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第一章 聖者降臨
〇一六 力が欲しいか、人の子よ
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突然視界が開け、森の中に水晶の鉱脈が現れたのだ。
光を受けて虹色に乱反射する六角柱のプリズムがそこかしこから生えている。
目の前に広がる光景を一言で言い表すならセーブポイントだ。
だがしかし、あるのは水晶だけじゃない。
そのセーブポイントの中央に、なんと一頭の銀色の雄ライオンがいた。
揃えた前足の間に顔を突っ込む所謂「ごめん寝」スタイルで寝そべっていたのだ。
ホワイトライオンなら見たことあるけど銀毛っていうのは初めて見る。
全身銀色なんだけど丸い耳の先と尻尾の先だけがちょっとだけ黒っぽい。
「ライオン!?」
思わず叫んでしまった刹那、ルッツに睨まれる。
だ、だってさあ、森の中のセーブポイントに銀色のごめん寝ライオンがドーンだぜ?
この衝撃的なビジュアルのインパクトを想像してみて欲しい。
完全にボス戦前のセーブポイントとボスだ。
迂闊にも俺が声を上げてしまったものだからライオンがピクリと反応して顔を上げる。
知性を宿したブルーグレーの瞳と視線が合った。
よく見れば、艶やかな毛並みはところどころ赤黒い血糊に塗れていて、どうやら後ろ脚に怪我を負っているらしい。
多分、あの後ろ足はほとんど千切れていて皮一枚で繋がってる感じだ。
あーこれはアレですわ。
ライオンはボスじゃなくて、ボスを倒すキーアイテムくれるノン・プレイヤー・キャラクターですわ。
会話して、雑魚倒して言われたものを集めて持ってくる収集系のクエスト。
勿論、ゲームじゃないのでクエストはないが。
「……怪我をしているようだ。ナナセ、振り返らずにそのままゆっくり下がれ。絶対に走るな。手負いの獣は危険だ」
そう言ってルッツは手にした弓に矢をつがえる。
え!? ええっ!? まさか殺しちゃうのかよ!?
レッドリストにも載ってる絶滅危惧の危急種だぞ!?
「ル、ルッツ!?」
「あの怪我は野生では致命傷だ。死ぬまでに何日もかかる……」
ルッツは手負いのライオンがせめて長く苦しまないようにとどめを刺そうとしていているのだ。
それはわかるんだが、駄目だ。
それ以上はいけない。
後先のことは考えず、何故だか俺は刹那そう思ったのだ。
「ルッツ待って、なんとかなるかも知れない」
「……どうするつもりだ」
矢をつがえ狙いを定めた姿勢のままでルッツは横目でちらりと俺を見る。
ライオンはこちらの様子をじっと窺っているが、立ち上がる体力もないのか動く気配はない。
「ルッツ、今から目にすることを誰にも言わないで欲しい」
「何か策があるんだな?」
俺が頷くとルッツの視線はライオンとナナセとの間を交互に彷徨っていたが、やがてフッと息を吐いた。
「……わかった。誰にも言わないと約束する。だが少しでも危険だと判断したら迷わず射るからな」
「ああ」
俺の治癒は対象に触れる必要がない。
なるべくならルッツに見られたくなかったので、俺は彼の背後に立ったまま治癒能力を発動した――。
刹那、森の中がそこだけ眩い光に包まれる。
やがてルッツの弓を引き絞る手が緩み、俺を振り返った。
「ナナセ、君は……」
ルッツが二の句を継げずにいる間にライオンが立ち上がる。
傷はすっかり癒えているようだ。
よかった、よかった。
……んん!?
あれ?
もしかして、いや、もしかしくなてもこのライオン治しちゃったら俺たちが襲われるパティーン……!?
駄目じゃん!
やっぱりライオンがボスでした!
いや、違うか。収集系のクエストじゃなくて戦闘クエストだったってやつか。
……っていうゲームだったら良かったんだけどな!
かくなる上は、ルッツ先生あいつです! やっちゃってください!
と、俺が掌クルーッと返して縋るようにルッツを振り仰いだ刹那――。
「……随分と面白い者を連れているな、ルッツ」
「!?」
ラ、ライオンが喋ったー!
「……なんだ。つまらない。もうネタばらししてしまうのか、フリッツ。どうせなら『力が欲しいか、人の子よ』くらい言えよ」
ルッツ!?
ネタばらしってどゆこと!?
「黙っていたらお主は本当に余を射るつもりだったろう。お主がその者を落とすためのダシにされて射られたら敵わん」
「いやいや、幾ら俺でもそこまではしないさ」
「ふん、どうだかな。しかし能力もさることながら、お主が目を付けるだけあってなかなかの器量よな」
「おい、横取りはなしだぞ」
「選ぶのはお主でも余でもないだろう?」
「……それはそうだがっ」
「小芝居を演じるなら、せめて余の見せ場も作っておけばよいものを。気が利かぬな」
「何を言う。そこはフリッツが気が利かせるところだろう」
なんだかよくわからんが、お前ら仲良しかっ!
ここまでくれば、この銀獅子が獣人の獣化した姿でルッツの知人なんだってことは俺にもわかる。
「あの、る、ルッツさん……? どゆこと?」
気の置けない友人といった様子で交わされる軽快な会話に割って入るのは勇気がいったが、大人しく待っていたらいつまで経っても終わりそうにないので俺は自分から説明を求めることにした。
「ん? ああ、紹介がまだだったな。フリッツ、こちらは聖者ナナセ。ナナセ、こちらは獣人領の王、フリードリヒ陛下だ。アルビオン出身のナナセは知らないかもしれないが銀獅子はもれなく獣人領の王族だ。今は獣化しているが普段は人の姿をしている」
待って♡
光を受けて虹色に乱反射する六角柱のプリズムがそこかしこから生えている。
目の前に広がる光景を一言で言い表すならセーブポイントだ。
だがしかし、あるのは水晶だけじゃない。
そのセーブポイントの中央に、なんと一頭の銀色の雄ライオンがいた。
揃えた前足の間に顔を突っ込む所謂「ごめん寝」スタイルで寝そべっていたのだ。
ホワイトライオンなら見たことあるけど銀毛っていうのは初めて見る。
全身銀色なんだけど丸い耳の先と尻尾の先だけがちょっとだけ黒っぽい。
「ライオン!?」
思わず叫んでしまった刹那、ルッツに睨まれる。
だ、だってさあ、森の中のセーブポイントに銀色のごめん寝ライオンがドーンだぜ?
この衝撃的なビジュアルのインパクトを想像してみて欲しい。
完全にボス戦前のセーブポイントとボスだ。
迂闊にも俺が声を上げてしまったものだからライオンがピクリと反応して顔を上げる。
知性を宿したブルーグレーの瞳と視線が合った。
よく見れば、艶やかな毛並みはところどころ赤黒い血糊に塗れていて、どうやら後ろ脚に怪我を負っているらしい。
多分、あの後ろ足はほとんど千切れていて皮一枚で繋がってる感じだ。
あーこれはアレですわ。
ライオンはボスじゃなくて、ボスを倒すキーアイテムくれるノン・プレイヤー・キャラクターですわ。
会話して、雑魚倒して言われたものを集めて持ってくる収集系のクエスト。
勿論、ゲームじゃないのでクエストはないが。
「……怪我をしているようだ。ナナセ、振り返らずにそのままゆっくり下がれ。絶対に走るな。手負いの獣は危険だ」
そう言ってルッツは手にした弓に矢をつがえる。
え!? ええっ!? まさか殺しちゃうのかよ!?
レッドリストにも載ってる絶滅危惧の危急種だぞ!?
「ル、ルッツ!?」
「あの怪我は野生では致命傷だ。死ぬまでに何日もかかる……」
ルッツは手負いのライオンがせめて長く苦しまないようにとどめを刺そうとしていているのだ。
それはわかるんだが、駄目だ。
それ以上はいけない。
後先のことは考えず、何故だか俺は刹那そう思ったのだ。
「ルッツ待って、なんとかなるかも知れない」
「……どうするつもりだ」
矢をつがえ狙いを定めた姿勢のままでルッツは横目でちらりと俺を見る。
ライオンはこちらの様子をじっと窺っているが、立ち上がる体力もないのか動く気配はない。
「ルッツ、今から目にすることを誰にも言わないで欲しい」
「何か策があるんだな?」
俺が頷くとルッツの視線はライオンとナナセとの間を交互に彷徨っていたが、やがてフッと息を吐いた。
「……わかった。誰にも言わないと約束する。だが少しでも危険だと判断したら迷わず射るからな」
「ああ」
俺の治癒は対象に触れる必要がない。
なるべくならルッツに見られたくなかったので、俺は彼の背後に立ったまま治癒能力を発動した――。
刹那、森の中がそこだけ眩い光に包まれる。
やがてルッツの弓を引き絞る手が緩み、俺を振り返った。
「ナナセ、君は……」
ルッツが二の句を継げずにいる間にライオンが立ち上がる。
傷はすっかり癒えているようだ。
よかった、よかった。
……んん!?
あれ?
もしかして、いや、もしかしくなてもこのライオン治しちゃったら俺たちが襲われるパティーン……!?
駄目じゃん!
やっぱりライオンがボスでした!
いや、違うか。収集系のクエストじゃなくて戦闘クエストだったってやつか。
……っていうゲームだったら良かったんだけどな!
かくなる上は、ルッツ先生あいつです! やっちゃってください!
と、俺が掌クルーッと返して縋るようにルッツを振り仰いだ刹那――。
「……随分と面白い者を連れているな、ルッツ」
「!?」
ラ、ライオンが喋ったー!
「……なんだ。つまらない。もうネタばらししてしまうのか、フリッツ。どうせなら『力が欲しいか、人の子よ』くらい言えよ」
ルッツ!?
ネタばらしってどゆこと!?
「黙っていたらお主は本当に余を射るつもりだったろう。お主がその者を落とすためのダシにされて射られたら敵わん」
「いやいや、幾ら俺でもそこまではしないさ」
「ふん、どうだかな。しかし能力もさることながら、お主が目を付けるだけあってなかなかの器量よな」
「おい、横取りはなしだぞ」
「選ぶのはお主でも余でもないだろう?」
「……それはそうだがっ」
「小芝居を演じるなら、せめて余の見せ場も作っておけばよいものを。気が利かぬな」
「何を言う。そこはフリッツが気が利かせるところだろう」
なんだかよくわからんが、お前ら仲良しかっ!
ここまでくれば、この銀獅子が獣人の獣化した姿でルッツの知人なんだってことは俺にもわかる。
「あの、る、ルッツさん……? どゆこと?」
気の置けない友人といった様子で交わされる軽快な会話に割って入るのは勇気がいったが、大人しく待っていたらいつまで経っても終わりそうにないので俺は自分から説明を求めることにした。
「ん? ああ、紹介がまだだったな。フリッツ、こちらは聖者ナナセ。ナナセ、こちらは獣人領の王、フリードリヒ陛下だ。アルビオン出身のナナセは知らないかもしれないが銀獅子はもれなく獣人領の王族だ。今は獣化しているが普段は人の姿をしている」
待って♡
10
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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