夏休み島

つんこ

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出会い

おやすみなさい。

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「メシの時間だよアンタらー!!」
叔母さんによる夕食の合図が家中に響き渡る。
「はーい!」
「今日はかずくんの歓迎会として海の幸を用意しました」

「うわぁー!ありがとう叔母ちゃん!」
「うおー!刺身ぃぃぃ!!」
お兄ちゃんはボク以上に喜んでいる。

「たくや!まーたあさみちゃんに殴られたんでしょ?」
うっ、叔母さん鋭い!
またって事は、頻繁に殴られてるのかな?
お兄ちゃんも頑丈だ!

 「ち、ちげーよ!」
否定はしたものの濁りのある言い方で、叔父さんにも勘付かれてしまった。
「オメー、よえーなたくや」
「ちげーってば!」
必死で否定するお兄ちゃんだが、どうやら戦況は劣勢のようだ。
「どうなの?かずくん」
うっ、叔母さんはボクを落とす戦法に変えてきたか...。
どうしよう。余り嘘はつきたくはないが、お兄ちゃんを裏切るわけにもいかない。
「ボクお刺身はサーモンが一番好きなんだ!」
ボクはとっさに話をはぐらかそうとした。
「がーはっはっはっは!たくや歳下に守られてやんの!」
「う、うるせー!」
どうやらボクの作戦は失敗に終わったようだった。ごめんねお兄ちゃん。


外はすでに真っ暗になり、カエルやセミ、スズムシの歌声が聞こえる。
騒々しい夕食を終えたボクは、長旅の疲れか居間でとてつもない眠気との格闘をしていた。
「かずくん、長旅でもう疲れたでしょ?」
「うん・・・」
「もう部屋で寝ちゃいなさい」
「うん・・・」
でも体を動かすのがだるくて、部屋まで辿りつけそうにない。
「しょうがねぇな」
叔父さんはボクの体を軽々と持ち上げ、部屋まで抱き抱えてくれた。
懐かしい..。昔、お父さんにこうやって抱っこして貰えた気がする。
「よいしょっと」
部屋のお布団までボクを運んでくれた。ボクは「ありがとう叔父さん」と感謝を伝えると、「おうよ」と短い言葉で返事が返ってきた。
最初は怖かった叔父だが、今では漢気があり頼りがいのある叔父に変わっていた。
「なぁボウズ」
「うん?」
「たくやはよぉ。バカでケンカも弱いけど、オメーの兄ちゃんとしていいとこ見せようと頑張ってんだ。だからたまにゃあドジを踏むこともあるとは思うけどよお。それでもあいつのこと、陰ながら支えてやってくれねぇか?」
まるでヤクザ映画のようなセリフだったが、それでもボクを男と認めてくれている気がして嬉しかった。
「うん、ボクお兄ちゃん大好きだよ」
「へへ、そうか。バカってのは否定しないんだな。たくやに言ってやろ」
「えっ!やめてよ!」
「ガハハハ!冗談だ冗談!」
前言撤回。叔父さんは意地悪だ。
「さっさと寝ちまえよ」
「うん。おやすみさない」



今日1日を振り返ると、たった1日の間に沢山の出来事が起きた気がする。
叔父さんと叔母さんの家に行き、お兄ちゃんの舎弟となり、お姉ちゃんの下僕となり、お兄ちゃんはお姉ちゃんにぶたれて宙を飛んだ。
それでも今日出会った人たちはみんないい人ばっかりだ。

いつも明るくて優しい叔母さん。
意地悪だけど漢気のある叔父さん。
ボクと真っ先に友達になってくれた頼りがいのあるお兄ちゃん。
ケンカが強い...チョー強いお姉ちゃん。
この個性的な人たちと共に、ボクはこの島で夏休みの間暮らしていくことになった。
家では味わえない刺激的な日々が待っていそうで楽しみだ。
明日はお兄ちゃんと虫捕りをする約束をした。
今日は早々に寝て明日に備えることにしよう。

ーーそれじゃあ、おやすみなさい。
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