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第一章 聖者降臨
〇四五 明けない夜はない①
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ともあれ、俺は大勝利と言える成果を持ち帰ることが出来たことには違いない。
「フリッツ! ルッツ! 聞いてくれよ! 俺ずっとこっちにいていいって、うちの親が! あとエリアスとの結婚も許して貰った!」
獣人領の王城に戻ると開口一番にそう喋り倒して、転移門のあるベランダの手すりの側で一杯やっていたフリッツことフリードリヒ陛下とルッツことルートヴィヒ殿下に一目散に駆け寄った。
「余の記憶では、其方は父親を殴りに行ったのではなかったか?」
「あっ! そうだった! 親父殴るのすっかり忘れてた!」
「何しに行ったんだお前は」
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下に呆れた顔で言われて我に返る。
正味一時間は掛からなかったと思うけど、辺りを見回せばバルコニーには魔法士や近衛騎士が集まって騒然としていて、そこへ俺たちが無事戻ってきたものだから何とも言えない空気が漂っていた。
それはそうだ。夜会の目玉だった勇者と聖者がいなくなったんだから。
これは……俺はまたみんなに迷惑をかけたっぽいな。
俺は物置に行くって言ったけど、この転移門に俺の魔法の残滓はないから転移先はヴェイラ王宮のままだし、ヴェイラと通信してみれば俺たちがヴェイラ王宮へ行っていないことはすぐにわかっただろう。
それなのに、フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下は俺の言葉を信じて待っててくれたんだな。
ていうか俺、頭に血が上ってて思い至らなかったけど、夜会の最中に王族を待たせちゃってたんだよな。
俺が自力で異世界転移することが可能で、帰宅してまた戻って来られるってことが証明されてしまった今となっては、異世界を股に掛ける貿易商を紹介して貰うっていうのも有耶無耶になっちゃったし非常に気まずい。
そもそもフリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下がこのバルコニーに来たのって、その人を紹介するために俺を探していて、一般客が入れない転移門にいるのなら話をするのに丁度いいと思ったから、わざわざ足を運んでくれたんじゃないのかと思う。
俺はこのとき、自己解決してしまったのが紹介して貰う前だったのだけが救いだと思っていたんだが、それが大きな間違いだったことに気付くのはもう少し後のことになる。
だって、考えてみれば異世界を股に掛ける貿易商なんてそう何人もいるわけでもないし、俺の治癒を単位に変えてくれるあしながおじさんと同一人物だってことは想像に難くなかったはずなんだ。
とはいえ、そんなことなど知る由もない俺は、今回こそは流石に何かお咎めがあるのを覚悟した。
巻きこんじゃってすまん、エリアス。
エリアスの経歴に傷が付いちゃったらどうしよう。
――とか考えていたんだが、事態はどうやら逆の方向へ動いたらしい。
「しかし、ほんの一時間足らずで、聖者をこの世界へ留めて置けることなったとはな……。我が領土だけでなくルヴァ全土にとって朗報ではないか。ひょっとして余の手柄になるのかこれは? ん? 余の名が歴史に残っちゃう?」
待って♡
手柄!?
歴史!?
何時からそういう話になってたんだ?
よく分からないが、フリードリヒ陛下は甚くご機嫌で、俺たちはお咎めなしなしな雰囲気だったので安心した。
それに俺、この世界でエリアスとずっと一緒にいられるんだ。
それって凄い!
凄いことなんだよ!
