48 / 266
第一章 聖者降臨
〇四二 イフタフ・ヤー・シムシム①
しおりを挟む
みんなが一斉に「お前は何を言っているんだ」という顔で俺を見たが、自分が何を言ってるのか俺にも分からない。
そりゃあそうだ。
転移門を扱えるのは結構高位の魔法士だけだって聞いてるし、治癒魔法しか使えない俺がどうやってって俺だって思う。
だけど俺はこのときそんなことに構ってはいられなかった。
だって、すべての元凶に気付いてしまったから。
「あんのクソ親父ッ……!」
あの青白い光は蓄積された魔法の残滓。
あの光は補助的なもので、大して意味はない。
重要なのはこの場に描かれた魔法陣だ。
この円形のバルコニーの床全面によく見れば、俺ん家の物置の床にあったのと同じ複雑な魔法陣が描かれている。
その一部は度々ヴェイラの王都のそこかしこでも見かけた。
俺は剣と魔法の世界ではそういうもんなんだろうと思って気にも留めていなかったが。
改めて見てみると、この魔法陣に組み込まれた文字は、エリアスの聖剣の剣身に浮き出ていた文字によく似ていた。
いけない。今は魔法陣に集中しよう。
わかる。
できる。
使える。
一年前のあのとき、物置の中で電球の接触が悪いのかと手を伸ばして――あれは、これよりもっとずっと小さくて弱かったけれど――これと同じ青白い光に触れた刹那、補助を受けて頭の中に術式が展開されたんだ。
あの時は、その意味も因果関係も何も分かっていなかったけれど。
どうしてなのかは言葉では説明出来ない。
だけど、どうすればいいか俺には分かる。
やっぱりそうだ。
これに違いない。
転移門は出発地点と到着地点の双方に転移門が設置してある必要がある。
決して、どこでも好きな場所を指定して転移できると言う訳ではないのだ。
つまり、俺が転移門を使ってこっちに来たということは、当然そこにも双方に転移門があったはずなのだ。
「クソッ! クソッ! クソッ! あったんだよ! そこにあったんだ最初から!」
「ナナセ。まずは落ち着いてから、どういうことなのか順を追って説明してくれ」
それまで黙って様子を見ていたエリアスが俺の両肩を掴んで自分の方へ向かせた。
「だから、ヴェイラの王都全体が巨大な転移門になってんだよ! そんでもって俺ん家の物置にもこれと同じものがあるんだよ! ああもうっ、クソッ! しかもあんな子供騙しの呪文で……!」
これと同じものをうちの物置と、それからヴェイラの王都に設置したのは間違いなく俺の親父だ。
親父のことは中二病を拗らせた痛い大人だと思っていたんだが、それもこれも全部本当のことを言っていたのだとしたら辻褄が合う。
そうだ、この世界はガチ過ぎて、俺みたいな中二病患者は生き難かった。
だけど、もしも中二病じゃなくて本物だったらどうなのだろう。
この世界でそれは、至って普通の、当たり前のことだった。
「俺、ちょっと家帰って親父殴ってくる!」
「ナナセ……? 何を言って……」
「フリッツ! この城の転移門は、何時でも俺の前に開かれてるって約束してくれたよな? あの言葉に嘘偽りはないよな?」
エリアスたちが何について説明を求めているかは分かる。
それについてはぐらかすつもりはないし、出来る限り答えたいと思う。
だけど、それにはまず親父のことを説明しなければならない。
そこが難しいのだ。
俺の剣幕にちょっと退きながらも、フリッツことフリードリヒ陛下は頷いた。
「あ、ああ、確かに言ったし嘘偽りはないが、この転移門の転移先は其方の家の物置ではなくヴェイラの王宮だぞ?」
「うーんと、これはそういうものじゃない。これは魔法の残滓を留めておくだけの装置なんだよ。前に使われた術式を辿るだけなら一から構築するより遥かに簡単だから。残滓の術式をそのままトレースすると転移先も前回と同じになっちゃうってだけで、やり方さえ分かってれば転移先はその都度任意で変えられると思う」
こういう質問にならすらすら答えられるのに、親父に関することには思うように答えられない自分自身にイライラしていた。
「ちょっと家帰って親父を一発殴ってくるだけだから五分で戻る! あ、でもうちタワマンでエレベーター全機行っちゃったばかりだと待ち時間結構かかるから往復で四十分……いや、物置は地下だし、一時間くらい見といて!」
フリードリヒ陛下の返事を待たずに俺はバルコニーの中央までずんずんと歩いて行って青白い光の真下まで来ると、頭上の光に向かって手を伸ばす。
何メートルも上空にある光に手が届くわけがないが、指先はちゃんと魔法の残滓に触れた。
これは、そういうものだ。
俺の魔法を補助してくれるもの。
数えきれないほど多くの人たちの魔法の残滓が流れ込んできて、ヴェイラに転移してきたあの時と同じく、補助を受けて頭の中に自ずと術式が展開する。
