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第一章 聖者降臨
〇四一 転移門①
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招待客に面白おかしく絡んでは芸を見せていた宮廷道化師が侍従に追い立てられ、その隙に宮廷吟遊詩人が登場し、招待客にペアを作って二列に並ぶように呼び掛ける。
ルヴァにはデビュタントのフォーメーションダンスがないからか、王様が入場してからの一曲目は、王様への顔見せも兼ねて、固定ペアでパヴァーヌを踊るんだとか。
――と、振付から流れから何から何まで全部、侍従と道化師と吟遊詩人がコントみたいな寸劇や歌をかましながら説明してくれた。
真面目に解説をしている侍従と、その後ろでパントマイムで侍従を馬鹿にする道化師、それを侍従に恋の歌で遠まわしに教えてやる吟遊詩人のやりとりに、あちこちでどっと笑いが起こり野次も飛ぶ。「志村ー! 後ろ、後ろ!」ってやつだな。
道化師のせいで幾度も中断されて解説が全然進まないんだが、三人とも盛り上げ役だとみんな分かっているので、そんなことは誰も気にしてない。
なにこれ面白い!
これはサルでも踊れるやつ!
見れば、まだペアを作ってない男性たちを道化師が煽り、誘って欲しそうにしている女性グループの方へ嗾けている。
そうやって「仕方ないなー」って状況を作ってやっているのだ。
道化師良い奴じゃん。
そんなのを見てたら俺もうずうずして居ても立ってもいられなくなってくる。
「エリー! 俺たちも踊ろう!」
土壇場でヘタレたのかあんまり乗り気じゃないエリアスの手を引っ張ってダンスのために形成された列に並ぼうとすると、目の前でパカッと列が割れた。
どういうことかと吃驚していると侍従が「おおっこれは勇者様と聖者様!」と大仰に俺たちを呼んだ。
「さあさあ、勇者様と聖者様が参加されるまたとないこの機会に踊らなかったら一生後悔されますよ!」
侍従の呼びかけに、壁際で見物を決め込んでいた者たちも互いに顔を見合わせてそわそわし出す。
さっきまで列を作っていた人たちが俺たちに遠慮してか後ろに回ってしまったので、俺たちはあれよあれよという間に先頭へ押し出されていた。
前の人のを見て真似しようと思ってたのに一番前かよ。
しかも俺たちの後ろを振り返ってみれば、参加者が多すぎて列がしっちゃかめっちゃかになってしまっている。
そこで今まで流れていた音楽の曲調が変わった。
「はい! それでは向かい合ってパートナーの手を取って……上に掲げたら右足を下げて、はいここでお辞儀! よろしゅうございます。皆さま大変お上手ですよ!」
侍従の気取った言い方に、長い列のそこかしこでくすくす笑いが起こる。
侍従の手腕か、良い雰囲気だな。
誰でも楽しめるように、ものっそいハードル下げてくれてるんだ。
こういう宮廷の空気はフリードリヒ陛下の人柄故なのかもしれない。
パヴァーヌにもいろいろあるけど、このパヴァーヌは手を繋いだままぴょんぴょんとステップを踏んでゆらゆら揺れてから二人で向かい合ってまたぴょんぴょんの繰り返しだ。
間違えても全然オッケーな空気だし、多分これ、もし俺が間違っても、それを後ろの奴らが真似しなくちゃいけないやつだ。おもしれー。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「ナナセが楽しそうでよかった」
楽しんでいる様子の俺に気付いたエリアスがそんなことを言ってきたが、そういう本人はあんまり楽しそうじゃない。
「エリーももっと楽しめよ」
俺とエリアスが話しながら最初のステップを踏み出すと後ろの長蛇の列もステップを踏みながら付いてくる。
「楽しんでいるよ」
本当か?
エリアスがそんな上辺だけの言葉を口にするものだから、悪戯心を刺激された俺は向かい合ってぴょんぴょんとステップを踏んだ後に、本来の振り付けにはないけど、繋いだ手を上に大きく掲げてやった。
エリアスが少し慌てた顔で「振付が違うぞ」と目で訴えてくるのにニヤッと笑顔で返すとその場でくるっと一回転してやる。
「……はいっ、そこでご婦人方は一回転!」
即座に対応する侍従、なかなかやるな。
列の後ろの人たちも俺たちのダンスを見て戸惑いつつも一回転した。
これにはエリアスも唖然とした後で苦笑していたんだが、俺はちょっと待てと言いたい。
さっきあの侍従さん、今、「ご婦人方は」って言わなかったか?
踊りながら振り返って見れば、俺の後ろの列は女性ばかりで、エリアスの後ろは男性ばかりだった。
なんで俺だけナチュラルに女性側に配列されてんだよ!?
今気付いたよ!
まあエリアスとの身長差だったら、そうなってしまうのも仕方ないけどさ。
やり場のない憤りを抱え、なんか悔しいのでエリアスを睨むと、さっきより格段に楽しそうな顔で、さあ回れと繋いだ手を掲げている。
楽しそうだな?
楽しいんだろうな?