「ここが俺の国でなかったのがつくづく口惜しいが、獣人領で為されたことである以上、そういうことになるだろうな。美味しいところを掻っ攫っていきやがって。それはともかく、エリアス、ナナセ、良かったな。おめでとう」
「うむ! 今宵は良き日だ!」
ルートヴィヒ殿下がお祝いを言ってくれて、フリードリヒ陛下が星々に向かって盃を掲げた。
それを追うように、その場にいた全員が星々を見上げる。
頭上には降り注ぐような満天の星空。
そこに俺の知る星座は一つもない。
けれど俺の隣にはエリアスがいて、世界を渡る前から繋いでいた手は今もそのままだった。
夜明けまではまだ幾許かの猶予があって、舞踏会は夜明けまで続く。
こんなに胸がドキドキワクワクする夜は初めてだ。
部屋へ戻って眠ってしまうには惜しい。
「なあ、戻って踊ろうぜ! みんなでさ!」
だってこんな夜なのに、俺はまだパヴァーヌ一曲しか踊っていない。
「フリッツ! ルッツ! 聞いてくれよ! 俺ずっとこっちにいていいって、うちの親が! あとエリアスとの結婚も許して貰った!」
獣人領の王城に戻ると開口一番にそう喋り倒して、転移門のあるベランダの手すりの側で一杯やっていたフリッツことフリードリヒ陛下とルッツことルートヴィヒ殿下に一目散に駆け寄った。
「余の記憶では、其方は父親を殴りに行ったのではなかったか?」
「あっ! そうだった! 親父殴るのすっかり忘れてた!」
「何しに行ったんだお前は」
フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下に呆れた顔で言われて我に返る。
正味一時間は掛からなかったと思うけど、辺りを見回せばバルコニーには魔法士や近衛騎士が集まって騒然としていて、そこへ俺たちが無事戻ってきたものだから何とも言えない空気が漂っていた。
それはそうだ。夜会の目玉だった勇者と聖者がいなくなったんだから。
これは……俺はまたみんなに迷惑をかけたっぽいな。
俺は物置に行くって言ったけど、この転移門に俺の魔法の残滓はないから転移先はヴェイラ王宮のままだし、ヴェイラと通信してみれば俺たちがヴェイラ王宮へ行っていないことはすぐにわかっただろう。
それなのに、フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下は俺の言葉を信じて待っててくれたんだな。
ていうか俺、頭に血が上ってて思い至らなかったけど、夜会の最中に王族を待たせちゃってたんだよな。
俺が自力で異世界転移することが可能で、帰宅してまた戻って来られるってことが証明されてしまった今となっては、異世界を股に掛ける貿易商を紹介して貰うっていうのも有耶無耶になっちゃったし非常に気まずい。
そもそもフリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下がこのバルコニーに来たのって、その人を紹介するために俺を探していて、一般客が入れない転移門にいるのなら話をするのに丁度いいと思ったから、わざわざ足を運んでくれたんじゃないのかと思う。
俺はこのとき、自己解決してしまったのが紹介して貰う前だったのだけが救いだと思っていたんだが、それが大きな間違いだったことに気付くのはもう少し後のことになる。
だって、考えてみれば異世界を股に掛ける貿易商なんてそう何人もいるわけでもないし、俺の治癒を単位に変えてくれるあしながおじさんと同一人物だってことは想像に難くなかったはずなんだ。
とはいえ、そんなことなど知る由もない俺は、今回こそは流石に何かお咎めがあるのを覚悟した。
巻きこんじゃってすまん、エリアス。
エリアスの経歴に傷が付いちゃったらどうしよう。
――とか考えていたんだが、事態はどうやら逆の方向へ動いたらしい。
「しかし、ほんの一時間足らずで、聖者をこの世界へ留めて置けることなったとはな……。我が領土だけでなくルヴァ全土にとって朗報ではないか。ひょっとして余の手柄になるのかこれは? ん? 余の名が歴史に残っちゃう?」
待って♡
手柄!?
歴史!?
何時からそういう話になってたんだ?
よく分からないが、フリードリヒ陛下は甚くご機嫌で、俺たちはお咎めなしなしな雰囲気だったので安心した。
それに俺、この世界でエリアスとずっと一緒にいられるんだ。
それって凄い!
凄いことなんだよ!
「ここが俺の国でなかったのがつくづく口惜しいが、獣人領で為されたことである以上、そういうことになるだろうな。美味しいところを掻っ攫っていきやがって。それはともかく、エリアス、ナナセ、良かったな。おめでとう」
「うむ! 今宵は良き日だ!」
ルートヴィヒ殿下がお祝いを言ってくれて、フリードリヒ陛下が星々に向かって盃を掲げた。
それを追うように、その場にいた全員が星々を見上げる。
頭上には降り注ぐような満天の星空。
そこに俺の知る星座は一つもない。
けれど俺の隣にはエリアスがいて、世界を渡る前から繋いでいた手は今もそのままだった。
夜明けまではまだ幾許かの猶予があって、舞踏会は夜明けまで続く。
こんなに胸がドキドキワクワクする夜は初めてだ。
部屋へ戻って眠ってしまうには惜しい。
「なあ、戻って踊ろうぜ! みんなでさ!」
だってこんな夜なのに、俺はまだパヴァーヌ一曲しか踊っていない。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
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📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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