そりゃあそうだ。
転移門を扱えるのは結構高位の魔法士だけだって聞いてるし、治癒魔法しか使えない俺がどうやってって俺だって思う。
だけど俺はこのときそんなことに構ってはいられなかった。
だって、すべての元凶に気付いてしまったから。
「あんのクソ親父ッ……!」
あの青白い光は蓄積された魔法の残滓。
あの光は補助的なもので、大して意味はない。
重要なのはこの場に描かれた魔法陣だ。
この円形のバルコニーの床全面によく見れば、俺ん家の物置の床にあったのと同じ複雑な魔法陣が描かれている。
その一部は度々ヴェイラの王都のそこかしこでも見かけた。
俺は剣と魔法の世界ではそういうもんなんだろうと思って気にも留めていなかったが。
改めて見てみると、この魔法陣に組み込まれた文字は、エリアスの聖剣の剣身に浮き出ていた文字によく似ていた。
いけない。今は魔法陣に集中しよう。
わかる。
できる。
使える。
一年前のあのとき、物置の中で電球の接触が悪いのかと手を伸ばして――あれは、これよりもっとずっと小さくて弱かったけれど――これと同じ青白い光に触れた刹那、補助を受けて頭の中に術式が展開されたんだ。
あの時は、その意味も因果関係も何も分かっていなかったけれど。
どうしてなのかは言葉では説明出来ない。
だけど、どうすればいいか俺には分かる。
やっぱりそうだ。
これに違いない。
転移門は出発地点と到着地点の双方に転移門が設置してある必要がある。
決して、どこでも好きな場所を指定して転移できると言う訳ではないのだ。
つまり、俺が転移門を使ってこっちに来たということは、当然そこにも双方に転移門があったはずなのだ。
「クソッ! クソッ! クソッ! あったんだよ! そこにあったんだ最初から!」
「ナナセ。まずは落ち着いてから、どういうことなのか順を追って説明してくれ」
それまで黙って様子を見ていたエリアスが俺の両肩を掴んで自分の方へ向かせた。
「だから、ヴェイラの王都全体が巨大な転移門になってんだよ! そんでもって俺ん家の物置にもこれと同じものがあるんだよ! ああもうっ、クソッ! しかもあんな子供騙しの呪文で……!」
これと同じものをうちの物置と、それからヴェイラの王都に設置したのは間違いなく俺の親父だ。
親父のことは中二病を拗らせた痛い大人だと思っていたんだが、それもこれも全部本当のことを言っていたのだとしたら辻褄が合う。
そうだ、この世界はガチ過ぎて、俺みたいな中二病患者は生き難かった。
だけど、もしも中二病じゃなくて本物だったらどうなのだろう。
この世界でそれは、至って普通の、当たり前のことだった。
「俺、ちょっと家帰って親父殴ってくる!」
「ナナセ……? 何を言って……」
「フリッツ! この城の転移門は、何時でも俺の前に開かれてるって約束してくれたよな? あの言葉に嘘偽りはないよな?」
エリアスたちが何について説明を求めているかは分かる。
それについてはぐらかすつもりはないし、出来る限り答えたいと思う。
だけど、それにはまず親父のことを説明しなければならない。
そこが難しいのだ。
俺の剣幕にちょっと退きながらも、フリッツことフリードリヒ陛下は頷いた。
「あ、ああ、確かに言ったし嘘偽りはないが、この転移門の転移先は其方の家の物置ではなくヴェイラの王宮だぞ?」
「うーんと、これはそういうものじゃない。これは魔法の残滓を留めておくだけの装置なんだよ。前に使われた術式を辿るだけなら一から構築するより遥かに簡単だから。残滓の術式をそのままトレースすると転移先も前回と同じになっちゃうってだけで、やり方さえ分かってれば転移先はその都度任意で変えられると思う」
こういう質問にならすらすら答えられるのに、親父に関することには思うように答えられない自分自身にイライラしていた。
「ちょっと家帰って親父を一発殴ってくるだけだから五分で戻る! あ、でもうちタワマンでエレベーター全機行っちゃったばかりだと待ち時間結構かかるから往復で四十分……いや、物置は地下だし、一時間くらい見といて!」
フリードリヒ陛下の返事を待たずに俺はバルコニーの中央までずんずんと歩いて行って青白い光の真下まで来ると、頭上の光に向かって手を伸ばす。
何メートルも上空にある光に手が届くわけがないが、指先はちゃんと魔法の残滓に触れた。
これは、そういうものだ。
俺の魔法を補助してくれるもの。
数えきれないほど多くの人たちの魔法の残滓が流れ込んできて、ヴェイラに転移してきたあの時と同じく、補助を受けて頭の中に自ずと術式が展開する。
0
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる