異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

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第一章 聖者降臨

〇四二 イフタフ・ヤー・シムシム①

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みんなが一斉に「お前は何を言っているんだ」という顔で俺を見たが、自分が何を言ってるのか俺にも分からない。
そりゃあそうだ。
転移門を扱えるのは結構高位の魔法士だけだって聞いてるし、治癒魔法しか使えない俺がどうやってって俺だって思う。
だけど俺はこのときそんなことに構ってはいられなかった。
だって、すべての元凶に気付いてしまったから。

「あんのクソ親父ッ……!」

あの青白い光は蓄積された魔法の残滓。
あの光は補助的なもので、大して意味はない。
重要なのはこの場に描かれた魔法陣だ。
この円形のバルコニーの床全面によく見れば、俺ん家の物置の床にあったのと同じ複雑な魔法陣が描かれている。
その一部は度々ヴェイラの王都のそこかしこでも見かけた。
俺は剣と魔法の世界ではそういうもんなんだろうと思って気にも留めていなかったが。
改めて見てみると、この魔法陣に組み込まれた文字は、エリアスの聖剣の剣身に浮き出ていた文字によく似ていた。
いけない。今は魔法陣に集中しよう。

わかる。
できる。
使える。
一年前のあのとき、物置の中で電球の接触が悪いのかと手を伸ばして――あれは、これよりもっとずっと小さくて弱かったけれど――これと同じ青白い光に触れた刹那、補助を受けて頭の中に術式が展開されたんだ。
あの時は、その意味も因果関係も何も分かっていなかったけれど。
どうしてなのかは言葉では説明出来ない。
だけど、どうすればいいか俺には分かる。
やっぱりそうだ。
これに違いない。
転移門は出発地点と到着地点の双方に転移門が設置してある必要がある。
決して、どこでも好きな場所を指定して転移できると言う訳ではないのだ。
つまり、俺が転移門を使ってこっちに来たということは、当然そこにも双方に転移門があったはずなのだ。

「クソッ! クソッ! クソッ! あったんだよ! そこにあったんだ最初から!」
「ナナセ。まずは落ち着いてから、どういうことなのか順を追って説明してくれ」

それまで黙って様子を見ていたエリアスが俺の両肩を掴んで自分の方へ向かせた。

「だから、ヴェイラの王都全体が巨大な転移門になってんだよ! そんでもって俺ん家の物置にもこれと同じものがあるんだよ! ああもうっ、クソッ! しかもあんな子供騙しの呪文スペルで……!」

これと同じものをうちの物置と、それからヴェイラの王都に設置したのは間違いなく俺の親父だ。
親父のことは中二病を拗らせた痛い大人だと思っていたんだが、それもこれも全部本当のことを言っていたのだとしたら辻褄が合う。
そうだ、この世界はガチ過ぎて、俺みたいな中二病患者は生き難かった。
だけど、もしも中二病じゃなくて本物だったらどうなのだろう。
この世界でそれは、至って普通の、当たり前のことだった。

「俺、ちょっと家帰って親父殴ってくる!」
「ナナセ……? 何を言って……」
「フリッツ! この城の転移門は、何時でも俺の前に開かれてるって約束してくれたよな? あの言葉に嘘偽りはないよな?」

エリアスたちが何について説明を求めているかは分かる。
それについてはぐらかすつもりはないし、出来る限り答えたいと思う。
だけど、それにはまず親父のことを説明しなければならない。
そこが難しいのだ。
俺の剣幕にちょっと退きながらも、フリッツことフリードリヒ陛下は頷いた。

「あ、ああ、確かに言ったし嘘偽りはないが、この転移門の転移先は其方の家の物置ではなくヴェイラの王宮だぞ?」
「うーんと、これはそういうものじゃない。これは魔法の残滓を留めておくだけの装置なんだよ。前に使われた術式を辿るだけなら一から構築するより遥かに簡単だから。残滓の術式をそのままトレースすると転移先も前回と同じになっちゃうってだけで、やり方さえ分かってれば転移先はその都度任意で変えられると思う」

こういう質問にならすらすら答えられるのに、親父に関することには思うように答えられない自分自身にイライラしていた。

「ちょっと家帰って親父を一発殴ってくるだけだから五分で戻る! あ、でもうちタワマンでエレベーター全機行っちゃったばかりだと待ち時間結構かかるから往復で四十分……いや、物置は地下だし、一時間くらい見といて!」

フリードリヒ陛下の返事を待たずに俺はバルコニーの中央までずんずんと歩いて行って青白い光の真下まで来ると、頭上の光に向かって手を伸ばす。
何メートルも上空にある光に手が届くわけがないが、指先はちゃんと魔法の残滓に触れた。
これは、そういうものだ。
俺の魔法を補助してくれるもの。
数えきれないほど多くの人たちの魔法の残滓が流れ込んできて、ヴェイラに転移してきたあの時と同じく、補助を受けて頭の中に自ずと術式が展開する。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


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次章続巻も順次刊行予定
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