44 / 266
第一章 聖者降臨
〇四〇 中二病ヒーラー治癒十九歳①
しおりを挟む
「今回の騒動、公式発表はされておりませんけど、実はルートヴィヒ殿下と聖者様が駆け落ちされたのが発端だったとか」
ないないないないっ!
「まあっ、わたくし、フリードリヒ陛下が聖者様に結婚を迫ったものの拒否されて強引に攫ったと聞きましたわ」
どうしてそうなるっ!?
「いえいえ、フリードリヒ陛下の暗殺計画を知った聖者様が単身で陛下の危機に駆けつけて、その比い稀なる治癒能力で陛下は一命をとりとめ、事なきを得たんですのよ」
半分合ってて半分違ってる。
「皆さま何を仰っていらっしゃいますの? 聖者様は勇者様の婚約者ですのよ! 憶測で聖者様の貞操にあらぬ疑いを掛けないで頂きたいわ!」
すまん。その全員と寝たよ……。
「そこですわ。聖者様の失踪と時期を同じくして、ヴェイラ王国の第一王子マキシミリアン殿下が王位継承権を放棄されて事実上失脚されたのは偶然とは思えませんでしょう? ということは、ルートヴィヒ殿下やフリードリヒ陛下とのお噂は、聖者様を力尽くで我が物にしようとして勇者様に制裁を加えられたマキシミリアン殿下の醜聞を隠すためのフェイクと取るのが正統ではなくて?」
マキシミリアン殿下なんて会ったことない!
会場内にいれば自ずと耳に入ってくる貴族のご令嬢たちの噂話というか萌え語りはエキサイトする一方で、そこから先は、推しカップリングの相違からくる腐女子同士のマウント合戦になっていた……。
――これは一体どういうことだってばよ!?
ここで話は戻って、貴賓席のフリードリヒ陛下に、エリアスは綺麗な所作で所謂ボウ・アンド・スクレープを、俺は日本風のお辞儀をした後、軽く二言三言交わして挨拶を済ませると、また後ほど会う約束をして御前を後にした。
そうなんだよ。今夜は異世界を股に掛ける貿易商とやらを紹介して貰うのが目的なんだ。
今は、獣人領のレガリアの首飾りに付けられた聖者のメダイユについては目を瞑ることにして、広間へ戻ったのはいいんだが、そこで聞こえて来たのが件の噂話である。
「なあエリー、なんか凄い噂になってるみたいなんだが、どうなってるんだ?」
涼しい顔をしているが当然聞こえているであろうエリアスにこっそり訊いてみると、エリアスは俺の頭を抱えるようにして引き寄せ顳顬に口付けながら話してくれた。
「第一王子マキシミリアン殿下が失脚したのは事実だ。これを受けて第二王子であるルートヴィヒ殿下が近々立太子する。ナナセが同行した殿下の王都脱出はそもそもマキシミリアン殿下のクーデターを避けてのことだったんだ。ルートヴィヒ殿下の王都脱出にも、フリードリヒ陛下の暗殺未遂にも、どちらもナナセが深く絡んでいるからな。これらの件は今後も一切の公式発表はせず、噂や憶測が広がるのに任せ、すべてを有耶無耶にしてしまおうということでヴェイラ王国及び獣人領双方で合意して決着した」
うっ……!
全部俺のせいだった。
サーセンッ……!
そうだよな!
それ全部俺がやらかしてたな!
そして今のでまた異世界腐女子が何人か倒れて大分間引きされた気がするぞ。
深窓の令嬢っていうのは、刺激から遠ざけられて蝶よ花よと育てられるから、ちょっとしたことで気を失うんだよな。
「それから、こういう場には読唇術を使えるものも少なからずいるから唇を読まれないようにしてくれ」
「そ……そうか。エリーもルッ……殿下も陛下も、俺を護るために動いてくれていたんだな……俺、何にも知らなくて……ありがとう」
「ごめん」の代わりに「ありがとう」を言うのもすっかり板についてきたぜ。
ブーケで口元を隠しながら俺がお礼を言うと、ところがエリアスはぽりぽりと顔を掻きながら視線を彷徨わせて言いづらそうに白状した。
「……ナナセのせいではない。責任は主に私にある。クーデターは放置しておいても失敗に終わり、全ては水面下で事が運ぶはずだったんだ。だがナナセが消えてマキシミリアン殿下の関与を疑った私が締め上げてしまって……」
なんだよ! 大体お前のせいかよ!
でも、そういうことだったのか。
三人でコソコソしてるから余程アレなことになってるのかと思ってたぜ。
それでその、マキシミリアン殿下って人は大丈夫なのか?
まだ生きてるのか?
やっぱり王位継承権を放棄する書類にサインさせられて修道院にぶち込まれてたりするんだろうか。
エリアスに訊いてみたけど今日一良い笑顔で「大丈夫だ」と一言返されただけで、それ以上の追及を拒否られてしまった。
あと、もう聞かれてマズイ話は終わったんだから、顳顬に口付けるの止めもいいんだぞ?
