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第一章 聖者降臨
〇四三 勇者様ァッ♡①
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自分の下によく知った感触があることに気付いて、のそのそと這って起き上がる。
「ナナセッ……!」
「……ってェ……って、痛くない……エリー!? 悪い! 下敷きにしてた!」
自分の下によく知った感触があることに気付いて、のそのそと這って起き上がる。
エリアスにタックルされたと思った刹那、一年前のあのときと同じ浮遊感があってドサッとここに落っこちた。
「私は大丈夫だ。怪我はないか?」
「うん、ないけど。転移魔法中に無茶すんなよ」
「すまなかった……それでここはどこだ? 転移は成功したのか?」
「ああ、うちの物置」
暗くてほとんど何も見えないが、天井に例の小さな青白い光が見えるから俺ん家の物置だろう。
このタワマンには各部屋に一個ずつ地下物置がついているのだ。
壁伝いに照明のスイッチを探し当てて点灯すると、堆く積まれた衣装ケースやアウトドア用品なんかに埋もれて、足元の床に元凶である魔法陣と「アリババと四十人の盗賊」の絵本がそのまま残っていた。
俺、本当に異世界から戻って来られたんだ。
一年前のあの日、俺はこの物置で探し物をしていた。
なんとなく照明の光が青白い気がして電球の接触が悪いのかと天井のダウンライトを弄ってみたら、なんか不思議な感じがしたんだよな。
それはつまり、親父が使った転移魔法の残滓が俺の中に流れ込んできていたわけだけど、当時の俺にはその意味も何も分からなくて、そして直後にたまたまこの絵本を見つけた。
今考えるとわざとらしく置いてあったというべきか。
それでなんとなく呟いちゃったんだよ。「開けゴマ」って。
転移直後にもう一度言ってみたとしても、再び青白い光に触れて残滓の補助を受けなければ、あの時の俺には自力では術式を構築できないのでやはり失敗に終わっていただろう。
逆にそのとき「開けゴマ」を試さなかったからこそ今回それを失敗例として可能性から除外せず、こうして正解へ辿り着けたともいえる。
実際問題、さっきまで物置にいたと思ったら突然外国みたいなとこにいて、行き交う人たちは中世みたいな服着てて、知らない言葉で話しかけられてって状況になってみろよ。
軽くパニックだぞ。
そんな状態で、呪文だけならともかく、電球だと思って触れた青白い光との因果関係なんて考え付きもしないから。
俺と全く同じ状況に陥って自力で即行帰れた者だけが俺に石を投げなさい。
そうでない奴はまだスタートラインにも立ってないんだから発言権などないと思え。
「んー、駄目だ。やっぱり外からもう一個鍵が掛かってるな。エリー、これ壊せるか?」
「この扉は魔法反射が掛かっているな。だが物理ならいけそうだ。やってみよう」
魔法反射。
それがどんなものか知らないが、この物置は例え閉じ込められても中から鍵を開けられるのだが、うちは更に外にもう一つ鍵を取り付けていた。
そこまで厳重にするほど大事なものを置いているわけでもないし、何故だろうと思っていたが、転移門があったからか。
万が一、転移門から知らない奴がやって来てもその魔力反射とやらで閉じ込めておけるってわけか。
転移門で来るのは十中八九魔法士だしな。
俺とバトンタッチしたエリアスが、うんともすんとも言わなかった物置の扉に手を掛けるや否やバキンッと金属が砕ける音がして、いとも簡単に開いた。
やっぱり最終的に頼りになるのは物理攻撃だよな。
「すげえ!」
俺が素直に感嘆すると、エリアスはちょっと照れていた。
「……これくらい何でもない」
エリアス、ここ最近ホント可愛いんだよなあ。
「物置から出るためとはいえ鍵を壊してしまって大丈夫なのか。このままでは盗難にあうだろう」
「えっ? 誰が盗むの?」
「誰って、え……?」
「えっ!?」
これはお互いの意識の差を埋める努力をしないと駄目だと思った。
世界屈指の治安の良さを誇るこの国じゃ、カフェの席を取るために席にお財布を置いて必要なお金だけ持ってカウンターに注文に行ったりする例を挙げながら説明したが、エリアスは多分半分も信じていないだろう。
俺も王都から一歩外へ出たらヨハネスブルグって俄かには信じられなかったから気持ちはよく分かるわ。
「ここはタワーマンションって言って、高層建築の集合住宅なんだよ。今は地下で、俺ん家は上の方だからエレベーターで行くな。途中で誰かに会ったら俺が対応するから、エリーは何も言わずニッコリ笑っておいてくれよ」
お城の舞踏会を抜け出してきた勇者様と聖者様というのが比喩でも何でもなく真実な俺たちの今の格好は、半ナマミュージカル役者みたいだからな。
怪しまれてもエリアスの勇者スマイルを正面からまともに喰らったらなんかもうどうでもよくなるだろ。
簡単にマンション内部の説明をしながら地下のエレベーターホールへ出て、壁に掛けられた時計を見ると今はもう夜中だった。
うちの両親はもう寝てるかギリ起きてるか微妙な時間だ。
「ナナセッ……!」
