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番外編 勇者の休日
花の指輪①
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首筋、鎖骨、胸元、背中、脇腹、内腿、臀部、膝裏、二の腕の内側の柔らかいところ……。
鬱血痕は、どんなに付けても、ナナセ自らの治癒術で跡形もなく消えてしまうのが少し惜しい。
「待っ……! エリー……っ!」
ナナセの掌がぺちりと可愛らしい音を立てて、今まさに臍の窪みに吸い付こうとしていた私の口に押し当てられる。
邪魔をされ、抗議の意味を込めて掌を舐めた。
「それっ、やめっ……!」
そんなところを舐められるとは思っていなかったのか驚いた様子で掌は忽ち外されたが、ナナセはイヤイヤというように頭を振って身を捩る。
吸い付くたびに、全身をひくんと跳ねさせてくれるのが嬉しくて、しつこくし過ぎたようだ。
「……嫌か?」
これは少し意地の悪い質問だった。
そういう訊ね方をされたら、ナナセは私を拒絶できなくなるのだ。
「や、じゃ……ない、けど」
「では、もう一回……いいだろう?」
治癒の贄なら既に捧げ終わっていたが、愛し合う者同士の睦み合いならば一回で終われるはずがない。
もう一回か二回ほど、ナナセの中で果てないと収まりがつかないだろう。
それに、どうやらナナセは私の顔がとても好きらしく、笑顔で強請れば大抵のことは聞き入れてくれる。それがベッドの上なら効果の程は言わずもがなだ。
だから、今回も特別良い笑顔で愛撫の手を休めることなく強請ったのだが、今日のナナセは頑なだった。
「でもっ、今日、谷っ、連れっ……ってくれるって、言っ……」
ナナセの言う「谷」とは家名であり領地名にも由来する花咲く谷のことだ。
ここ、ブルーメンタール辺境伯領ギュンター城へ転移した直後、ナナセは最初に見た林檎の花の咲く谷を甚くお気に召していた様子だったので、確かに今日はそこへ案内すると、そんな約束もしていた。
ところが、そんな約束をしていた今日に限って、午前中に緊急の患者が運び込まれて来たのである。
獣人領では治癒術は神殿の管轄だが、ヴェイラでは救護院という施設の扱いだ。
このギュンター城内にも救護院があり、国から派遣された治癒術士が、国境を護る辺境伯領の騎士や兵士に治癒を施していた。
ナナセはそこで、一日一回か二回の治癒を行い、私はそれに付き添う。
決まった時間に寝起きして、治癒という仕事もこなし、規則正しい生活を始めたナナセは、見違えるように生き生きとしていた。
領民から見れば、私もナナセも領主側の者という認識らしく、地元民ならではの敬意を払われているので距離感も良い。
すぐに馴染んで城内の救護院で治癒を始めたナナセは、普段は騎士や兵士が警邏から戻る夕方に行っているのだが、急患を診ない訳にはいかない。
そして、ナナセが治癒魔法を行使するということは、つまり、贄を捧げなければいけないということで、そこからは私の出番である。
そこでこうして昼日中から、ナナセにお願いされてセックスしていた次第なのだ。
「エリー……駄目、か?」
私を見上げる焦げ茶色の瞳が涙で潤む。
さっきまでナナセを散々泣かせて喘がせていた張本人である私が言うのもなんだが、目に涙を溜めてお強請りしてくるのは反則だろう。
「……行きたいのか?」
涙を堪えて口を引き結び、こっくりと頷かれてしまっては、もうお手上げだ。
ナナセが私の笑顔に弱いのと同じくらい、私も大概、ナナセの涙に弱い。
「……出掛けるなら支度しよう」
「エリー!」
抱き起すと、ナナセは嬉しそうに抱き着いてきた。
ナナセはもっと私にお強請りすればいいと思う。
その度に、こんなに喜んでくれるなら、何でも与えてしまいそうだ。
続きは夜まで持ち越しになってしまったが、これは丁度いい機会かもしれない。
私には、この城に滞在中に果たしてしまいたい使命があったのだ。
その使命とは即ち、ナナセの左手の薬指のサイズを測ることに他ならない。
鬱血痕は、どんなに付けても、ナナセ自らの治癒術で跡形もなく消えてしまうのが少し惜しい。
「待っ……! エリー……っ!」
ナナセの掌がぺちりと可愛らしい音を立てて、今まさに臍の窪みに吸い付こうとしていた私の口に押し当てられる。
邪魔をされ、抗議の意味を込めて掌を舐めた。
「それっ、やめっ……!」
そんなところを舐められるとは思っていなかったのか驚いた様子で掌は忽ち外されたが、ナナセはイヤイヤというように頭を振って身を捩る。
吸い付くたびに、全身をひくんと跳ねさせてくれるのが嬉しくて、しつこくし過ぎたようだ。
「……嫌か?」
これは少し意地の悪い質問だった。
そういう訊ね方をされたら、ナナセは私を拒絶できなくなるのだ。
「や、じゃ……ない、けど」
「では、もう一回……いいだろう?」
治癒の贄なら既に捧げ終わっていたが、愛し合う者同士の睦み合いならば一回で終われるはずがない。
もう一回か二回ほど、ナナセの中で果てないと収まりがつかないだろう。
それに、どうやらナナセは私の顔がとても好きらしく、笑顔で強請れば大抵のことは聞き入れてくれる。それがベッドの上なら効果の程は言わずもがなだ。
だから、今回も特別良い笑顔で愛撫の手を休めることなく強請ったのだが、今日のナナセは頑なだった。
「でもっ、今日、谷っ、連れっ……ってくれるって、言っ……」
ナナセの言う「谷」とは家名であり領地名にも由来する花咲く谷のことだ。
ここ、ブルーメンタール辺境伯領ギュンター城へ転移した直後、ナナセは最初に見た林檎の花の咲く谷を甚くお気に召していた様子だったので、確かに今日はそこへ案内すると、そんな約束もしていた。
ところが、そんな約束をしていた今日に限って、午前中に緊急の患者が運び込まれて来たのである。
獣人領では治癒術は神殿の管轄だが、ヴェイラでは救護院という施設の扱いだ。
このギュンター城内にも救護院があり、国から派遣された治癒術士が、国境を護る辺境伯領の騎士や兵士に治癒を施していた。
ナナセはそこで、一日一回か二回の治癒を行い、私はそれに付き添う。
決まった時間に寝起きして、治癒という仕事もこなし、規則正しい生活を始めたナナセは、見違えるように生き生きとしていた。
領民から見れば、私もナナセも領主側の者という認識らしく、地元民ならではの敬意を払われているので距離感も良い。
すぐに馴染んで城内の救護院で治癒を始めたナナセは、普段は騎士や兵士が警邏から戻る夕方に行っているのだが、急患を診ない訳にはいかない。
そして、ナナセが治癒魔法を行使するということは、つまり、贄を捧げなければいけないということで、そこからは私の出番である。
そこでこうして昼日中から、ナナセにお願いされてセックスしていた次第なのだ。
「エリー……駄目、か?」
私を見上げる焦げ茶色の瞳が涙で潤む。
さっきまでナナセを散々泣かせて喘がせていた張本人である私が言うのもなんだが、目に涙を溜めてお強請りしてくるのは反則だろう。
「……行きたいのか?」
涙を堪えて口を引き結び、こっくりと頷かれてしまっては、もうお手上げだ。
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