で寝ているはずのエリアスを探したけれど見つからない。
トイレにでも行ってるのかな……。
そこまで考えてはたと気付く。
――そうだ俺、アブダクションされてキャトルミューティレーションされるところだったんだ!
剣と魔法の世界で、そんな七〇年代のSFみたいな死に方嫌だ!
今の俺は入隊の手付金があって結構金持ちなんだぞ!
あの手付金でもう一度エリアスと辺境伯領の手長海老を食べるまで死ねない!
「て、手長海老っ……!」
手長海老を糧に俺は生きる!
日本人が生きる希望にしているのは、好きな食べ物か連載漫画の続きなんだよ。
ソースは俺。
だるさを押し切り、飛び起きようとして、じゃらりと首から垂れるゴッツイ鎖にぎょっとする。
首に手をやれば、黒い革製の首輪が付けられていた。
なんだこれ!? 首輪!? 鎖!?
どういう状況!?
焦って首輪を外そうとするも、繋ぎ目が見当たらない。
謎技術!?
どうなってんだこの首輪!?
「手長海老……? 変わった寝言だな……」
「寝言じゃないだろ、お目覚めのようだよ?」
誰かいると思っていなかったのでビクッとして声のする方向を見ると、全てのブラックが漆黒に染まった室内には長身の男が二人いて、ベッドに脇に立って俺を見下ろしていた。
――トムソンガゼルとジャコブヒツジ?
そうとしか表現しようがない。
一人は腰まであるワンレングスの黒髪に、濃い隈取に囲まれた真紅の瞳。
頭の天辺からトムソンガゼルみたいな四〇センチほどもある長くて黒い角が真上に向かって垂直にスッと二本生えている。
そしてもう一人は、波打つミディアムロングの白髪に、青い唇と菫色の瞳。
頭にはジャコブヒツジみたいな角――頭上にVの字に角度の付いた角二本と、頭の両側に下向きに内巻きカールした角二本の合計四本の黒い角が生えている。
旧約聖書の創世記に出てくる所謂ヤコブ種と呼ばれる古代種の羊のような角だ。
中には五本角や六本角の個体もいるが、四本でもかなり禍々しい。
どっちも開発費に何億円も掛けた大作ゲームの気合の入ったCGばりに不気味の谷を越えてきたゴージャスなイケメンで、病的に青白い肌をして、手指には真っ黒くて長い爪が生え、ひと昔じゃ効かないふた昔くらい前のヴィジュアル系バンドみたいな手の込んだ刺繍も煌びやかなアビ・ア・ラ・フランセーズ風の衣装を身に着けている。
アビ・ア・ラ・フランセーズは、誰もが知ってそうな例を挙げると、映画「アマデウス」でモーツァルトが着てた、マリー・アントワネットやベルばらの時代の貴族の衣装だ。
ジュストコールより一世紀近く後の時代の流行だから、シルエットが細身ですっきりしているが、やはり異世界なのでそれとは若干違っている。
ゴテゴテした角が生えてるから、ジュストコールを着ると野暮ったくなりそうだ。
でも宇宙人て、こういうのなのか?
もっとこう、グレイっぽいのかと思ってた。
いや、グレイがトムソンガゼルとジャコブヒツジの獣人の皮を被っている可能性もまだ捨てきれないんだが。
「おはよう? 聖者殿」
「ご機嫌いかがかな?」
意外とフレンドリー。
だが俺はこいつらの魂胆なんて、まるっと全てお見通しだ。
身体が凄くだるい。
微睡みながらも薄く目を開けて見ると、黒いシーツ、黒い掛け布団、黒い枕、黒い天蓋。黒い世界。
こんなベッドが置いてある部屋、隊舎にあったのか。
それとも宮殿内の別の部屋なのかな。
またルッツが変な部屋用意したんじゃないだろうな。
なんかここ、フランスのシュノンソー城のルイーズ・ド・ロレーヌ=ヴォーデモンの寝室みたいだ。
夫が暗殺されたルイーズ王妃は、王への哀悼を示す白い喪服姿で真っ黒な部屋に引き籠って余生を過ごし「白衣の王妃」って呼ばれてたんだ。
今の俺には縁起でもないから止めて欲しい。
ベッドの中でもぞもぞ動いて隣で寝ているはずのエリアスを探したけれど見つからない。
トイレにでも行ってるのかな……。
そこまで考えてはたと気付く。
――そうだ俺、アブダクションされてキャトルミューティレーションされるところだったんだ!
剣と魔法の世界で、そんな七〇年代のSFみたいな死に方嫌だ!
今の俺は入隊の手付金があって結構金持ちなんだぞ!
あの手付金でもう一度エリアスと辺境伯領の手長海老を食べるまで死ねない!
「て、手長海老っ……!」
手長海老を糧に俺は生きる!
日本人が生きる希望にしているのは、好きな食べ物か連載漫画の続きなんだよ。
ソースは俺。
だるさを押し切り、飛び起きようとして、じゃらりと首から垂れるゴッツイ鎖にぎょっとする。
首に手をやれば、黒い革製の首輪が付けられていた。
なんだこれ!? 首輪!? 鎖!?
どういう状況!?
焦って首輪を外そうとするも、繋ぎ目が見当たらない。
謎技術!?
どうなってんだこの首輪!?
「手長海老……? 変わった寝言だな……」
「寝言じゃないだろ、お目覚めのようだよ?」
誰かいると思っていなかったのでビクッとして声のする方向を見ると、全てのブラックが漆黒に染まった室内には長身の男が二人いて、ベッドに脇に立って俺を見下ろしていた。
――トムソンガゼルとジャコブヒツジ?
そうとしか表現しようがない。
一人は腰まであるワンレングスの黒髪に、濃い隈取に囲まれた真紅の瞳。
頭の天辺からトムソンガゼルみたいな四〇センチほどもある長くて黒い角が真上に向かって垂直にスッと二本生えている。
そしてもう一人は、波打つミディアムロングの白髪に、青い唇と菫色の瞳。
頭にはジャコブヒツジみたいな角――頭上にVの字に角度の付いた角二本と、頭の両側に下向きに内巻きカールした角二本の合計四本の黒い角が生えている。
旧約聖書の創世記に出てくる所謂ヤコブ種と呼ばれる古代種の羊のような角だ。
中には五本角や六本角の個体もいるが、四本でもかなり禍々しい。
どっちも開発費に何億円も掛けた大作ゲームの気合の入ったCGばりに不気味の谷を越えてきたゴージャスなイケメンで、病的に青白い肌をして、手指には真っ黒くて長い爪が生え、ひと昔じゃ効かないふた昔くらい前のヴィジュアル系バンドみたいな手の込んだ刺繍も煌びやかなアビ・ア・ラ・フランセーズ風の衣装を身に着けている。
アビ・ア・ラ・フランセーズは、誰もが知ってそうな例を挙げると、映画「アマデウス」でモーツァルトが着てた、マリー・アントワネットやベルばらの時代の貴族の衣装だ。
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だが俺はこいつらの魂胆なんて、まるっと全てお見通しだ。
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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