異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
63 / 266
番外編 勇者の休日

花の指輪①

しおりを挟む
首筋、鎖骨、胸元、背中、脇腹、内腿、臀部、膝裏、二の腕の内側の柔らかいところ……。
鬱血痕は、どんなに付けても、ナナセ自らの治癒術で跡形もなく消えてしまうのが少し惜しい。

「待っ……! エリー……っ!」

ナナセの掌がぺちりと可愛らしい音を立てて、今まさに臍の窪みに吸い付こうとしていた私の口に押し当てられる。
邪魔をされ、抗議の意味を込めて掌を舐めた。

「それっ、やめっ……!」

そんなところを舐められるとは思っていなかったのか驚いた様子で掌は忽ち外されたが、ナナセはイヤイヤというように頭を振って身を捩る。
吸い付くたびに、全身をひくんと跳ねさせてくれるのが嬉しくて、しつこくし過ぎたようだ。

「……嫌か?」

これは少し意地の悪い質問だった。
そういう訊ね方をされたら、ナナセは私を拒絶できなくなるのだ。

「や、じゃ……ない、けど」
「では、もう一回……いいだろう?」

治癒の贄なら既に捧げ終わっていたが、愛し合う者同士の睦み合いならば一回で終われるはずがない。
もう一回か二回ほど、ナナセの中で果てないと収まりがつかないだろう。
それに、どうやらナナセは私の顔がとても好きらしく、笑顔で強請れば大抵のことは聞き入れてくれる。それがベッドの上なら効果の程は言わずもがなだ。
だから、今回も特別良い笑顔で愛撫の手を休めることなく強請ったのだが、今日のナナセは頑なだった。

「でもっ、今日、谷っ、連れっ……ってくれるって、言っ……」

ナナセの言う「谷」とは家名であり領地名にも由来する花咲く谷ブルーメンタールのことだ。
ここ、ブルーメンタール辺境伯領ギュンター城へ転移した直後、ナナセは最初に見た林檎の花の咲く谷を甚くお気に召していた様子だったので、確かに今日はそこへ案内すると、そんな約束もしていた。

ところが、そんな約束をしていた今日に限って、午前中に緊急の患者が運び込まれて来たのである。

獣人領では治癒術は神殿の管轄だが、ヴェイラでは救護院という施設の扱いだ。
このギュンター城内にも救護院があり、国から派遣された治癒術士が、国境を護る辺境伯領の騎士や兵士に治癒を施していた。

ナナセはそこで、一日一回か二回の治癒を行い、私はそれに付き添う。
決まった時間に寝起きして、治癒という仕事もこなし、規則正しい生活を始めたナナセは、見違えるように生き生きとしていた。
領民から見れば、私もナナセも領主側の者という認識らしく、地元民ならではの敬意を払われているので距離感も良い。

すぐに馴染んで城内の救護院で治癒を始めたナナセは、普段は騎士や兵士が警邏から戻る夕方に行っているのだが、急患を診ない訳にはいかない。
そして、ナナセが治癒魔法を行使するということは、つまり、贄を捧げなければいけないということで、そこからは私の出番である。
そこでこうして昼日中から、ナナセにお願いされてセックスしていた次第なのだ。

「エリー……駄目、か?」

私を見上げる焦げ茶色の瞳が涙で潤む。
さっきまでナナセを散々泣かせて喘がせていた張本人である私が言うのもなんだが、目に涙を溜めてお強請りしてくるのは反則だろう。

「……行きたいのか?」

涙を堪えて口を引き結び、こっくりと頷かれてしまっては、もうお手上げだ。
ナナセが私の笑顔に弱いのと同じくらい、私も大概、ナナセの涙に弱い。

「……出掛けるなら支度しよう」
「エリー!」

抱き起すと、ナナセは嬉しそうに抱き着いてきた。
ナナセはもっと私にお強請りすればいいと思う。
その度に、こんなに喜んでくれるなら、何でも与えてしまいそうだ。

続きは夜まで持ち越しになってしまったが、これは丁度いい機会かもしれない。
私には、この城に滞在中に果たしてしまいたい使命があったのだ。
その使命とは即ち、ナナセの左手の薬指のサイズを測ることに他ならない。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...