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第二章 魔王復活
〇〇三 キャトられる!①
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⚠️モブが魔獣に喰われる残酷描写あり。
船の発着場は王宮の敷地内の西端の塔の天辺にあった。
獣人領のフリードリヒ陛下の御召船のような贅を凝らした煌びやかな豪華さはない代わりに、厚い装甲と、船体の左右に砲門が沢山ついた軍艦のような帆船が空に浮かんで停泊している。
いかつい外観とは裏腹に、船内は貴族仕様で豪華客船のようだ。
魔法で動いているらしいけど、これだけ大きいものを浮かせたり推進力を得たりするのには何かを媒体にしているはずだから、ブリッジや動力炉はどうなっているんだろう。
こんな状況でなければ船内を隈なく見て回りたい。
船内では、椅子と机が階段状に段差を付けて円形に配置された円形劇場のような部屋で現地の生存者と連絡を取りながら作戦会議が開かれたが、流石精鋭部隊というだけあって慣れている様子の最小限の遣り取りですぐに終了した。
隊員の一人一人が自分のやるべきことを把握しているから指示待ちとは無縁なんだろう。
俺への指示は特になかったから、会議が終わったあとにエリアスにこっそり訊ねる。
「俺、足手纏いなようなら、戦況が落ち着くまで船で待っていようか?」
断じてビビッてるわけじゃないからな。
ただ、エリアスを脅してまで無理矢理ついてきた手前、足手纏いキャラになりたくないだけなんだよ。
「いや、ナナセは私の側を離れるな。作戦行動中は船の警備が手薄になるから返って危ない」
「でも……」
それでも言い淀んでいると、副隊長のヒルデブラントがエリアスを援護する。
「隊長は聖者様を護っていた方が強くなるんで心配いりませんよ。寧ろ良いところを見せようとして、いつも以上に張り切ってくれると思うんで、オレたちも楽できますし」
後半はエリアスに向かってニヤリと笑いながら言う。
エリアスを見ると、黙って頷いていた。
「分かった。俺、何があってもエリーから離れないから、エリーも死んでも俺を離すなよ?」
言ってしまってから自分の発言内容に気付いたが、後の祭りだった。
途端に外野から野次が飛ぶ。
「オウオウオウッ! 随分と見せつけてくれるじゃねえかよ隊長さんよおッ!」
「独りもんには酷だ!」
「ちょっとオレ、デッキから身投げしてくるわ……」
「早まるな! あの隊長でもいけたんだ! オレらだってまだ……!」
この人たち、ずっとこういうノリだから、ある意味安定しているのかも知れない。
凡そ戦地へ向かうには似つかわしくない馬鹿騒ぎをする俺たちを乗せた船は、あっという間に目的地へ着いた。
エリアスに続いてデッキへ出て、何気なく地上を見下ろしてみて、俺は思わず息を呑む。
そこで目にしたのは、俺が想像していたより酷いものだった。
一見すると、畑に家畜小屋、小さな家々が立ち並ぶのどかな農村といった風情だが、地面のところどころに黒っぽい水たまりが出来ている。
それが血だと気付いたのは、禍々しい姿をした獣に生きたまま喰われている村人らしき人影を中央の広場で見つけたからだ。
しかし、喰うにしては動きが変だ。
よく見れば喰らう合間に、獣が交尾をするときのように腰を振っている。
あれは犯しながら喰っているのだ。
俺たちを乗せた船は十階建てのビルの上くらいの位置に停泊しているから、幸か不幸か細部までは見えないが、獣がガツガツと動く喰い痕から噴き出す血飛沫が、今まさに血溜まりを作り続けている。
――酷い……!
あんなおぞましいものが存在するのか!?
こんな、こんなことってあるのか!?
今までだって身体の一部が欠損した人はたくさん見て来たし、治してきた、けど俺は、実際どうやって欠損するのかを目にするのは初めてだったのだ。
彼らは皆、ああやって犯されながら喰われてきたというのか。
目の前で現実に繰り広げられている残虐で惨たらしい光景に凍り付く。
「ナナセ、行けるか?」
ハッとしてエリアスを見上げれば、淡褐色と淡緑色が混ざり合う榛色の瞳に好戦的な光が点っていた。
「行、けるっ……!」
刹那、エリアスは右腕で聖剣を抜き放つのと、左腕で俺の腰を攫うのと、デッキから跳躍するのとを同時にやってのけた。
船の発着場は王宮の敷地内の西端の塔の天辺にあった。
獣人領のフリードリヒ陛下の御召船のような贅を凝らした煌びやかな豪華さはない代わりに、厚い装甲と、船体の左右に砲門が沢山ついた軍艦のような帆船が空に浮かんで停泊している。
いかつい外観とは裏腹に、船内は貴族仕様で豪華客船のようだ。
魔法で動いているらしいけど、これだけ大きいものを浮かせたり推進力を得たりするのには何かを媒体にしているはずだから、ブリッジや動力炉はどうなっているんだろう。
こんな状況でなければ船内を隈なく見て回りたい。
船内では、椅子と机が階段状に段差を付けて円形に配置された円形劇場のような部屋で現地の生存者と連絡を取りながら作戦会議が開かれたが、流石精鋭部隊というだけあって慣れている様子の最小限の遣り取りですぐに終了した。
隊員の一人一人が自分のやるべきことを把握しているから指示待ちとは無縁なんだろう。
俺への指示は特になかったから、会議が終わったあとにエリアスにこっそり訊ねる。
「俺、足手纏いなようなら、戦況が落ち着くまで船で待っていようか?」
断じてビビッてるわけじゃないからな。
ただ、エリアスを脅してまで無理矢理ついてきた手前、足手纏いキャラになりたくないだけなんだよ。
「いや、ナナセは私の側を離れるな。作戦行動中は船の警備が手薄になるから返って危ない」
「でも……」
それでも言い淀んでいると、副隊長のヒルデブラントがエリアスを援護する。
「隊長は聖者様を護っていた方が強くなるんで心配いりませんよ。寧ろ良いところを見せようとして、いつも以上に張り切ってくれると思うんで、オレたちも楽できますし」
後半はエリアスに向かってニヤリと笑いながら言う。
エリアスを見ると、黙って頷いていた。
「分かった。俺、何があってもエリーから離れないから、エリーも死んでも俺を離すなよ?」
言ってしまってから自分の発言内容に気付いたが、後の祭りだった。
途端に外野から野次が飛ぶ。
「オウオウオウッ! 随分と見せつけてくれるじゃねえかよ隊長さんよおッ!」
「独りもんには酷だ!」
「ちょっとオレ、デッキから身投げしてくるわ……」
「早まるな! あの隊長でもいけたんだ! オレらだってまだ……!」
この人たち、ずっとこういうノリだから、ある意味安定しているのかも知れない。
凡そ戦地へ向かうには似つかわしくない馬鹿騒ぎをする俺たちを乗せた船は、あっという間に目的地へ着いた。
エリアスに続いてデッキへ出て、何気なく地上を見下ろしてみて、俺は思わず息を呑む。
そこで目にしたのは、俺が想像していたより酷いものだった。
一見すると、畑に家畜小屋、小さな家々が立ち並ぶのどかな農村といった風情だが、地面のところどころに黒っぽい水たまりが出来ている。
それが血だと気付いたのは、禍々しい姿をした獣に生きたまま喰われている村人らしき人影を中央の広場で見つけたからだ。
しかし、喰うにしては動きが変だ。
よく見れば喰らう合間に、獣が交尾をするときのように腰を振っている。
あれは犯しながら喰っているのだ。
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――酷い……!
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「行、けるっ……!」
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