異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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番外編 勇者の休日

真鍮とオリハルコン①

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林檎の花の指輪はナナセの手によって大切に持ち帰られた。
何かしまっておけるような入れ物が欲しいと言われ、硝子の小物入れを提供したら、そこにしまって、時々開けては飽きもせず眺めている。

気に入って貰えたのは嬉しいが、二人でいるにも拘わらずナナセの意識をそっちへ持って行かれるのは宜しくない。
ベッドへ入るときは、どこか視界に入らない場所へ置いておくことにした。

いずれ隙を見て花の指輪からナナセの左手の薬指のサイズを測れるだろう。
だがまだ台座の素材と石を決めかねている。
アルビオンではプラチナにダイヤモンドが定番らしいが、そこは相手の好みに合わせたり、自分の瞳の色の石を贈るのも有りだという。
ナナセはアクセサリーの類を身に着けないから好みが分からないし、自分では見えないが私の瞳の色はよく変わるらしいから、必然的にその線は消えた。

考えるのは後だ。
昼間お預けを食らった分を今から取り戻すのだから。

花の指輪の入った硝子の小物入れをナナセの手から取り上げてチェストの上に置いて戻ってくると、枕を背凭れにしてベッドに座っていたナナセが聖剣を脚の間に立てて弄っていた。
ナナセでは聖剣を鞘から抜くことが出来ないから危ないことはないが、私の不在中に他の男をベッドに上げられたようで気に食わない。
分かっている。自分でもちょっとどうかしていると思う。

「何か気になるのか?」

極力感情を抑えながら、さりげなくナナセの手から聖剣を取り返す。

「うん……それ、聖剣っていうくらいだから聖属性の剣なんだろう?」
「そうだな。闇属性の魔物に対して最も効果的な属性を持つ剣だ」
「闇属性と相対する属性は光属性じゃないんだ?」
「ああ、闇属性に相対するのは聖属性だ。そういえば、光という属性は聞いたことがないな」
「え……ないのかよ?」
「私の知る限り存在しない」

属性については魔法を学び始めると教師から最初に習うことなので、今まで疑問にも思わなかった。
普通に考えれば、闇には光、光には闇だ。
闇に聖というのは、効きそうではあるものの少しおかしいかも知れない。

「ふーん、そうなのか。まあいいや。でさ、エリーはその聖属性の聖剣に、本来なら相対する属性である闇属性の魔法が付与されたメダイユを填め込んじゃったわけじゃん?」

その言葉にハッとさせられた。
私はただナナセの魔力が込められたメダイユという認識しか持っていなかったのだが、言われてみれば確かにナナセの扱う治癒術は闇属性を持つ闇魔法であり、このメダイユにはその闇魔法が込められているのだから当然闇属性ということになるだろう。
ナナセの言う通り、現在私の聖剣には聖属性の剣に闇属性のメダイユが填め込まれていることになる。

「俺は当初、メダイユに込めた魔力なんかすぐに使い切って、ただの金属片の柄飾りになるだろうって考えてたんだよ。だけど実際は、その後も俺の治癒にエリーが何度も立ち会ってて、その度にメダイユに魔力が蓄積されていってるだろ?」

指摘されて柄を握り込んでみて驚愕した。
繰り返し幾度も治癒魔法を受け、徐々に増えて行ったので気付かなかったが、柄に埋め込んだメダイユからは、当初とは比べようもないほど高い魔力を感じる。

「なのに聖剣とメダイユが反発せずに、意外と馴染んじゃっててさ。もしかして、剣身は聖属性なのに闇属性も併せ持つ剣になってないかそれ?」

意識して感じ取って見れば、相反する属性を組み合わせているにも拘わらず反発する様子もなく、ナナセの魔力を身近に感じるせいか、今では以前より手にしっくりくるくらいだ。

「それで、本題はここからなんだが」

今までのは前置きだったのか。
前置きにしては内容が少々重すぎないか?
今から何が始まるんだ。

「エリーはオリハルコンって金属知ってるか?」

オリハルコン。
古代の文献にその存在が記されているものの、未だ実物は発見されていない伝説級の金属の名称だ。

「名前だけは知っている。伝説上の幻の金属だろう?」
「そうなんだけど、そうともいえない。考古学では、アトランティスに存在したというオリハルコンは真鍮だったって説が濃厚なんだ。真鍮は実戦用の武器には不向きだけど他の金属と比べて魔力の吸収率が異常に高くて、宗教や儀式用として建築物や武器や道具に多く使われていたからな」

真鍮。
そう聞いてまず思いつくのは、聖剣の柄に埋め込んだ聖者のメダイユだ。
オリハルコンの話をしていたはずなのに、何時の間にか真鍮の話になっていた。
続きを聞くのが恐ろしいが、聞かずにはいられない。
ナナセの話はいつも突拍子もないが、今日のは特別ぶっ飛んでいる気がする。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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