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第一章 聖者降臨
〇一〇 「俺死す」 ※エリアス視点
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魔王を倒したらナナセに結婚を申し込むと決めたのは、前者より後者の方が圧倒的に難易度が高いと判断したからに他ならない。
魔王の首でも取って自信を付け己を鼓舞しなければ挑めなかった。
出会いは私が聖剣によって勇者に選出される数カ月前、ナナセがこの世界に来てまだ間もない頃だ。
魔王の影響で王都の周辺でも増え始めた魔物の討伐遠征から帰還し、少々纏まった休暇を強制的に取らされた私は暇を持て余していた。
剣の腕を磨く事しかしてこなかった私はこういうとき何もすることがない。
休暇だからといってひとりで屋内でじっとしているのは性分ではないので、私塾の子供たちに剣の稽古でもつけてやろうと診療所に赴くと、子供たちに混ざって座学の授業を受ける見慣れない青年がいたのだ。
それがナナセだった。
一目惚れだった。
全体的に小作りで繊細な印象で、エキゾチックな象牙色の肌は肌理が細かく、その肢体は華奢で一見すると少年のようだが、静謐ともいえる立ち振る舞いで成人と分かる。
サラサラした直毛の黒髪も桜貝のごとき爪も貴族の令嬢並みに手入れが行き届いていて育ちの良さを思わせた。
彫りが深くハッキリとした顔立ちの者が多いこの世界の男たちの目には、ナナセの成人して尚、稚さを留める風貌は性愛の対象として非常に好ましく映ることだろう。
それになによりも、あの目が良い。
神秘的な黒い瞳は感情が読みにくく、あの切れ長の目で流し目でもされたら、どんな男でも誤解してしまう。
所長を見つけてあれは誰なのかと問えば、少し前に異世界から迷い込んで路頭に迷っていたところを保護したら治癒魔法が使えるので住み込みで診療所の手伝いをさせているのだと言う。
風貌に異国情緒が漂うのはそのためか。
まだ言葉が覚束ないようで、教師の言葉を周囲の子供たちに補足して貰いながら授業を受けている。
授業が終わり、声を掛けるタイミングを見計らっていると、ナナセは子供たちに菓子を配り始めた。
しかし、日常会話のお手本は一番身近にいる所長なので案の定……。
「ガキども! おやつじゃぞ!」
所長そっくりの言葉遣いのナナセに子供たちから爆笑が起こる。
これには私も思わず噴出して肩を震わせてしまった。
刹那、不意にナナセの視線がこちらへ動き、目が合った。
ドキリと胸が高鳴るのを感じ、私が動けずにいると、ナナセは真っすぐにこちらへ来て目の前に菓子をひとつ差し出す。
「貴様も食うか?」
……どうやら余りに見過ぎていたため、菓子が欲しいのだと誤解されたらしい。
それほどあからさまに物欲しそうな顔をしていただろうか。
だが切欠という意味ではまたとない僥倖である。
二人で並んで菓子を食べながら公用語の指導を買って出ると、恐らく「いいのか?」というニュアンスで「よかろう」と見上げてくるナナセに、私はいよいよ嬉しくなって笑った。
声をあげて笑ったのなんて一体いつ振りだろうか。
――きっと、何者にも私の孤独を埋めることは出来ないだろう。
けれどただ、彼の側にいれば少しだけそれを忘れて笑うことだって出来る。
彼が――彼だけが忘れさせてくれると私は確信した。
恋に落ちるには充分すぎた。
そうして魔王討伐に成功し、意を決して求婚した直後のことだ。
異変に気付くのが遅れたのは失態だったが、ナナセが何か良からぬ媚薬の類を盛られたか、若しくは魔法の仕業であることはすぐに分かった。
なにしろあの容姿だ。狙っている輩は多い。
加えて理解力が高く、頭も悪くない。
少し話しただけで高度な教育を受けていたことが伺えることから、単なる遊びではなく是非とも本妻に迎えたいと本気で考える者も多いだろう。
斯く言う私もその一人ではあるのだが。
少しでもお近づきになろうとわざと怪我を負い、診療所へ通ううちに自傷癖に目覚めてしまった者もいるくらいだ。
