18 / 18
〇一七 キス、キスキスキス!
しおりを挟む
エレベーターの扉が開くと、ヒュウガがスマートフォンを握りしめたまま忙しなくロビーのソファーに座ったり立ったりしてウロウロしているのが見えた。
「ヒュウガ?」
「ノゾミ!」
ヒュウガは私の姿を見るや否や、大股で駆け寄って来たかと思うと、その広い胸の中に私をそのまま抱き締めた。
恋人同士でもないのにこの抱擁は何。
どういうことなの。
でも、ヒュウガの腕の中は心地良過ぎて抗い難かった。
ドキドキするのに不思議と安心する。
それになんて良い匂い。
嗅いだことがない匂いだから香水を何種類か合わせて着けているのかも知れない。
「……ホ、ホントに来たのね。びっくりした……」
照れ隠しでそう言うと、ヒュウガは割と真剣な声で答える。
「好きな女を一人で泣かせておけるかよ」
……えっ!?
今、好きな女って言った?
驚いて顔を上げると、ヒュウガも気付いて、「しまった」という顔で私を見た。
「……いや、その……こんな風に言うつもりじゃなかったんだ」
お互いちょっと視線を合わせられる状態じゃなくて、でも離れ難くて抱き合ったままで変な空気が流れる。
「やり直しを要求する」
「ど、どうぞ」
私がそう言うと、ヒュウガは一度深呼吸して抱き締めていた腕を解いた。
それから改めて両手で私の頬を包み込む。
「ノゾミ、ずっと好きだった。俺と付き合ってくれ」
それは、ごちゃごちゃと言い訳や屁理屈を捏ね繰り回さずシンプルな告白だった。
だからこそ私も自分の気持ちに素直になれた。
「私も好き……」
この人が好き。
ヒュウガが好きだ。
今それがはっきりとわかった。
火村さんと水瀬さんに言われた通り、私は肩書だとか何だとかに囚われ過ぎていたんだ。
ヒュウガは私が好きで、私もヒュウガが好き。
答えはこんなにシンプルなことだったのに。
ヒュウガが私にそれを教えてくれた。
自分の気持ちに気付かせてくれた。
きっと、こんな素敵な人にはもう一生出逢えない。
「……それって、付き合ってもいいってことか?」
「うん」
私がヒュウガの目を見てそう返事をすると、ヒュウガは一瞬瞠目した後、綺麗に笑った。
その笑顔に見惚れているうちにいつの間にか私の唇にヒュウガの唇が重なる。
でも前回と違って今度のそれは触れるだけでは離れてくれなかったのだった。
ここ、ホテルのロビーなんだけど、フランスだから私たちのことは誰も気にしない。
むしろ保護色かってくらいフランスの日常の景色に溶け込んでいたんじゃないだろうか。
その夜から、私とヒュウガは付き合うことになった。
幼馴染とはいえ、再会してまだ数日だと言うのになんたる急展開。
だけど私たちはもう気付いている。
恋に時間なんて関係ないのだ。
こうなった経緯は、今日一日で、あの電話に乱入してきた謎の男カノくんといい、レストランで会ったデザイナーのヨウマソゴウといい、ヒュウガの良い男っぷりが際立つ事件が連続して起こったのも加担していたと思う。
雨降って地固まるというかなんというか。
ヒュウガはそれから、例のカノくんに乱入されて中途半端なところで電話を切らざるを得なかったことを気にしていてこちらに向かっていたということを話してくれた。
その最中で到着する前に一度連絡しておこうとしたら電話に出た私の様子がおかしいことに気付き、泣いていることが分かって動転したらしい。
その泣いたって言っても悔し泣きだからね?
「メソメソ」でも「シクシク」でもなく「ギギギ」ってやつだからね?
しかも、ヒュウガの声聞いた途端に涙腺緩んで泣けてきたなんてことはとても言えない。
「外寒いし、見送りはいいからもう部屋に戻れよ」
明日も会う約束をして、別れ際にヒュウガがそう言った。
だけど、私は室内だからとエントランスの扉のところまで着いて行く。
「おやすみ。良い夢を」
そこでまた私たちはキスをした。
「ヒュウガ?」
「ノゾミ!」
ヒュウガは私の姿を見るや否や、大股で駆け寄って来たかと思うと、その広い胸の中に私をそのまま抱き締めた。
恋人同士でもないのにこの抱擁は何。
どういうことなの。
でも、ヒュウガの腕の中は心地良過ぎて抗い難かった。
ドキドキするのに不思議と安心する。
それになんて良い匂い。
嗅いだことがない匂いだから香水を何種類か合わせて着けているのかも知れない。
「……ホ、ホントに来たのね。びっくりした……」
照れ隠しでそう言うと、ヒュウガは割と真剣な声で答える。
「好きな女を一人で泣かせておけるかよ」
……えっ!?
今、好きな女って言った?
驚いて顔を上げると、ヒュウガも気付いて、「しまった」という顔で私を見た。
「……いや、その……こんな風に言うつもりじゃなかったんだ」
お互いちょっと視線を合わせられる状態じゃなくて、でも離れ難くて抱き合ったままで変な空気が流れる。
「やり直しを要求する」
「ど、どうぞ」
私がそう言うと、ヒュウガは一度深呼吸して抱き締めていた腕を解いた。
それから改めて両手で私の頬を包み込む。
「ノゾミ、ずっと好きだった。俺と付き合ってくれ」
それは、ごちゃごちゃと言い訳や屁理屈を捏ね繰り回さずシンプルな告白だった。
だからこそ私も自分の気持ちに素直になれた。
「私も好き……」
この人が好き。
ヒュウガが好きだ。
今それがはっきりとわかった。
火村さんと水瀬さんに言われた通り、私は肩書だとか何だとかに囚われ過ぎていたんだ。
ヒュウガは私が好きで、私もヒュウガが好き。
答えはこんなにシンプルなことだったのに。
ヒュウガが私にそれを教えてくれた。
自分の気持ちに気付かせてくれた。
きっと、こんな素敵な人にはもう一生出逢えない。
「……それって、付き合ってもいいってことか?」
「うん」
私がヒュウガの目を見てそう返事をすると、ヒュウガは一瞬瞠目した後、綺麗に笑った。
その笑顔に見惚れているうちにいつの間にか私の唇にヒュウガの唇が重なる。
でも前回と違って今度のそれは触れるだけでは離れてくれなかったのだった。
ここ、ホテルのロビーなんだけど、フランスだから私たちのことは誰も気にしない。
むしろ保護色かってくらいフランスの日常の景色に溶け込んでいたんじゃないだろうか。
その夜から、私とヒュウガは付き合うことになった。
幼馴染とはいえ、再会してまだ数日だと言うのになんたる急展開。
だけど私たちはもう気付いている。
恋に時間なんて関係ないのだ。
こうなった経緯は、今日一日で、あの電話に乱入してきた謎の男カノくんといい、レストランで会ったデザイナーのヨウマソゴウといい、ヒュウガの良い男っぷりが際立つ事件が連続して起こったのも加担していたと思う。
雨降って地固まるというかなんというか。
ヒュウガはそれから、例のカノくんに乱入されて中途半端なところで電話を切らざるを得なかったことを気にしていてこちらに向かっていたということを話してくれた。
その最中で到着する前に一度連絡しておこうとしたら電話に出た私の様子がおかしいことに気付き、泣いていることが分かって動転したらしい。
その泣いたって言っても悔し泣きだからね?
「メソメソ」でも「シクシク」でもなく「ギギギ」ってやつだからね?
しかも、ヒュウガの声聞いた途端に涙腺緩んで泣けてきたなんてことはとても言えない。
「外寒いし、見送りはいいからもう部屋に戻れよ」
明日も会う約束をして、別れ際にヒュウガがそう言った。
だけど、私は室内だからとエントランスの扉のところまで着いて行く。
「おやすみ。良い夢を」
そこでまた私たちはキスをした。
0
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
ずぶ濡れで帰ったら置き手紙がありました
宵闇 月
恋愛
雨に降られてずぶ濡れで帰ったら同棲していた彼氏からの置き手紙がありーー
私の何がダメだったの?
ずぶ濡れシリーズ第二弾です。
※ 最後まで書き終えてます。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる