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第一章 聖者降臨
〇〇五 イケメンの壁ドンしゅごい
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用が済んだらどうぞお引き取りください勇者様。
けれどエリアスは断られることを半ば想定していたようで俺の言葉に少しも動じなかった。
「私が勇者だからですか」
エリアスは跪いたまま俺の手に縋りつき、食らいつくように見上げてくる。
少しでも可能性があれば食い下がる。
なければ自ら切り開く。
エリアスがそういう男だったからこそ魔王を倒せたのだろう。
強い光を宿す、淡褐色と淡緑色の入り混じる榛色の瞳に絡め取られて、俺なんかは最早視線を逸らすこともできない。
言葉を失っている俺にエリアスは尚も続ける。
「だとしたらそれはとんだ見当違いです。あなたの前では私はただの憐れな恋の奴隷に過ぎません。もしもあなたに少しでも慈悲の心があるなら、この惨めな男に情を掛けて頂けませんか」
せ、赤面するー!
こんなハイレベル且つハイスペックなイケメンにそんなこと言われたら男の俺でも赤面するわ!
そんで、ついでにドン引きだわ!
なあなあ、外国人の男ってのは、どうしてこう息をするように歯の浮くような科白がすらすら出てくるの?
俺が知らないだけで、なんかそういう検定でもあってどこかで特殊な訓練受けてるわけ?
朧げに匂わすことを美徳ととらえ、愛してるだとか好きだとかなんて「月が綺麗ですね」で済ませるし、必要な伝達事項さえ「察しろ」って言っちゃうような封建的な日本人社会に慣れた俺は眩暈がして倒れそうになるんだが、既の所で何とか踏みとどまる。
何事も言葉を額面通りに受け止めてはいけない。
だって俺は気付いてしまったんだ。
多分、俺には分かりすぎるくらいに分かってしまった。
何しろ他に理由がない。
どういうことかというと、つまり、目当ては俺の治癒能力だろう。
実際、俺の出鱈目な治癒能力はこの世界でも破格に貴重なものなのだ。
それを裏付けるようにうちの診療所も貴族からの寄付だけで運営できている。
俺をこの国に留めておくために女王陛下がエリアスに一種の政略結婚を命じたに違いない。
この国、同性なら重婚できるしな。
モテ男のエリアスの配偶者にミジンコ一匹増えても問題なかろうと。
縦社会怖い。
うわ、これならすべての辻褄が合う。
思い付きだったけど、信憑性あるどころかもうこれ確実じゃね?
よかった。勇者様のフラグは立ってなかったんだ。
そうでもなければ貴族で勇者でイケメンのエリアスが喪男で童貞でフツメンの擬人化の俺なんかに結婚を申し込むなんて、いくら異世界でもあるはずがない。
そうと分かればエリアスには可及的速やかにお引き取り頂いて、爆発寸前のナニを何とかしないと……。
「あの、誤解しないで欲しいんだけど、相手が誰でも俺の返事は同じです」
エリアスの絡みつくような熱い視線に気圧されつつも俺は続けた。
「勇者様もご存知のように俺は異世界から来ました。そしていずれ帰るつもりでいます。だからこの世界に生活の拠点を移すつもりはありません」
「……故郷へ帰りたいのですか?」
「そりゃあ勿論帰りたいです」
当然だ。
家族だって友達だってみんなあっちにいる。
ぶっちゃけ、ゲームもしたいしアニメも観たいしエロ動画も漁りたいんだよ俺は。
それに、この世界では剣も魔法も本物で現実なのだ。
元の世界ではそれらが偽物で虚構だったからこそ俺は魅了され、中二病に罹患した。
求めるのはいつだって扱い難い本物ではなく、自分に都合のいい偽物だろう?
俺は自分の身の丈を知っている。
だからな?
俺も帰るから、お前も帰れ。
「やはり、あちらの世界に想う男がいらっしゃるのですね……」
「ファッ!?」
淫夢語で驚く程度にはその発想はなかった。
にしても何故男なの!?
そこは普通に女でよくない!?
や、女でも男でもそんな相手いねえけど!
俺の喪男っぷりを過小評価しないで頂きたい。
でも考えてみたらエリアスも気の毒だよな。
専制君主国家では女王陛下の命令は絶対で、勇者といえど騎士に求められる忠誠心なんて社畜の比じゃあないだろう。
これ、どうしたらいいんだ?
今のままじゃ互いに平行線で誰も幸せにならない。
エリアスの立場的に女王陛下に「無理でした」とも言えないだろ。
このままじゃ板挟みじゃん。
下手したら処罰を受けるかもしれないしさ。可哀想だ。
女王陛下を納得させられるような何か上手い口実がないものか。
けれどミジンコの脳味噌で考えたところでなんも思いつかない。
すまん。だめだったわ。
それを見計らったようにエリアスは不意に俺の手を離し立ち上がって距離を詰める。
漸く手を解放されたのにほっとする間もない。
上から見下ろされる妙な圧に耐えつつ、俺は股間を庇いながら無意識に後退りした。
だが、狭い室内ではあっという間に壁際に追い詰められてしまう。
そこへすかさずエリアスが俺の頭を囲い込むように壁に手をつく。
あ、俺これ知ってる!
マックでJKが言ってた!
これ壁ドンってやつでしょ!
これは女子が騒ぐの分かる気がする。
至近距離で見ると迫力が凄い。
異世界のイケメンの壁ドンしゅごい……。
榛色の瞳にはなんだか切なげな光が揺れてるし、至近距離で見ても顔面偏差値しゅごいの……。
そして俺の股間もしゅごいことになってきたぞ。
しかしエリアスはそんな俺の反応の何をどう誤解したのか確信したように頷いて、言った。
「でしたら私はその方に決闘を申し込みます」
待って♡
ねえ、待って♡
話が飛躍し過ぎだから!
まずは話し合お?
何でも筋肉で解決しようとするのよくないと思うんだ俺。
勇者様、俺の世界へカチコミに行く気なの?
この世界に俺を留めておくために元の世界への未練は潰しておくつもりなの?
勇者様と決闘したら普通の人間は死んじゃうからな。
魔王だって死んじゃったくらいだからな。
ここへきて初めて俺の相手が非実在でよかったと思えるな。
決闘で死ぬ子なんていなかったんだ。
まあ、俺の息子は今にも死にそうなんだがな。
けれどエリアスは断られることを半ば想定していたようで俺の言葉に少しも動じなかった。
「私が勇者だからですか」
エリアスは跪いたまま俺の手に縋りつき、食らいつくように見上げてくる。
少しでも可能性があれば食い下がる。
なければ自ら切り開く。
エリアスがそういう男だったからこそ魔王を倒せたのだろう。
強い光を宿す、淡褐色と淡緑色の入り混じる榛色の瞳に絡め取られて、俺なんかは最早視線を逸らすこともできない。
言葉を失っている俺にエリアスは尚も続ける。
「だとしたらそれはとんだ見当違いです。あなたの前では私はただの憐れな恋の奴隷に過ぎません。もしもあなたに少しでも慈悲の心があるなら、この惨めな男に情を掛けて頂けませんか」
せ、赤面するー!
こんなハイレベル且つハイスペックなイケメンにそんなこと言われたら男の俺でも赤面するわ!
そんで、ついでにドン引きだわ!
なあなあ、外国人の男ってのは、どうしてこう息をするように歯の浮くような科白がすらすら出てくるの?
俺が知らないだけで、なんかそういう検定でもあってどこかで特殊な訓練受けてるわけ?
朧げに匂わすことを美徳ととらえ、愛してるだとか好きだとかなんて「月が綺麗ですね」で済ませるし、必要な伝達事項さえ「察しろ」って言っちゃうような封建的な日本人社会に慣れた俺は眩暈がして倒れそうになるんだが、既の所で何とか踏みとどまる。
何事も言葉を額面通りに受け止めてはいけない。
だって俺は気付いてしまったんだ。
多分、俺には分かりすぎるくらいに分かってしまった。
何しろ他に理由がない。
どういうことかというと、つまり、目当ては俺の治癒能力だろう。
実際、俺の出鱈目な治癒能力はこの世界でも破格に貴重なものなのだ。
それを裏付けるようにうちの診療所も貴族からの寄付だけで運営できている。
俺をこの国に留めておくために女王陛下がエリアスに一種の政略結婚を命じたに違いない。
この国、同性なら重婚できるしな。
モテ男のエリアスの配偶者にミジンコ一匹増えても問題なかろうと。
縦社会怖い。
うわ、これならすべての辻褄が合う。
思い付きだったけど、信憑性あるどころかもうこれ確実じゃね?
よかった。勇者様のフラグは立ってなかったんだ。
そうでもなければ貴族で勇者でイケメンのエリアスが喪男で童貞でフツメンの擬人化の俺なんかに結婚を申し込むなんて、いくら異世界でもあるはずがない。
そうと分かればエリアスには可及的速やかにお引き取り頂いて、爆発寸前のナニを何とかしないと……。
「あの、誤解しないで欲しいんだけど、相手が誰でも俺の返事は同じです」
エリアスの絡みつくような熱い視線に気圧されつつも俺は続けた。
「勇者様もご存知のように俺は異世界から来ました。そしていずれ帰るつもりでいます。だからこの世界に生活の拠点を移すつもりはありません」
「……故郷へ帰りたいのですか?」
「そりゃあ勿論帰りたいです」
当然だ。
家族だって友達だってみんなあっちにいる。
ぶっちゃけ、ゲームもしたいしアニメも観たいしエロ動画も漁りたいんだよ俺は。
それに、この世界では剣も魔法も本物で現実なのだ。
元の世界ではそれらが偽物で虚構だったからこそ俺は魅了され、中二病に罹患した。
求めるのはいつだって扱い難い本物ではなく、自分に都合のいい偽物だろう?
俺は自分の身の丈を知っている。
だからな?
俺も帰るから、お前も帰れ。
「やはり、あちらの世界に想う男がいらっしゃるのですね……」
「ファッ!?」
淫夢語で驚く程度にはその発想はなかった。
にしても何故男なの!?
そこは普通に女でよくない!?
や、女でも男でもそんな相手いねえけど!
俺の喪男っぷりを過小評価しないで頂きたい。
でも考えてみたらエリアスも気の毒だよな。
専制君主国家では女王陛下の命令は絶対で、勇者といえど騎士に求められる忠誠心なんて社畜の比じゃあないだろう。
これ、どうしたらいいんだ?
今のままじゃ互いに平行線で誰も幸せにならない。
エリアスの立場的に女王陛下に「無理でした」とも言えないだろ。
このままじゃ板挟みじゃん。
下手したら処罰を受けるかもしれないしさ。可哀想だ。
女王陛下を納得させられるような何か上手い口実がないものか。
けれどミジンコの脳味噌で考えたところでなんも思いつかない。
すまん。だめだったわ。
それを見計らったようにエリアスは不意に俺の手を離し立ち上がって距離を詰める。
漸く手を解放されたのにほっとする間もない。
上から見下ろされる妙な圧に耐えつつ、俺は股間を庇いながら無意識に後退りした。
だが、狭い室内ではあっという間に壁際に追い詰められてしまう。
そこへすかさずエリアスが俺の頭を囲い込むように壁に手をつく。
あ、俺これ知ってる!
マックでJKが言ってた!
これ壁ドンってやつでしょ!
これは女子が騒ぐの分かる気がする。
至近距離で見ると迫力が凄い。
異世界のイケメンの壁ドンしゅごい……。
榛色の瞳にはなんだか切なげな光が揺れてるし、至近距離で見ても顔面偏差値しゅごいの……。
そして俺の股間もしゅごいことになってきたぞ。
しかしエリアスはそんな俺の反応の何をどう誤解したのか確信したように頷いて、言った。
「でしたら私はその方に決闘を申し込みます」
待って♡
ねえ、待って♡
話が飛躍し過ぎだから!
まずは話し合お?
何でも筋肉で解決しようとするのよくないと思うんだ俺。
勇者様、俺の世界へカチコミに行く気なの?
この世界に俺を留めておくために元の世界への未練は潰しておくつもりなの?
勇者様と決闘したら普通の人間は死んじゃうからな。
魔王だって死んじゃったくらいだからな。
ここへきて初めて俺の相手が非実在でよかったと思えるな。
決闘で死ぬ子なんていなかったんだ。
まあ、俺の息子は今にも死にそうなんだがな。
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異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨
📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)
次章続巻も順次刊行予定
OLOLON
※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
第一章 聖者降臨
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