隙あらば言い寄ろうとする悪い虫は私がどれだけ牽制しても際限なく湧いて出る。
一服盛ろうとしたり、如何わしい魔法を試そうとしたり、疚しいことを企てた不届きな輩がいてもおかしくない。
寧ろ、今までいなかったことのほうがおかしいのだ。
果たして、本人申告によれば治癒能力を行使した後はいつもこうなるようで、害意のある他者の仕業ではないとのことだった。
私の知る限り、そのような代償を必要とする聖魔法はない。
あるとすればそれは、闇魔法と呼ばれる類のものだ。
だとするなら子種を贄としていると考えれば説明がつく。
しかし、闇魔法は失伝して久しい――。
私はそこで思考するのを止めた。
寝室へ運び、ベッドへと横たえたナナセが切れ長の目尻に真珠の涙を滲ませ、自慰に耽りながら熱い吐息の合間に「お願い」と私の腕に縋りついてきたからだ。
黒曜石の瞳は涙に潤み、上気した頬は薔薇色に染まり、華奢な肢体は快楽に戦慄き、普段の静謐な印象は鳴りを潜め、淫らに腰を揺らめかせている。
この誘惑に抗える男がいるだろうか。
堪らない。
私は明日の式典の予行練習を抜け出して来たことも、求婚しに来たことも忘れて思うさまその唇を貪った。
どれほど恋焦がれ、幾度眠れぬ夜を過ごしたか知れない。
闇魔法の影響か本来の資質か、ナナセの身体はどこもかしこも敏感なようで、乳嘴を愛撫するだけであられもなく乱れて見せる。
脚を広げさせ、解しながら中の具合を探れば、そこがまだ誰にも犯されたことがない領域であることはすぐに知れた。
訊けば口付けさえも初めてだったと返されて唖然とする。
この幸運を逃してなるものか。
私はナナセの初めての男になった。
勿論、二度目も三度目も他の者に譲る気はない。
気が狂うほど彼に溺れた。
誰かをこれほど求めたことはない。
ナナセの中で一回果てたくらいでは到底足りなかった。
闇魔法の代償分はそれで充分だったのだが、私が足りなかったのだ。
私が中で二回果てた時には、見た目に違わぬ体力のナナセには負担が大きかったようで抱き潰してしまっていた。
魔王の首でも取って自信を付け己を鼓舞しなければ挑めなかった。
出会いは私が聖剣によって勇者に選出される数カ月前、ナナセがこの世界に来てまだ間もない頃だ。
魔王の影響で王都の周辺でも増え始めた魔物の討伐遠征から帰還し、少々纏まった休暇を強制的に取らされた私は暇を持て余していた。
剣の腕を磨く事しかしてこなかった私はこういうとき何もすることがない。
休暇だからといってひとりで屋内でじっとしているのは性分ではないので、私塾の子供たちに剣の稽古でもつけてやろうと診療所に赴くと、子供たちに混ざって座学の授業を受ける見慣れない青年がいたのだ。
それがナナセだった。
一目惚れだった。
全体的に小作りで繊細な印象で、エキゾチックな象牙色の肌は肌理が細かく、その肢体は華奢で一見すると少年のようだが、静謐ともいえる立ち振る舞いで成人と分かる。
サラサラした直毛の黒髪も桜貝のごとき爪も貴族の令嬢並みに手入れが行き届いていて育ちの良さを思わせた。
彫りが深くハッキリとした顔立ちの者が多いこの世界の男たちの目には、ナナセの成人して尚、稚さを留める風貌は性愛の対象として非常に好ましく映ることだろう。
それになによりも、あの目が良い。
神秘的な黒い瞳は感情が読みにくく、あの切れ長の目で流し目でもされたら、どんな男でも誤解してしまう。
所長を見つけてあれは誰なのかと問えば、少し前に異世界から迷い込んで路頭に迷っていたところを保護したら治癒魔法が使えるので住み込みで診療所の手伝いをさせているのだと言う。
風貌に異国情緒が漂うのはそのためか。
まだ言葉が覚束ないようで、教師の言葉を周囲の子供たちに補足して貰いながら授業を受けている。
授業が終わり、声を掛けるタイミングを見計らっていると、ナナセは子供たちに菓子を配り始めた。
しかし、日常会話のお手本は一番身近にいる所長なので案の定……。
「ガキども! おやつじゃぞ!」