俺も負けじと楽しむためにまたくるっと一回転した。
「――楽しかった」
パヴァーヌを一曲踊り終わって列から離れる途中で、エリアスは自分でも信じられないという様子でそう零した。
そうだろう。そうだろう。
これで夜会を楽しい記憶で上書きするミッションはコンプリートだな。
達成感に満足する。
ルヴァにはデビュタントのフォーメーションダンスがないからか、王様が入場してからの一曲目は、王様への顔見せも兼ねて、固定ペアでパヴァーヌを踊るんだとか。
――と、振付から流れから何から何まで全部、侍従と道化師と吟遊詩人がコントみたいな寸劇や歌をかましながら説明してくれた。
真面目に解説をしている侍従と、その後ろでパントマイムで侍従を馬鹿にする道化師、それを侍従に恋の歌で遠まわしに教えてやる吟遊詩人のやりとりに、あちこちでどっと笑いが起こり野次も飛ぶ。「志村ー! 後ろ、後ろ!」ってやつだな。
道化師のせいで幾度も中断されて解説が全然進まないんだが、三人とも盛り上げ役だとみんな分かっているので、そんなことは誰も気にしてない。
なにこれ面白い!
これはサルでも踊れるやつ!
見れば、まだペアを作ってない男性たちを道化師が煽り、誘って欲しそうにしている女性グループの方へ嗾けている。
そうやって「仕方ないなー」って状況を作ってやっているのだ。
道化師良い奴じゃん。
そんなのを見てたら俺もうずうずして居ても立ってもいられなくなってくる。
「エリー! 俺たちも踊ろう!」
土壇場でヘタレたのかあんまり乗り気じゃないエリアスの手を引っ張ってダンスのために形成された列に並ぼうとすると、目の前でパカッと列が割れた。
どういうことかと吃驚していると侍従が「おおっこれは勇者様と聖者様!」と大仰に俺たちを呼んだ。
「さあさあ、勇者様と聖者様が参加されるまたとないこの機会に踊らなかったら一生後悔されますよ!」
侍従の呼びかけに、壁際で見物を決め込んでいた者たちも互いに顔を見合わせてそわそわし出す。
さっきまで列を作っていた人たちが俺たちに遠慮してか後ろに回ってしまったので、俺たちはあれよあれよという間に先頭へ押し出されていた。
前の人のを見て真似しようと思ってたのに一番前かよ。
しかも俺たちの後ろを振り返ってみれば、参加者が多すぎて列がしっちゃかめっちゃかになってしまっている。
そこで今まで流れていた音楽の曲調が変わった。
「はい! それでは向かい合ってパートナーの手を取って……上に掲げたら右足を下げて、はいここでお辞儀! よろしゅうございます。皆さま大変お上手ですよ!」
侍従の気取った言い方に、長い列のそこかしこでくすくす笑いが起こる。
侍従の手腕か、良い雰囲気だな。
誰でも楽しめるように、ものっそいハードル下げてくれてるんだ。
こういう宮廷の空気はフリードリヒ陛下の人柄故なのかもしれない。
パヴァーヌにもいろいろあるけど、このパヴァーヌは手を繋いだままぴょんぴょんとステップを踏んでゆらゆら揺れてから二人で向かい合ってまたぴょんぴょんの繰り返しだ。
間違えても全然オッケーな空気だし、多分これ、もし俺が間違っても、それを後ろの奴らが真似しなくちゃいけないやつだ。おもしれー。
オラ、ワクワクしてきたぞ!
「ナナセが楽しそうでよかった」
楽しんでいる様子の俺に気付いたエリアスがそんなことを言ってきたが、そういう本人はあんまり楽しそうじゃない。
「エリーももっと楽しめよ」
俺とエリアスが話しながら最初のステップを踏み出すと後ろの長蛇の列もステップを踏みながら付いてくる。
「楽しんでいるよ」
本当か?
エリアスがそんな上辺だけの言葉を口にするものだから、悪戯心を刺激された俺は向かい合ってぴょんぴょんとステップを踏んだ後に、本来の振り付けにはないけど、繋いだ手を上に大きく掲げてやった。
エリアスが少し慌てた顔で「振付が違うぞ」と目で訴えてくるのにニヤッと笑顔で返すとその場でくるっと一回転してやる。
「……はいっ、そこでご婦人方は一回転!」
即座に対応する侍従、なかなかやるな。
列の後ろの人たちも俺たちのダンスを見て戸惑いつつも一回転した。
これにはエリアスも唖然とした後で苦笑していたんだが、俺はちょっと待てと言いたい。
さっきあの侍従さん、今、「ご婦人方は」って言わなかったか?
踊りながら振り返って見れば、俺の後ろの列は女性ばかりで、エリアスの後ろは男性ばかりだった。
なんで俺だけナチュラルに女性側に配列されてんだよ!?
今気付いたよ!
まあエリアスとの身長差だったら、そうなってしまうのも仕方ないけどさ。
やり場のない憤りを抱え、なんか悔しいのでエリアスを睨むと、さっきより格段に楽しそうな顔で、さあ回れと繋いだ手を掲げている。
楽しそうだな?
楽しいんだろうな?
俺も負けじと楽しむためにまたくるっと一回転した。
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そうだろう。そうだろう。
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達成感に満足する。
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次章続巻も順次刊行予定
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※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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