ー竜の民ー 

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奇襲

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(もう夜か…訓練なかなかハードだった…)
俺は愛鳥の名前を考えつつ家に向かって歩いていた。

(ピースケ、モサキチ、ボサボサ…)
自分のセンスの無さに涙が出る

夜はやっぱり暗い。空は星があってまあまあ明るいが、街の中は街灯が少なめだ。


ーヒュオォォォオー

 ⁉ なんの音だ?風、とは違うような…

ピカッ
赤い閃光が走る

「あっ…」

ドゴォ‼ゴボォォォォォォオ‼
「…あ、あぁ…」

石造りの街が業火に焼け落ちる

遠目に見ても分かる。

あれは、“竜”だ。

「竜が…街を……」

カン!カン!カン!カン!

警鐘が鳴り続ける

市民は逃げ惑う

兵団学校の新兵が集まってきた

「おいレイン!アレはいったいなんだ?なんで街が焼けてんだ!」

「あぁヴィルゴ、アレは、竜だよ…」

「竜?なんだそれ!?」

「そうだ!何かしないと!」

「何かって、なんだよ!?」

「アイツを…倒す……」

「倒せるのか⁉…俺たちに……」

焼けてるのはまだ国の端っこだ、早く奴を食い止めるんだ、

ドゴォォォォオ…ドゴォォォォオ…
次々に業火を放つ。

早く…行かないと…
足が震えて上手く走れない。

すると、鳥に乗った上官が近づいてきた
俺たちに駆け寄る。

「地上の対空バリスタ砲は燃えちまった。戦えるのは飛行兵だけだ。少しでも多くの戦力が欲しい。この中に、戦える者はいるか。」

「ドクッ」鼓動がますます速くなる

「…行きます……」
ヴィルゴとトリアンが前に出る

それに続くように、レティ、フォルナ、ロイ、グレイも前に出る。

「お、俺も行きます!」
そうだ、俺は何の為に兵士を目指したんだ、今戦わずに、どこで戦うんだ!

一斉に厩舎へ向かう。

「あ、サニー!」

「レイン!早く、戦わないと!」

サニーは自分の意思で真っ先にここに来ていたようだった。
自分の情けなさを痛感する。

俺の鳥は…、いた、おい…こんな時に草食ってんなよな…

「行くぞ‼」
一斉に飛びたつ。

上空から見ると事態の悲惨さがよく分かる。

端の方の街は真っ赤に燃えていて、ここまで焦げ臭い匂いが充満している。
「キュォォォォォォオ」竜の不気味な声が響く。
熱い… まさに地獄だ。

フローラの援軍もこっちへ向かっている。こんな時でもザギート帝国は動こうとしない。

竜との距離、約300m

「行くぞ‼新兵共‼」 
上官が竜に向けて突撃する。

ブォン… 
上官の軍刀が強い光を放つ。

「食らえ…」

「グォォォォオン…」
竜の苦しそうな声が轟く。

右手の方から新な部隊が飛んできた。

先頭にいるのは…父さん!!

シパパパパパ…

一斉射撃が竜の背中を焦がす。
肉が焼けるきつい匂いが鼻をつく。

「ォォォオ!」 「ボゴォォォォ」

お父さんの部隊に向けて火炎を放射する

「アァァァァ、アアァァ熱い、熱い‼」
数人の兵士が火だるまになって雲の下へ落ちていく。

「ダレン、ヤオラ、ワウロ!」父さんが叫ぶ。


「か弱い新兵にこんなこと言うのは心が痛むのだが、頼む。奴の目をひいてくれ!」上官の指示だ。

「了解‼」
俺たちは竜の顔めがけて突っ込んだ。

ギロ…

竜の大きな目がこっちを見た…

「………」
体が固まってしまった…

「レイン!立派な兵士になるんだろ!しっかりしろ!」
父さんが叫ぶ

ゴクッ…

「お前なら、やれる。」

「クッ、……ッ」
俺は覚悟を決めて竜のすぐそばを旋回する。仲間の新兵もバラバラに散らばって竜を引き付ける。

「ナイス…」
上官が隙を見て竜の右翼の根元を裁つ

「グルルルル…」竜がふらつく。

「グオオオオオオオオ‼‼」
竜がキレて興奮する。口から煙を細切れに吐き、よだれをたらす。

ブォォォオ…
竜が火を吹きながらでたらめに動き回る

「うわぁぁぁあ‼」

「ロイ‼」
ロイが焼き殺される。

竜は上官に狙いを着けて追い回す

「チッ…」
上官は逃げつつ、隙を見て射撃を行う。

「しつこい奴め…」

今いる兵士の中で、最も強い上官が狙われている。満足な攻撃を行える兵士は数少ない。

上官は攻撃の手を止めた。カートリッジが空になったようだ。

「奴の動きを止めろ!翼に攻撃を集中させるんだ!」
父さんが命令を出す。

父さんの部隊が動き回る竜に必死にとりつく。

竜が上官に向けて火炎放射の予備動作にはいる。

「今だ‼」
一瞬の隙をついて、父さんの部隊が電撃魔法を放つ。

「グゲゲゲゲゲゲ…」
竜が痺れて動きを鈍らせる。

「やれ‼とどめをさせ‼」

竜の背後にいたのは俺だけだった。周りの皆は距離を取りすぎている。攻撃が間に合うのは、俺しかいなかった。

しかし、俺の攻撃が、奴の硬い皮膚を貫けるか分からない。

(確実に倒すには…これを使うしかない‼)

俺は自分が知る魔法の中で、最も威力の高い魔法を念じた。

シュッ、刀の鍔にある魔泉発射口から赤い火の粉が吹き出る。火の粉は刀身を伝って先端に集まり、火球となって膨らむ。
(規則なんか関係ない、俺は、やれることをやる‼)

「…っ、墜ちろ‼」

シュバァー… 背後から、竜の左前方へ抜ける。
火球を右翼根元の傷口に押し込んだ。

…、…、…、ポォン!
爆発と共に竜の血が吹き出る

「グキュゥゥゥゥゥウ」

竜はふらつきながら、遠くへ逃げていき、やがて雲の下へ消えて行った。

フローラ兵が到着する。

「竜は!?」
フローラ軍の女性部隊長が問いかける。

「もう追い払いましたよ、ご協力感謝します」
上官が伝える。

街では消火活動が始まっていた。

「石造りの街が崩れ落ちるなんて…」


上官がこちらへ向かってきた。
「良くやってくれた、新兵たち。」

「挨拶が遅れたな、俺はフェニック=ランサーだ。よろしく頼む。」

「先程の活躍、素晴らしかった。」

「良かったら、うちの部隊に入ってくれないか?」

皆困惑したような表情を浮かべる。

「よ、よろしくお願いします‼」

俺たちが、兵士として認められた瞬間だった。










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