「……ってェ……って、痛くない……エリー!? 悪い! 下敷きにしてた!」
自分の下によく知った感触があることに気付いて、のそのそと這って起き上がる。
エリアスにタックルされたと思った刹那、一年前のあのときと同じ浮遊感があってドサッとここに落っこちた。
「私は大丈夫だ。怪我はないか?」
「うん、ないけど。転移魔法中に無茶すんなよ」
「すまなかった……それでここはどこだ? 転移は成功したのか?」
「ああ、うちの物置」
暗くてほとんど何も見えないが、天井に例の小さな青白い光が見えるから俺ん家の物置だろう。
このタワマンには各部屋に一個ずつ地下物置がついているのだ。
壁伝いに照明のスイッチを探し当てて点灯すると、堆く積まれた衣装ケースやアウトドア用品なんかに埋もれて、足元の床に元凶である魔法陣と「アリババと四十人の盗賊」の絵本がそのまま残っていた。
俺、本当に異世界から戻って来られたんだ。
一年前のあの日、俺はこの物置で探し物をしていた。
なんとなく照明の光が青白い気がして電球の接触が悪いのかと天井のダウンライトを弄ってみたら、なんか不思議な感じがしたんだよな。
それはつまり、親父が使った転移魔法の残滓が俺の中に流れ込んできていたわけだけど、当時の俺にはその意味も何も分からなくて、そして直後にたまたまこの絵本を見つけた。
今考えるとわざとらしく置いてあったというべきか。
それでなんとなく呟いちゃったんだよ。「開けゴマ」って。
転移直後にもう一度言ってみたとしても、再び青白い光に触れて残滓の補助を受けなければ、あの時の俺には自力では術式を構築できないのでやはり失敗に終わっていただろう。
逆にそのとき「開けゴマ」を試さなかったからこそ今回それを失敗例として可能性から除外せず、こうして正解へ辿り着けたともいえる。
実際問題、さっきまで物置にいたと思ったら突然外国みたいなとこにいて、行き交う人たちは中世みたいな服着てて、知らない言葉で話しかけられてって状況になってみろよ。
軽くパニックだぞ。
そんな状態で、呪文だけならともかく、電球だと思って触れた青白い光との因果関係なんて考え付きもしないから。
俺と全く同じ状況に陥って自力で即行帰れた者だけが俺に石を投げなさい。
そうでない奴はまだスタートラインにも立ってないんだから発言権などないと思え。
「んー、駄目だ。やっぱり外からもう一個鍵が掛かってるな。エリー、これ壊せるか?」
「この扉は魔法反射が掛かっているな。だが物理ならいけそうだ。やってみよう」
魔法反射。
それがどんなものか知らないが、この物置は例え閉じ込められても中から鍵を開けられるのだが、うちは更に外にもう一つ鍵を取り付けていた。
そこまで厳重にするほど大事なものを置いているわけでもないし、何故だろうと思っていたが、転移門があったからか。
万が一、転移門から知らない奴がやって来てもその魔力反射とやらで閉じ込めておけるってわけか。
転移門で来るのは十中八九魔法士だしな。
俺とバトンタッチしたエリアスが、うんともすんとも言わなかった物置の扉に手を掛けるや否やバキンッと金属が砕ける音がして、いとも簡単に開いた。
やっぱり最終的に頼りになるのは物理攻撃だよな。
「すげえ!」
俺が素直に感嘆すると、エリアスはちょっと照れていた。
「……これくらい何でもない」
エリアス、ここ最近ホント可愛いんだよなあ。
「物置から出るためとはいえ鍵を壊してしまって大丈夫なのか。このままでは盗難にあうだろう」
「えっ? 誰が盗むの?」
「誰って、え……?」
「えっ!?」
これはお互いの意識の差を埋める努力をしないと駄目だと思った。
世界屈指の治安の良さを誇るこの国じゃ、カフェの席を取るために席にお財布を置いて必要なお金だけ持ってカウンターに注文に行ったりする例を挙げながら説明したが、エリアスは多分半分も信じていないだろう。
俺も王都から一歩外へ出たらヨハネスブルグって俄かには信じられなかったから気持ちはよく分かるわ。
「ここはタワーマンションって言って、高層建築の集合住宅なんだよ。今は地下で、俺ん家は上の方だからエレベーターで行くな。途中で誰かに会ったら俺が対応するから、エリーは何も言わずニッコリ笑っておいてくれよ」
お城の舞踏会を抜け出してきた勇者様と聖者様というのが比喩でも何でもなく真実な俺たちの今の格好は、半ナマミュージカル役者みたいだからな。
怪しまれてもエリアスの勇者スマイルを正面からまともに喰らったらなんかもうどうでもよくなるだろ。
簡単にマンション内部の説明をしながら地下のエレベーターホールへ出て、壁に掛けられた時計を見ると今はもう夜中だった。
うちの両親はもう寝てるかギリ起きてるか微妙な時間だ。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
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📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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