所長そっくりの言葉遣いのナナセに子供たちから爆笑が起こる。
これには私も思わず噴出して肩を震わせてしまった。
刹那、不意にナナセの視線がこちらへ動き、目が合った。
ドキリと胸が高鳴るのを感じ、私が動けずにいると、ナナセは真っすぐにこちらへ来て目の前に菓子をひとつ差し出す。
「貴様も食うか?」
……どうやら余りに見過ぎていたため、菓子が欲しいのだと誤解されたらしい。
それほどあからさまに物欲しそうな顔をしていただろうか。
だが切欠という意味ではまたとない僥倖である。
二人で並んで菓子を食べながら公用語の指導を買って出ると、恐らく「いいのか?」というニュアンスで「よかろう」と見上げてくるナナセに、私はいよいよ嬉しくなって笑った。
声をあげて笑ったのなんて一体いつ振りだろうか。
――きっと、何者にも私の孤独を埋めることは出来ないだろう。
けれどただ、彼の側にいれば少しだけそれを忘れて笑うことだって出来る。
彼が――彼だけが忘れさせてくれると私は確信した。
恋に落ちるには充分すぎた。
そうして魔王討伐に成功し、意を決して求婚した直後のことだ。
異変に気付くのが遅れたのは失態だったが、ナナセが何か良からぬ媚薬の類を盛られたか、若しくは魔法の仕業であることはすぐに分かった。
なにしろあの容姿だ。狙っている輩は多い。
加えて理解力が高く、頭も悪くない。
少し話しただけで高度な教育を受けていたことが伺えることから、単なる遊びではなく是非とも本妻に迎えたいと本気で考える者も多いだろう。
斯く言う私もその一人ではあるのだが。
少しでもお近づきになろうとわざと怪我を負い、診療所へ通ううちに自傷癖に目覚めてしまった者もいるくらいだ。
隙あらば言い寄ろうとする悪い虫は私がどれだけ牽制しても際限なく湧いて出る。
一服盛ろうとしたり、如何わしい魔法を試そうとしたり、疚しいことを企てた不届きな輩がいてもおかしくない。
寧ろ、今までいなかったことのほうがおかしいのだ。
果たして、本人申告によれば治癒能力を行使した後はいつもこうなるようで、害意のある他者の仕業ではないとのことだった。
私の知る限り、そのような代償を必要とする聖魔法はない。
あるとすればそれは、闇魔法と呼ばれる類のものだ。
だとするなら子種を贄としていると考えれば説明がつく。
しかし、闇魔法は失伝して久しい――。
私はそこで思考するのを止めた。
寝室へ運び、ベッドへと横たえたナナセが切れ長の目尻に真珠の涙を滲ませ、自慰に耽りながら熱い吐息の合間に「お願い」と私の腕に縋りついてきたからだ。
黒曜石の瞳は涙に潤み、上気した頬は薔薇色に染まり、華奢な肢体は快楽に戦慄き、普段の静謐な印象は鳴りを潜め、淫らに腰を揺らめかせている。
この誘惑に抗える男がいるだろうか。
堪らない。
私は明日の式典の予行練習を抜け出して来たことも、求婚しに来たことも忘れて思うさまその唇を貪った。
どれほど恋焦がれ、幾度眠れぬ夜を過ごしたか知れない。
闇魔法の影響か本来の資質か、ナナセの身体はどこもかしこも敏感なようで、乳嘴を愛撫するだけであられもなく乱れて見せる。
脚を広げさせ、解しながら中の具合を探れば、そこがまだ誰にも犯されたことがない領域であることはすぐに知れた。
訊けば口付けさえも初めてだったと返されて唖然とする。
この幸運を逃してなるものか。
私はナナセの初めての男になった。
勿論、二度目も三度目も他の者に譲る気はない。
気が狂うほど彼に溺れた。
誰かをこれほど求めたことはない。
ナナセの中で一回果てたくらいでは到底足りなかった。
闇魔法の代償分はそれで充分だったのだが、私が足りなかったのだ。
私が中で二回果てた時には、見た目に違わぬ体力のナナセには負担が大きかったようで抱き潰してしまっていた。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
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