異世界腐女子が間引きされると男ばっか残るから、それはそれでキツイものがある。
ないないないないっ!
「まあっ、わたくし、フリードリヒ陛下が聖者様に結婚を迫ったものの拒否されて強引に攫ったと聞きましたわ」
どうしてそうなるっ!?
「いえいえ、フリードリヒ陛下の暗殺計画を知った聖者様が単身で陛下の危機に駆けつけて、その比い稀なる治癒能力で陛下は一命をとりとめ、事なきを得たんですのよ」
半分合ってて半分違ってる。
「皆さま何を仰っていらっしゃいますの? 聖者様は勇者様の婚約者ですのよ! 憶測で聖者様の貞操にあらぬ疑いを掛けないで頂きたいわ!」
すまん。その全員と寝たよ……。
「そこですわ。聖者様の失踪と時期を同じくして、ヴェイラ王国の第一王子マキシミリアン殿下が王位継承権を放棄されて事実上失脚されたのは偶然とは思えませんでしょう? ということは、ルートヴィヒ殿下やフリードリヒ陛下とのお噂は、聖者様を力尽くで我が物にしようとして勇者様に制裁を加えられたマキシミリアン殿下の醜聞を隠すためのフェイクと取るのが正統ではなくて?」
マキシミリアン殿下なんて会ったことない!
会場内にいれば自ずと耳に入ってくる貴族のご令嬢たちの噂話というか萌え語りはエキサイトする一方で、そこから先は、推しカップリングの相違からくる腐女子同士のマウント合戦になっていた……。
――これは一体どういうことだってばよ!?
ここで話は戻って、貴賓席のフリードリヒ陛下に、エリアスは綺麗な所作で所謂ボウ・アンド・スクレープを、俺は日本風のお辞儀をした後、軽く二言三言交わして挨拶を済ませると、また後ほど会う約束をして御前を後にした。
そうなんだよ。今夜は異世界を股に掛ける貿易商とやらを紹介して貰うのが目的なんだ。
今は、獣人領のレガリアの首飾りに付けられた聖者のメダイユについては目を瞑ることにして、広間へ戻ったのはいいんだが、そこで聞こえて来たのが件の噂話である。
「なあエリー、なんか凄い噂になってるみたいなんだが、どうなってるんだ?」
涼しい顔をしているが当然聞こえているであろうエリアスにこっそり訊いてみると、エリアスは俺の頭を抱えるようにして引き寄せ顳顬に口付けながら話してくれた。
「第一王子マキシミリアン殿下が失脚したのは事実だ。これを受けて第二王子であるルートヴィヒ殿下が近々立太子する。ナナセが同行した殿下の王都脱出はそもそもマキシミリアン殿下のクーデターを避けてのことだったんだ。ルートヴィヒ殿下の王都脱出にも、フリードリヒ陛下の暗殺未遂にも、どちらもナナセが深く絡んでいるからな。これらの件は今後も一切の公式発表はせず、噂や憶測が広がるのに任せ、すべてを有耶無耶にしてしまおうということでヴェイラ王国及び獣人領双方で合意して決着した」
うっ……!
全部俺のせいだった。
サーセンッ……!
そうだよな!
それ全部俺がやらかしてたな!
そして今のでまた異世界腐女子が何人か倒れて大分間引きされた気がするぞ。
深窓の令嬢っていうのは、刺激から遠ざけられて蝶よ花よと育てられるから、ちょっとしたことで気を失うんだよな。
「それから、こういう場には読唇術を使えるものも少なからずいるから唇を読まれないようにしてくれ」
「そ……そうか。エリーもルッ……殿下も陛下も、俺を護るために動いてくれていたんだな……俺、何にも知らなくて……ありがとう」
「ごめん」の代わりに「ありがとう」を言うのもすっかり板についてきたぜ。
ブーケで口元を隠しながら俺がお礼を言うと、ところがエリアスはぽりぽりと顔を掻きながら視線を彷徨わせて言いづらそうに白状した。
「……ナナセのせいではない。責任は主に私にある。クーデターは放置しておいても失敗に終わり、全ては水面下で事が運ぶはずだったんだ。だがナナセが消えてマキシミリアン殿下の関与を疑った私が締め上げてしまって……」
なんだよ! 大体お前のせいかよ!
でも、そういうことだったのか。
三人でコソコソしてるから余程アレなことになってるのかと思ってたぜ。
それでその、マキシミリアン殿下って人は大丈夫なのか?
まだ生きてるのか?
やっぱり王位継承権を放棄する書類にサインさせられて修道院にぶち込まれてたりするんだろうか。
エリアスに訊いてみたけど今日一良い笑顔で「大丈夫だ」と一言返されただけで、それ以上の追及を拒否られてしまった。
あと、もう聞かれてマズイ話は終わったんだから、顳顬に口付けるの止めもいいんだぞ?
異世界腐女子が間引きされると男ばっか残るから、それはそれでキツイものがある。
0
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる