異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが

マハラメリノ

文字の大きさ
上 下
6 / 266
第一章 聖者降臨

〇〇五 イケメンの壁ドンしゅごい

しおりを挟む
用が済んだらどうぞお引き取りください勇者様。
けれどエリアスは断られることを半ば想定していたようで俺の言葉に少しも動じなかった。

「私が勇者だからですか」

エリアスは跪いたまま俺の手に縋りつき、食らいつくように見上げてくる。
少しでも可能性があれば食い下がる。
なければ自ら切り開く。
エリアスがそういう男だったからこそ魔王を倒せたのだろう。
強い光を宿す、淡褐色と淡緑色の入り混じる榛色ヘイゼルの瞳に絡め取られて、俺なんかは最早視線を逸らすこともできない。
言葉を失っている俺にエリアスは尚も続ける。

「だとしたらそれはとんだ見当違いです。あなたの前では私はただの憐れな恋の奴隷に過ぎません。もしもあなたに少しでも慈悲の心があるなら、この惨めな男に情を掛けて頂けませんか」

せ、赤面するー!
こんなハイレベル且つハイスペックなイケメンにそんなこと言われたら男の俺でも赤面するわ!
そんで、ついでにドン引きだわ!
なあなあ、外国人の男ってのは、どうしてこう息をするように歯の浮くような科白がすらすら出てくるの?
俺が知らないだけで、なんかそういう検定でもあってどこかで特殊な訓練受けてるわけ?
朧げに匂わすことを美徳ととらえ、愛してるだとか好きだとかなんて「月が綺麗ですね」で済ませるし、必要な伝達事項さえ「察しろ」って言っちゃうような封建的な日本人社会に慣れた俺は眩暈がして倒れそうになるんだが、既の所で何とか踏みとどまる。

何事も言葉を額面通りに受け止めてはいけない。
だって俺は気付いてしまったんだ。
多分、俺には分かりすぎるくらいに分かってしまった。
何しろ他に理由がない。

どういうことかというと、つまり、目当ては俺の治癒能力だろう。
実際、俺の出鱈目な治癒能力はこの世界でも破格に貴重なものなのだ。
それを裏付けるようにうちの診療所も貴族からの寄付だけで運営できている。
俺をこの国に留めておくために女王陛下がエリアスに一種の政略結婚を命じたに違いない。
この国、同性なら重婚できるしな。
モテ男のエリアスの配偶者にミジンコ一匹増えても問題なかろうと。
縦社会怖い。
うわ、これならすべての辻褄が合う。
思い付きだったけど、信憑性あるどころかもうこれ確実じゃね?
よかった。勇者様のフラグは立ってなかったんだ。

そうでもなければ貴族で勇者でイケメンのエリアスが喪男で童貞でフツメンの擬人化の俺なんかに結婚を申し込むなんて、いくら異世界でもあるはずがない。
そうと分かればエリアスには可及的速やかにお引き取り頂いて、爆発寸前のナニを何とかしないと……。

「あの、誤解しないで欲しいんだけど、相手が誰でも俺の返事は同じです」

エリアスの絡みつくような熱い視線に気圧されつつも俺は続けた。

「勇者様もご存知のように俺は異世界から来ました。そしていずれ帰るつもりでいます。だからこの世界に生活の拠点を移すつもりはありません」
「……故郷へ帰りたいのですか?」
「そりゃあ勿論帰りたいです」

当然だ。
家族だって友達だってみんなあっちにいる。
ぶっちゃけ、ゲームもしたいしアニメも観たいしエロ動画も漁りたいんだよ俺は。
それに、この世界では剣も魔法も本物で現実なのだ。
元の世界ではそれらが偽物で虚構だったからこそ俺は魅了され、中二病に罹患した。
求めるのはいつだって扱い難い本物ではなく、自分に都合のいい偽物だろう?
俺は自分の身の丈を知っている。
だからな?
俺も帰るから、お前も帰れ。

「やはり、あちらの世界に想う男がいらっしゃるのですね……」
「ファッ!?」

淫夢語で驚く程度にはその発想はなかった。
にしても何故男なの!?
そこは普通に女でよくない!?
や、女でも男でもそんな相手いねえけど!
俺の喪男っぷりを過小評価しないで頂きたい。

でも考えてみたらエリアスも気の毒だよな。
専制君主国家では女王陛下の命令は絶対で、勇者といえど騎士に求められる忠誠心なんて社畜の比じゃあないだろう。
これ、どうしたらいいんだ?
今のままじゃ互いに平行線で誰も幸せにならない。
エリアスの立場的に女王陛下に「無理でした」とも言えないだろ。
このままじゃ板挟みじゃん。
下手したら処罰を受けるかもしれないしさ。可哀想だ。
女王陛下を納得させられるような何か上手い口実がないものか。
けれどミジンコの脳味噌で考えたところでなんも思いつかない。
すまん。だめだったわ。

それを見計らったようにエリアスは不意に俺の手を離し立ち上がって距離を詰める。
漸く手を解放されたのにほっとする間もない。
上から見下ろされる妙な圧に耐えつつ、俺は股間を庇いながら無意識に後退りした。
だが、狭い室内ではあっという間に壁際に追い詰められてしまう。
そこへすかさずエリアスが俺の頭を囲い込むように壁に手をつく。

あ、俺これ知ってる!
マックでJKが言ってた!
これ壁ドンってやつでしょ!
これは女子が騒ぐの分かる気がする。
至近距離で見ると迫力が凄い。
異世界のイケメンの壁ドンしゅごい……。
榛色の瞳にはなんだか切なげな光が揺れてるし、至近距離で見ても顔面偏差値しゅごいの……。
そして俺の股間もしゅごいことになってきたぞ。
しかしエリアスはそんな俺の反応の何をどう誤解したのか確信したように頷いて、言った。

「でしたら私はその方に決闘を申し込みます」

待って♡
ねえ、待って♡
話が飛躍し過ぎだから!
まずは話し合お?
何でも筋肉で解決しようとするのよくないと思うんだ俺。
勇者様、俺の世界へカチコミに行く気なの?
この世界に俺を留めておくために元の世界への未練は潰しておくつもりなの?
勇者様と決闘したら普通の人間は死んじゃうからな。
魔王だって死んじゃったくらいだからな。
ここへきて初めて俺の相手が非実在でよかったと思えるな。
決闘で死ぬ子なんていなかったんだ。
まあ、俺の息子は今にも死にそうなんだがな。
しおりを挟む
異世界で聖者やってたら勇者に求婚されたんだが
第一章 聖者降臨


📖文庫版(紙の書籍)
📖Kindle(電子書籍)
📖BOOK☆WALKER(電子書籍)

次章続巻も順次刊行予定
OLOLON

※この作品の出版権は作者本人に帰属しています。詳しくはこちらを参照してください。
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...